第62回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【1日目】
どーもー!
今年もまた『ゲキ部!』のタイムラインが異常に騒がしくなる季節がやってきました。
フジロックも甲子園も隅田川花火大会もいいですが、
高校演劇クラスタのみなさんにとって、夏の風物詩はやっぱり総文!
ということで、今年も開催地・広島から
高校演劇生の1年をかけた最高の晴れ舞台を熱くレポートしてまいります。
どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)
広島市立沼田高校『そらふね』
今年の開催地・広島は、3年前の開催地・長崎とともに、日本にとっては特別な地です。
永い人類史の中でも、二度と繰り返してはいけない悲劇が起きた場所。
戦後70年を超え、改めてその歴史を次代へと語り継ぐように、
今大会では戦争や原爆を題材にした作品がいくつも上演されました。
そのトップバッターが、『そらふね』です。
脚本の黒瀬貴之先生は、過去の全国大会でも繰り返し原爆に関する作品を描き続けてきました。
今回の『そらふね』は原爆投下から10年後の日本が舞台。
戦争の爪痕から少しずつ復興し、人々が生きる強さを取り戻しつつある、
そんな日本の夜明けのような時代で、決して癒えることのない傷を抱えた2人の姉妹を描きます。
舞台美術は、非常に写実的。貧しいバラック小屋が忠実に再現されています。
主人公の姉妹も、決して幼すぎず、かと言って大人っぽくなりすぎず、
20代中盤の等身大の女性像を過不足なく演じているように見えました。
キーとなるのは、亡き母から受け継いだ「そらふね」の物語。
母の死後、姉の昭江はおはなし会として近所の子どもたちに母の物語を語り広め、
そしてクライマックスで妹の多恵子がさらにエピソードを付け足して、
今度は自分が次世代へと語り継ぐ決意を固めます。
その決心が、希望を未来へと運び、広める出発点となるのです。
「今日もご飯を炊こう」という母の言葉も印象的。
日本人にとって白米は生命の粒。
ご飯を炊くということは、自分の命を未来につなぐ行為なんですよね。
序盤ではご飯を焦がした妹・多喜子が、ラストでは上手に炊けていたのが象徴的でした。
生徒講評委員会でも
「ハンカチを持ってこないことを後悔した」
「悦ちゃんのお母さんが、『なんであんただけ生きとるん』と言ったのが大きかった」
「お話の最中に出てくる台風から、どんな人生でも苦難はあるし、
それを乗り越えた先に幸せや自分の居場所があるんだっていうことを感じた」
など、作品のメッセージに強く胸を揺さぶられたようでした。
沼田高校のみなさん、お疲れ様でした!
青森県立青森中央高校『アメイジング・グレイス』
もはや説明不要。高校演劇界の絶対王者として君臨する青森中央高校。
今回も、思わずため息の出るような圧巻の舞台を見せつけれくれました。
鬼ヶ島との国交をつなぐ大使に任命された父に連れられ、
鬼たちの棲む鬼ヶ島へと転校することになった主人公・トモカ。
トモカは人間ゆえに鬼たちから謂われなき迫害を受けますが、
合唱曲『アメイジング・グレイス』の練習を通じて、少しずつ相互理解を深めていきます。
ところが、そんな平穏な日々を一転させる事件が起きてしまい…というストーリー。
舞台は、定番の素舞台。
生身の肉体を使った集団パフォーマンスですべてを表す青森中央の“伝統芸”で
鬼と人間の対立を表現します。
人間の衣裳は、白Tシャツ。対する鬼は赤Tシャツ。
このわかりやすい対比が、数の論理によってパワーバランスが逆転する本作のストーリーを
視覚的にも明確に表していました。
息の揃った集団演技は今回も健在。
特に終盤のサイレンは、スピーカーからSEを流すのではなく、
役者たちが自分の口から発することで、一層おどろおどろしく、
ただのサイレンが怒りの呪詛にも断末魔の叫びにも聞こえるようでした。
生徒講評委員会でも
「平和なんてそんなに簡単じゃないし、戦争はこれからもなくならないのが現実。
でもトモカやサチコがひとりでも立ち向かっていた姿に勇気づけられた」
「お互いの主観がぶつかり合ってかみ合わない結果、戦争やいじめに発展する。
歴史を学ぶということは多様性を持って相手の意見を考えること。
最後にトモカとサチコがふたりだけ手をつないでいたのは、
ふたりが相手のことを思いやれていたから。
そういうことを象徴しているのかなと思った」
など、鋭い洞察が飛び交っていました。
青森中央高校のみなさん、お疲れ様でした!
静岡県立伊東高校『幕が上がらない』
毎年、全国大会では1~2校、賛否の分かれる問題作が登場しますが、
今年はやはりここでしょうか。タイトルから挑発的な『幕が上がらない』。
冒頭から緞帳は閉まったまま。舞台を使わず客席で演技をする。
そんな前代未聞の上演スタイルは、全国大会以前から大きく話題になっていました。
俄然注目を集める中、“幕が上がった”本作。
しかし始まってみれば、むしろ観客を戸惑わせたのは奇抜な上演スタイルより、
彼ら彼女らの演技体だったのではないでしょうか。
控えめに言って、全体の70~80%は聞き取れません。
観客をまるで振り落とすかのように早口で、
あまりに口語的すぎて意味を拾いづらいモノローグ。
それはもう明らかに確信的なもので、
「そう簡単に理解などされてたまるか」という意志がこめられているようでした。
思えば、演劇をする初期動機なんて、
誰かに自分のことをわかってほしい、認めてほしい。
自分のメッセージを伝えたい。
というものがほとんどではないでしょうか。
でも一方で、確かにあの頃、
「そう容易く自分のことをわかられたくない」という
思春期特有の独善的な気高さを胸の奥に秘めていたような気がします。
最先端の流行から取り残されたような僻地で暮らす彼ら彼女らから、
そんな潔癖な尖りを感じたのは私だけでしょうか。
生徒講評委員会でも、
「よくわからなかった」「これは劇じゃない」と率直な声が溢れる一方、
「私たちは本当に舞台の上ならどこへでも行けるのか」
「伊東高校は本当に幕を上げられたのか」という
作品の本質をえぐる興味深い議論が巻き起こっていました。
伊東高校のみなさん、お疲れ様でした!
北海道北見北斗高校『常呂から(TOKORO curler)』
近年、冬季五輪の人気種目として注目を集めつつあるカーリング。
本作は、1980年、カーリングが日本へ初めて輸入された当時の常呂町の人々を描いた物語です。
まずこうした戦争以外の昭和史の断片を題材に取り上げたその着眼点が実に新鮮。
そして、この常呂町からカーリングで世界に羽ばたく人材を輩出しようとする
父・祐一の奮闘ぶりが非常に清々しく、
その愛すべきキャラクターも相まって見ているだけで楽しい気持ちに。
実際にこの常呂町は、後にオリンピアンを多数輩出し、
カーリングの町として知られるわけですから、
そんなバックボーンも知っていると、一層当時の模様に関心が沸いてきます。
また、そこに進路に揺れる主人公の姿が重なることで、物語に広がりが。
微妙な年頃だけに、年甲斐もなく夢を追う父の姿を娘の由美子は反発気味。
でもその苛立ちは、男のロマンに夢中になる父が、
本当は東京に行きたいのに一歩踏み出せない自分と対照的だからこそ。
最後にカーリングを投げようとする由美子に対し、
「何でも良いから、まず投げてみれ。そしたら、進んでくから」という
父のアドバイスが胸に響きます。
きっと人生は、そんなものなんですよね。
生徒講評委員会でも、
お父さんの生き方に支持や共感が集まる一方、
「お母さんが大人だなと思った。家族の状況をいちばん冷静に見て的確なことを言っている」
「どこの家庭でもお母さんの存在って大きい」と母のさり気ない好演も高評価。
また、雪の中を歩くシーンや、雪にスコップを刺すマイムなど、
北海道で暮らす北見北斗ならではのリアリティある所作にも称賛の声が上がりました。
北見北斗高校のみなさん、お疲れ様でした!
広島市立舟入高校 『八月の青い蝶』
静謐な空気の中、幻影的な味わいを堪能できる舞台を見せてくれたのが、舟入高校のみなさん。
こちらも広島と原爆を題材にしていますが、
反戦色というよりも、ひとりの男の遠き夏の日の恋慕と、
半世紀を超えて抱き続けた悔恨が印象的。
格調高い台詞の韻律と、当時の時代を再現したこまやかな衣裳。
ホリゾントに浮かび上がる青い蝶もどこか淫靡で妖しく、
全体の空気づくりに巧みさを感じました。
蝶の標本が象徴的に登場しますが、
ピンで張り付けられた美しい蝶の姿は、
きっと主人公・亮輔の家で囲われて暮らす希恵そのもの。
翅の焼けた蝶を標本にし、生涯手元に置き続けた亮輔は、
決して叶うことのなかった初恋を
自分だけの歴史の中に永遠に閉じこめることができたのでしょう。
それはとても幸福な行為のようにも見えますし、
とても虚しく寂しい行為のようにも見えます。
生徒講評委員会でも
「原爆投下を音を使わず、黄色のホリゾントのみで表現したのが良かった」
「日が変わると希恵さんの浴衣も変わっていたり、
爆弾が投下された後、亮輔たちの服がボロボロになっていたり、
衣裳がすごくつくりこまれていた」
「黒子さんの立ち回りが素敵だと思った。
足音もなく物音も立てずに物を移動させるので、
次に照明がそこに移ったときに、いつの間に物が消えたのかとビックリした。
お仕事をまっとうしている姿がとてもカッコよかった」
と役者の演技はもちろん優れたスタッフワークにも評価の声が上がりました。
舟入高校のみなさん、お疲れ様でした!
初日からクライマックス! 大熱戦の広島総文
話題必至の注目校から全国常連の絶対王者まで、豪華なラインナップとなった1日目。
おかげで初日にもかかわらず早速観客のボルテージはフルMAX状態となりました。
この熱気を2日目へとつなげ、ますます盛り上がっていきたいですね。
『ゲキ部!』では2日目の模様もしっかりレポートしていきます。
会場にいる方も自宅応援組も年に1度の祭典をぜひお見逃しなく!