17歳で全国大会の舞台に立った元JKは今、東大生になっていた。

一般的に、演劇部は文化部の中でも練習時間が長いと言われがち。毎日、日が暮れるまで練習をして、部活と勉強の両立が難しく保護者の方から怒られている現役部員も多いのでは? だけど、本当に部活は学業に悪影響を与えるのだろうか? むしろ部活を頑張ることで、勉強にプラスになることもきっと多いはず。

この春、東京大学に進学した東さんもそのひとり。東さんは高校2年の夏、全国大会の舞台に立つなど高校生活を演劇部に捧げながら、東大現役合格の夢を掴んだ。そんな先輩の背中を参考にしがら、ぜひ勉強と部活の二兎を追いかける高校生活をみんなにも実現してほしい。

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa  Assistant by Saori Yoshitake)

全国の舞台に立って、チームでつくるお芝居の面白さを知った。

東さん3――2013年の夏、『マスク』のサヤカ役で第59回全国高等学校演劇大会の舞台に立った東さん。まずは中部大会から全国への道のりの中で印象的だったことを聞かせてください。

私は中部大会まではトモコという役をやっていて、先輩が卒業したことで新しくサヤカという役をやらせてもらうことになったんです。印象的だったのは、ちょうど全国の1ヶ月前くらいのこと。通しを観た同級生の女の子から「これまで先輩がやっていた芝居をなぞってるだけ。全然あなたらしくない」って言われてしまって…。

――年度切り替えによるキャストの変更は全国出場校にとっても悩ましい課題ですよね。

でも確かにその通りだったんです。それまでは確かに台詞は発しているけど、とりあえず先輩のやってるのをやれば間違いないだろうってのが無意識にあった。だからもう一度、脚本をイチから読み直して、サヤカの感情をひたすら考えるようにしたんです。そしたら、この台詞はどういうことなんやろうって、自分の中で辻褄が合ってないところや詰め切れてない部分がたくさん見えてきました。

――そして、全国の舞台では客席を圧倒するようなお芝居を見せてくれました。本番のことは覚えていますか?

客席の反応は全然わからなかったんです。ただ自分のできることはやりきった気持ちがありました。それに何よりこの全国という舞台で上演を終えることができた嬉しさの方が大きかったですね。あと、全国のすぐあとにその年の県大会の本番が控えてたんで、上演が終わった日から次の大会の稽古のことで頭がいっぱいでした(笑)。

――かなりのハードスケジュールですよね。

はい。だけど、どっちも絶対に中途半端にはしたくなかったんです。全国の日程が地区大会と重なっていたんで、私たちはシードで県大会に出させていただけた。だからこそ、“全国に行ってるから、これくらいで仕方ない”というふうに言わせたくなかったんです。

――全国を経て得たものってありますか?

私、演劇部に入った当初って、演劇にハマるのがみんなより早いのがあって、同期に対して「この子たちに負けたくない」っていう変なプライドがあったんですよ。でも全国に立つことで、誰一人欠けてもお芝居はつくられへんし、自分ひとりが頑張ろうと思っても上手くはいかないんだってことがわかった。むしろひとりでできないから演劇って面白いんだということがわかるようになりました。変なプライドを持ってた時期は、自分ができれば大丈夫だって思ってたんですよね。でもそうじゃない。チームの中で誰かと誰かの関係性が上手くいってないだけで、お芝居そのものも上手くいかなくなる。だからちゃんとお互いが言いたいことを言えるよう場を設けたり。それってすごくしんどいけど、でもそれが楽しいんやって感じられるようになりましたね。

スキマ時間の有効活用が、勉強との両立のポイントです。

――母校の高田高校の活動スケジュールを教えてください。

普段の練習は18時まで。本番前だと18時30分までが限度でしたね。公演前の土日は朝8時30分集合の18時30分解散の10時間拘束。私は高3の4月末で引退をしたので、それまではずっとそんな感じでした。

――東大を目指そうと思っていたのはいつ頃から?

意識したのは中学生くらいからだと思います。私、中3の秋くらいからお芝居を観るのにハマッて、その時期から東京に行っていろんなものを見聞きしたいっていう想いが強くなったんです。それで東京に行くなら親のことも考えると国立しかないなっていうことで、いろいろ揺れた時期もありましたけど、本格的に受験が始まる頃にはもう東大って決めていました。

――東大と言えば、言わずと知れた日本最難関の大学です。東大を目指しながら部活をすることに不安はありませんでしたか?

あったはあったと思います。私、部活とは別に、高1の秋に柴幸男さんが脚本・演出の音楽劇『ファンファーレ』っていう舞台に参加させてもらったことがあるんです。それは三重県文化会館っていう地元のホールが主催をしていて、私はその地方キャストとして出演しました。でもそのことで学校にものすごく反発されてしまって。以来、成績を下げたら演劇部を辞めろとか演劇を観ることをやめろって言われるのがわかったから、絶対に部活のせいにされたくなくて、意地でもキープしようと思うようになりました(笑)。

――けど、現役中は毎日練習漬け。どんなふうに勉強の時間はとっていたんですか?

大きかったのは、通学時間です。片道1時間から1時間30分くらいかかるんですけど、電車に乗っている間はシス単(システム英単語)をやったりしていました。私、中途半端が嫌いなんです。だから、定期テストだけじゃなくて、小テストも絶対に満点をとろうって頑張ってましたね。どうしても練習で疲れた後は家に帰っても、そのまま寝てしまうこともあった。だからその分、朝早めに来て勉強したりとか、スキマ時間をどう有効活用するかってことはよく考えていました。

――睡眠時間はどのくらい?

睡眠はちゃんととるようにしてましたね。毎日23時30分に寝て5時30分には起床。それでも眠い時はあるし、とにかく眠気に勝つのが課題でした。先輩からは「電車では立って帰るのも手だよ」ってアドバイスさをしてもらって、だから席が空いてるのに立って単語帳を読んだりしてました。

――スキマ時間ってついついtwitterをさわったりしちゃうんですよね。

わかります。でもtwitterってさわったらどうしても時間がとられちゃうんですよ。だから勉強の時もそうだし、本番前になったら「しばらくtwitter離れます」って宣言してツイ禁するようにしてました。特に受験期に入ってからは1年3ヶ月くらいはtwitterはやりませんでした。今の高校生にとってSNSとの付き合い方は本当に大事だと思います。

――どうやってそういう強い自律心を身につけたんですか?

いや、できない時期はたくさんありますよ。そんなことしてる場合じゃないのにテレビ観てしまったこともいっぱいあります。でも、その時に自分のことを責めてしまうのが嫌だった。だからヘコむだけヘコんだら次の日からまた頑張ろうって、変にポジティブに切り替えていましたね。あとは、気持ちです。とにかく私はまた演劇を観たりやったりしたかった。だから、そのために頑張ろうっていう気持ちが支えになりました。自分のやりたいことに全力を注ぐためには、その前にまずやるべきことをちゃんとやらなきゃいけないんですよね。

――お話を聞いていると、すごく負けず嫌いな感じがします。

めっちゃ負けず嫌いやと思います。人に対してもやけど、何より自分に対して。負けたら自分を責めすぎてしまう。それが嫌やなんです。やったらできるんやからやろうって思うタイプですね。

部活を辞めたからって成績が上がるわけじゃない。

東さん1――実際、引退して本格的に受験勉強に取り組みはじめた時に、演劇部で身についたものが役立ったことってありますか?

ありますよ。一番は、時間の使い方。現役の間って練習が忙しくなったら脚本も読まなあかんし、小テストの勉強もせなあかんし、家のこともあるし、とにかく大変なんです。それをこなすために時間の使い方を自分で考えなきゃいけない。おかげで、受験勉強を始めた時もタスク処理の順番とか優先順位のつけ方は困らなかったです。あとは体力とガッツですね(笑)。

――確かにそれは大きいですね。

あとは演劇部もそうですけど、さっきお話した『ファンファーレ』のように、他のイベントに出たりして、学校の外でたくさんの大人の方と関わり合えた。これはすごく大きいことですね。特に、ホールの方々との出会いは私にとって大きかった。おかげでもっといろんな人に会いたいし、いろんなことしたいと思えるようになったし、会いたい人に次に会う時のために自分ももっと成長していたいと思うようにもなった。それが、勉強を支えるモチベーションになっていたんだと思います。

――今、両立に悩んでいる現役の高校生に伝えたいことはありますか?

後輩のみんなや親御さんにも言いたいのが、部活を辞めたからって成績が上がるわけじゃないってことです。演劇ときちんと両立できる人間が辞めたらすごい力を発揮するのはわかります。だけど最初から両立できひんって諦めた人が部活を辞めても、結局何するかって言ったら遊ぶんです。両立はやろうと思えばできる。特に高校演劇は大会になったら生涯もう立てないような大きな劇場でお芝居ができる。それって、本当にすごいこと。だから絶対に大事にした方がいいし、部活だからってゆるゆるやるのはもったいないと思う。ちゃんと両立できたら引退した後の追い上げはいくらでもできます。むしろ引退することで、今まで演劇にかけてた比重がなくなるわけだから、もうひと頑張りできる余裕ができたくらいです。本当に全力でやりきれたら、次の1年間は勉強に専念できる。だから、絶対にあきらめず悔いなく部活をやりきってほしいなって思います。

※東大へ入った東さんが今何を学んでいるのか。続きは後編で!

ToTop