香川と岩手の女子高生が東京に演劇武者修行の旅にやってきた。【後編】
お小遣いをためて東京まで演劇武者修行の旅にやってきた香川県立善通寺第一高校3年の杉原さんと岩手県立盛岡工業高校2年の石川さん。後編では、東京都立世田谷総合高校演劇部の3年生・井澤くんと嶋田くん、さらに2年生の岡島さんと鈴木さんをまじえ、東京と香川、そして岩手というそれぞれ離れた場所で高校演劇に励む6人の初めましてトークをお届けします。
(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)
はじめは壁もない自転車置き場で練習をしてました。(杉原)
――今回、杉原さんと石川さんは地元からひとりで東京まで来たそうですけど、周りにもなかなかそんな人いないですよね。しかも滞在中のスケジュールもほぼ自分たちで計画しだんたとか。その行動力がすごいなと思います。
杉原「去年の4月から年間100本観劇しようって決めて。夏の全国大会もひとりで行ったし、1月の南関東大会も行きました。そこで、せたそーの『男やもめに何がわく』を観て、すごく感動したんです。やっぱり香川にいると香川の色に染まっちゃう。香川って、演劇部がある高校が12校しかないんですよ。でも東京は学校数が圧倒的に多い。その分、上に来る学校は香川より相当レベルが高いし、レベルの高いものにふれることで自分にない発想が得られる。すごい切り口の学校とか見ると、自分のところのお芝居でもやりたくなっちゃいますよね」
――香川県立善通寺第一高校は今年の春フェス、そして岩手県立盛岡工業高校も昨年の東北大会の出場校です。それぞれ部活をやってて大変なことや困っていることはありますか?
石川「うちはダンスもできないし脚本も書けない。いろいろできないことが多いから、自分たちのやりたいことをやっているところを見るとすごいなって思いますね。あとは公演がない時期の通常練習のときに、どうしても部活の参加率に差が出てしまう。そのあたりをどうしたらいいのかなって悩みはあります」
杉原「うちも春フェスでは畑澤(聖悟)先生の『河童』をやったんですけど、メインキャストは8人いて、でも部員全体は32人いるんです。残り7人くらいキャストはいるけど、出番は10分くらいしかないから、どうしても暇になっちゃう。大道具もつくらないので、時間の空いている人をどうしたらいいのかなって課題はありました」
井澤「逆にうちは人数が少ないから、そういう悩みはあんまりないかも。出番のない人は客席側にまわって、演技のダメなところとか指摘するようにしています。むしろ部員が少ないので、もっと新入部員がほしいです!(笑)」
杉原「うちの高校は吹奏楽部が強くて、教室が全部取られちゃってるんですよ。だから私が1年生の頃は練習場所がなくて、やっと確保できたのが廃棄物置き場になっている、誰も使っていない自転車置き場。もちろん壁もないから、まずはゴミを全部片づけて、パネルで壁を立てて、体育館からコードを引っ張って電球をつけるところから始まりました(笑)」
――すごい。漫画みたいな環境ですね(笑)
杉原「しかも体育館裏だから誰も通らなくて。勧誘したって来るわけない(笑)。それでも翌年には8人入部してくれたんです。そのうち3人が前の年の文化祭を観に来てくれていて、うちの演劇部に入りたいから入学してきたような子たちだった。その子たちが友達を連れて来てくれたおかげで8人も入ってもらえたんです」
――そういう意味では日々の公演で面白いお芝居をつくることが、いちばんの勧誘方法かもしれませんね。ちなみに、今も自転車置き場で練習してるんですか?
杉原「去年の11月から視聴覚室を使わせてもらえることになりました。それまでは42℃の暑い中、西日本のうるさいセミの鳴き声と電車の音に囲まれて練習をしてたので、ひどい時は隣で台詞を話していても聞こえないんです(笑)。だから室内で練習できるようになった時は、とにかくみんなで“窓よ、ありがとう!”“壁よ、ありがとう!”って騒いでました。うちの部では窓は神なんですよ(笑)」
演りとげた先に見えるものがある。(嶋田)
――やっぱり面白い劇を見ると、単純にやりたいと思ってくれる子は増えますよね。みなさんそれぞれ高校演劇漬けの毎日を送っているかと思うんですけど、改めて自分にとって高校演劇はどんな存在か教えてもらってもいいですか?
杉原「最初は嫌いだったんですよ、演劇。嫌いというか、好きだったけど苦手だった。辞めたかった時も何度もあったし。本番2週間前から5日前までいつも病むんです。で、だんだん治って本番でピークになる。そして、終わったらまたやりたいって思う(笑)。その繰り返し。高校演劇って知らない人から舐められてるところがあるじゃないですか。だけど、私、高校演劇はすごいと思う。最近好きな言葉があって、誰の言葉だったかは忘れたんですけど、“私たちは私たちが思っている以上のチカラを持ってると思う”って。私、自分たちが思っている以上に演劇にはできることがあるんだって思います。だって演劇なら絶対普段伝えられない感情が伝えられるじゃないですか。高校演劇がなかったら今の私はないと思うし、本当にいいものに出会えたなと思います」
石川「私も部活がやりたいから学校に行ってる。もちろん学校には授業を受けに行ってるんだけど、本当の目的は部活。だから部活がなかったら、嫌いな授業の日は休んでるんじゃないかなって(笑)」
岡島「私は高校演劇をやっててふたつ良かったことがあるんですよ。昔からピアノを習ってたんですけど、演劇をやって人の感情を考えるようになってから、ピアノも曲調に合った音の出し方ができるようになって先生に褒められるようになりました。あともうひとつは友達が増えたこと。うちは地区との交流が結構多いので、他校さんの友達ができたのは良かったなと思います。あと、そこで彼氏もできました(笑)」
嶋田「オレは最初は適当な感じで入ったんですよ。元々裏方がやりたいなって思ってて。役者をやったのも、人数が少なくて先輩に担ぎ出されたのがきっかけ。でもやってみたらすごく楽しかった。うちの部活のコンセプトは、“演りとげた先に見えるものがある”。実は『男やもめに何がわく』って、文化祭の時はオレが主役で井澤くんがお父さん役だったんです。だけど、文化祭で大ゴケして、コーチの岡崎さんにもバシバシ言われて、あの時は本当に心が折れかけました。そこから何とか持ち直して一生懸命お父さん役をやったら、関東大会まで行くことができて。きっとあそこで折れてやらなかったら何も得られなかったと思う。やって良かったと思うし、やりとげた先に必ず何かあるってことも今ならわかる。高校演劇って絶対やりがいがあると思います」
鈴木「私も友達に連れられて入っただけで。でも、その友達はもう辞めちゃって。私が何でここまで辞めずに続けてこられたかというと、辛いことはいっぱいあるけど、その中にたまに楽しいことがあるから。たとえば、本番が終わった後の達成感とか。そういうものがあるから何とか続けてこられたんだと思います」
井澤「『男やめもに何がわく』って細かいところはいろいろ違うけど、実話がベースになっているんです。僕は一時期、学校に行けない時期があって、だから部活にも行けなくて、みんなに迷惑をかけちゃった。それでも、みんな僕のことを部員だって言ってくれて、コーチの岡崎さんや先輩も自分を信じて指導してくれた。僕が部長を引き受けたのも、その恩返しがしたかったからなんです。僕は要領悪いし頭も悪くて迷惑かけてばっかだけど、それでも何でもいいから部活のために何かやりたいって思った。その結果、関東大会まで行くことができました。部活に出会えてなかったら、今の僕はこういうふうになってなかったと思う。もしかしたらそのへんにただ転がっていただけだったかもしれない。だから僕は高校演劇っていう存在に感謝してるし、せたそーに演劇部が存在してくれたことに何より感謝しています。感謝イコール演劇部です」
練習の環境や悩みは学校によって様々。だけど、本気で頑張った人だけが得られる達成感や仲間との絆は、きっと全国共通だろう。ちょうど4月は新入部員獲得の時期。新1年生はもちろん2・3年生でも興味が湧いたら、ぜひ飛び込んでみてほしい。演劇を始めるのに遅すぎるなんてことはない。本気でやれば、きっと演劇でしか見ることのできない景色まで辿り着くことができるはずだから。
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