第63回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【3日目】

ついに今年の全国大会も最終2校の上演が終了しました。
残すところはあと講評・結果発表のみ。
今年の全国最優秀はどの高校の頭上に輝くのか。
固唾を呑んで結果を見守るみなさんのために、本日の上演をプレイバック!

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

北海道北見緑陵高校『学校でなにやってんの』


運動部に比べて何かと地味な文化部。
その中でもなんとなーくカーストがあるのは気のせいでしょうか。
華やかなのはやっぱり吹奏楽部。
そして、ちょっとクラスで浮いている存在が集まりやすいのが…。
 
そんな文化部の面々が、取材を理由に夜の放送室に集まったことから始まる、
おかしくって、ちょっと切ないドタバタコメディ。
 
とにかくこの北見緑陵高校、人を楽しませることへの前のめりな姿勢がすごい。
校長先生の写真(本物?)を引きのばしたお面から、
特撮ヒーロー風の用語説明、何かと暗躍する黒子たちと、
随所に力技の遊びを仕掛けて、観客をしっかりと笑わせます。
 
特に面白いのが、舞台の転換時に登場するアンサンブルたち。
走って駆けつける姿まで敢えて見せることで、転換そのものをひとつのギャグに。
全力ダッシュで仕事を終え、何事もなかったように走り去る姿は
往年のヒーローもののザコ戦闘員のよう。
その存在そのものが愛おしくて、登場するたびに温かい気持ちになりました。
 
そして、メインの5人の文化部部員+ちょっと強引な女先生もそれぞれ個性的。
ここに出てくるキャラクターって、どれも人としてはちょっとダメなんですよね。
主人公の山田は自他共に認めるダメ人間で、空気が読めない。
華道部の斉藤はハサミをシャキシャキすることでしか会話ができないし、
そんな斉藤に熱を上げている美術部の河原もいかにもアニメ女子っぽい変わり者。
 
ここでは偉そうにしている吹奏楽部の高橋にしたって、
本来は全道大会常連の強豪校のはずが今年は地区落ち。
相当なショックを味わったことは安易に想像できます。
何より生徒たちを遠くで応援する校長先生自体が、ダメの象徴のような人。
 
そんなダメな人たちが、ちょっとずつ心を寄り添いあうその姿が温かい。
対照的だった山田と高橋が最後にエールを交換する姿に、ほっこりと心の火が灯りました。
 
生徒講評委員会では、
「みんなでやるって当たり前じゃなくて、すごく大切なことなんだなと思った」
と、ひとりとみんなの対比に重点を置いた劇づくりに共感の声多数。
 
「周りをまとめなきゃいけない苦労と、ひとりで頑張らなきゃいけない苦労。それぞれ共感できた」
「うちも一時、部員がふたりしかいなくて稽古で苦労したから、少数の部活の気持ちがわかる」
など、同じ文化部として、それぞれの心情に自らを投影したような感想が目立ちました。
 
「ひとりで編集作業をしている山田の背中は寂しそうだったけど、
 演劇部の子や先生も応援してくれる。決してひとりではなく、支えてくれる人がいるんだと思った」
「山田が吹奏楽部の子とエールを送り合っている姿に胸が熱くなりました」
「『キモくなければ、何もできない』という先生の台詞が良かった」
など、作品のテーマに強く胸を揺さぶられたようでした。
 
北見緑陵高校のみなさん、お疲れ様でした!

埼玉県立新座柳瀬高校『Love&Chance!』


最終12校目は、今大会唯一の翻訳劇。
18世紀のフランスの劇作家ピエール・ド・マリヴォーの『愛と偶然との戯れ』に
同校顧問である稲葉智己教諭の翻案によって挑みます。
 
古典劇と聞くと堅苦しいですが、喜劇作家として名高いマリヴォーらしいラブコメディに、
序盤から観客の心をがっちりと鷲掴み。
恐らくテキストの段階では相当な台詞量だったと思うのですが、
それを早口ながらもよく鍛えられた台詞回しでこなし、見応えある60分劇にまとめ上げました。
 
ステンドグラスの小窓や、開閉式の床下、ロココ調の椅子など、舞台美術は破格のこだわり。
衣装も女性は豪華なドレスを身にまとい、男性はジュストコールにジレを合わせ、当時の雰囲気を再現。
 
本作は非常に後味軽やかな仕上がりなのですが、
よく訓練された役者の演技も含め、ディティールまでしっかりこだわりぬくことで、
本格派の趣を観客に印象づけました。
 
3つの空間を巧みに使い分け、場面の転換もテンポ良く運び、
観客に一切ストレスを与えません。
 
ラブロマンスの相手となる男性役は、
他に男性部員がいるにもかかわらず、どちらも女性がこなしていましたが、
それが嘘くささや百合っぽさにはならず、
むしろどこか本作に健やかな清涼感をもたらしていたのが印象的。
このあたりも配役の妙と言えるところでしょう。
 
二組のカップルがハッピーエンドを迎える結末は怒濤の勢いで畳みかけ、
最後のハグでしっかり観客を味方につけました。
 
生徒講評委員会では、
「面白くて、笑顔で終われるいい劇だなと思いました」
「観ててキュンキュンした。どちらもハッピーエンドで良かった」
「会話のテンポが良くて最初から最後まで飽きない1時間」と、終始笑顔。
 
「最後のステンドグラスすごくキレイに使われていて、教会の結婚式場みたいだった」
「別の部屋に行くとき、照明がフェードアウトするのに合わせて、役者の声も小さくなった。
 よく練習されているんだなと思った」
「別々の部屋で話しているふたりの声がしっかりとシンクロしていて、
 サラウンドでかかっているんじゃかないかと思った」
など、新座柳瀬高校の高い技量に絶賛の声が集中しました。
 
新座柳瀬高校のみなさん、お疲れ様でした!

結果発表は本日17:20頃から!

ということで、これで今年の全国大会の上演はすべて終了。
この後、15:20頃より講評。
さらに17:20頃より閉会式(審査結果発表)となります。
甲乙つけがたい12作が並んだ今大会。
最優秀のコールがされる瞬間をリアルタイムでレポートします。
どうぞお楽しみに!!

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