第63回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【2日目】

早いもので、今年の全国もあっという間に2日目が終了!
10校の上演が無事終わり、残すところはあと2校のみとなりました。
2日目も心に残る上演がいっぱいでしたね。
早速一緒に振り返ってみましょう。

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

沖縄県立向陽高校『HANABI』


こちらは、東京を中心に活動する「20歳の国」という団体の作品を、向陽高校が潤色。
タイトルも『文化祭大作戦』から『HANABI』へと改題し、
高校生活の花火のような一瞬のスパークを元気いっぱいに演じてくれました。
 
厳しい女教師から半ば強制的というかたちで押しつけられたクラス劇。
演目は、定番の『ロミオとジュリエット』。
 
去年の先輩たちの『ライオンキング』にはすごく感動した。
自分たちも来年は先輩たちみたいに思いっきり青春をするんだ。
そう心の中で誓っていたはずなのに、現実はいつもちょっとショボめ。
やる気のないメンバーに気圧され、練習は停滞ムード。
 
青春の真っ只中にいるはずなのに、夢見たような青春とは全然違う。
そんな消化不良感は身に覚えのある人も多いはず。
そこから少しずつ自分たちがやりたいことをやるために一生懸命になっていく高校生の姿を
決してカッコつけずに、等身大のタッチで描いていきます。
 
この向陽高校のいいところは、何と言っても強烈な楽しさが前面に溢れ出ているところ。
沖縄らしい、細かいところは気にしないという大らかさで物語を強力に進めていきます。
 
正直、技術面ではいろいろと気になるところも目立つのですが、
この作品を語るときにそんな些末なところにふれるのは野暮ってもの。
特に大会となると、つい批評の目で作品を観る部分も少なからずあるのですが、
純粋にこの瞬間を楽しむ彼ら彼女らの姿を心に焼きつけておきたいなという気持ちになりました。
 
最後のハーレーダビッドソンの演出なんて、まさに向陽高校ならでは。
チープでちょっとダサくもあるのだけど、
不思議と多くの人がふたりが浴びた爽快な風を一緒に感じることができたのでは。
 
生徒講評委員会でも、
「まじでかっけえ」
「むっちゃ青春だなという感じがした」という飾らない感想が。
 
その中で
「他人のために何かをやるのもいいけど、自分のために何かをやるのもいいものだなと思った」
「『いくら長い期間練習しても本番は一瞬で終わり』という台詞は、
 演劇をやっている人から見ても共感できる言葉。確かに一瞬で終わる花火だなと思いました」
など、まっすぐな作品づくりは同世代の心をしっかりと掴んだようでした。
 
向陽高校のみなさん、お疲れ様でした!

明誠学院高校『警備員 林安男の夏』


2本目は、いわゆるゴーストもの。
生きている人間が幽霊と出会ったことから始まる物語は数多ありますが、
本作は冴えないバツイチの中年警備員と、記憶を失った自縛霊(地縛霊)の交流が描かれます。
 
本作の見どころは、何と言っても視覚的にもインパクト抜群の舞台美術。
高校演劇の定番である教室ですが、壁にヒビを入れ、まるで廃墟のような雰囲気に。
スモークがたかれた中、妖しい照明とともに浮かび上がる自縛霊のシルエット。
完成度の高いオープニングの演出に、多くの観客がその後の展開に期待を抱きました。
 
また、中盤では教室の壁が半分に割れて、後方からグラウンドのライトが。
その眩しい光に照らされた林さんには、何か神々しいような力強さを感じました。
 
桜吹雪舞い散るラストシーンもケレンミがあって壮観でした。
舞台後方からも手の込みようがよく伝わるメイクや衣装も良かったですね。
全体的に各場面の画づくりが上手で、メインで登場する役者ふたりも大きな会場に負けない力演。
明誠学院高校の総合力の高さが随所に感じられる作品でした。
 
生徒講評委員会では、
「緞帳が上がった瞬間にキレイだなと思った」
「装置が開いてライトが見えた瞬間、解放感を感じた」
などスタッフワークに対して評価の声が並ぶ一方で、
「チャレンジする精神が大切っていうことをこの劇は伝えたかったんじゃないかな」
「死んだらもうチャレンジできない。チャレンジできるうちにしなさいと言われているような気がした」
など、作品中も頻繁に登場した「チャレンジ」という言葉が突き刺さったよう。
 
「『自縛霊』という字が、地面の『地』ではなく、自分の『自』。
 自分に縛られているという意味なのかなと思った」
「そう思うと、『自縛霊』という設定に納得できる」
と、隠された本当の意味に想いを馳せる声も。
 
また、ある種古典的とも言える人情味溢れる熱血ストーリーに
「昭和の少年漫画みたいで、見ていて懐かしいなという気がした」という
平成世代らしいユニークな感想も目立ちました。
 
明誠学院高校のみなさん、お疲れ様でした!

福島県立相馬農業高校飯舘校『-サテライト仮想劇-いつか、その日に、』


これまで震災の悲惨さや、震災により大切な人を失った悲しみを謳った作品は数多く観てきましたが、
復興の途上で揺れる高校生の心の襞をここまで繊細に描きとった作品は記憶にない気がします。
 
それほど、この物語の中で紡がれるそれぞれのキャラクターの言葉はリアリティがあり、
提示される現実は観る人の胸に重くのしかかってきました。
 
舞台となる飯舘校は、原発事故から避難するために仮設されたプレハブ造りのサテライト校。
飯舘校と名はついているものの、建てられたのは飯舘村より35キロも離れた場所。
そこに通う生徒もほとんどが飯舘村に縁のない人たちばかり。
登場人物のハルカもサトルもユキもそれぞれ事情があって中学では不登校児。
この飯舘校に来て、ようやく普通の学校生活を送れるようになった子どもたちでした。
 
しかし、サテライト校はあくまで臨時的措置。
いつかは飯舘校も、本来の場所である飯舘村に帰るときがやってくる。
そんな「いつか」を前に揺れ惑う、社会で生きるには少し繊細で優しすぎる3人の高校生の物語です。
 
プレハブ校舎が潰され、飯舘校が飯舘村に帰ることに猛反発するハルカ。
正直に言うと、母校を失った経験のない身としては、
どうしてそんなに嫌なのか最初は理解できない部分がありました。
 
けれど、ハルカにとってこの飯舘校がどんな場所なのか。
それが見えてくるうちに、ぎゅっと締めつけられるような苦しさがせり上がってきます。
ずっと心の「ふるさと」を持てなかったハルカが初めて見つけた「ふるさと」。
それが、この飯舘校だった。
でも、そんな飯舘校も結局は自分の「ふるさと」にはなり得なかった。
 
一時は集団生活からドロップアウトしたハルカが、
この飯舘校でもう一度頑張ろうとしていた経緯が語られるたびに、
仮説のはずのプレハブ校舎が、ハルカにとっての砦だったことが伝わってきます。
 
終盤、3つの机と椅子、そして丸椅子を積み上げてハルカがつくったのは、校舎。
学校に行けなかったハルカが、どれだけこの校舎という場所に憧憬を寄せていたのか。
その秀逸なアイデアが、どんな言葉よりも雄弁に彼女の内面を表していました。
 
そして最後に語られる「仮想劇」という言葉の意味。
時に、これは絶対に高校生にしか演じられない、
どんな手練れの名優が演じるより高校生が演じた方が胸に届く作品というものがありますが、
この『-サテライト仮想劇-いつか、その日に、』は間違いなくその系譜に連なる一本。
 
ハルカの台詞回しは無骨で、決して情感豊かというわけではないのですが、
そんな彼女の口から「少しずつ心に傷をつけて、心を慣らしておきたい」と語られたとき、
かの震災が残した傷は、今もどこかで誰かの心を苦しめているのだと痛切に感じました。
 
生徒講評委員会では、
「ひとつひとつの言葉の重みがすごくて、自分自身の胸に刺さるものがあって、
 西日本生まれの私にはこんな経験もないし、テレビの中でしか見たことなかったから、
 今すごく申し訳ない気持ちとか、よくわからない気持ちがグチャグチャと沸いています」
と、まだまとまりきらない想いを絞り出すようにして語る生徒の姿が。
 
「サテライトという言葉も知らなかった。
 この劇を通じて、こういうことがあったんだと伝えられた気がして、心に突き刺さった」
と、最後にハルカが語ったメッセージを高校生たちも真っ正面から受け取ったようでした。
 
相馬農業高校飯舘校のみなさん、お疲れ様でした!

兵庫県立東播磨高校『アルプススタンドのはしの方』


こちらも、高校野球を題材にした作品は数あれど、
観客席、しかもアルプススタンドのはじの方に着目した作品はごくわずか。
まずはそのセンスに脱帽です。
 
そんなところで観戦しているような生徒ですから、当然、野球に関する知識も興味もゼロ。
犠牲フライも知らなければ、グラウンド整備も知らない。
そんな女子ふたりのとぼけた会話で序盤から確かな笑いが漏れました。
 
東播磨高校の特筆すべきところは、こうした会話の妙でしっかり笑いがとれるところ。
力技のギャグや比較的笑いの沸点が低いパロディを武器にする高校は多いですが、
きちんと会話のおかしみを伝えるには、間やズレを的確に掴むための技術が必要。
それを難なくこなしている役者たちに、タダモノではない感がにじみ出ていました。
 
「演劇部って大会あるの?」といったおなじみのネタも散りばめつつ、
同じ部活でありながら圧倒的なヒエラルキーのある野球部と演劇部の対比をしっかり描写。
そんな演劇部の女子ふたりが、はじめは興味のなかった野球に徐々に肩入れしていく様子が、
観客の感情移入を誘います。
 
高校に入れば、自分より才能があって、輝いている人にいくらでも遭遇します。
今まさに甲子園のマウンドに立っている「園田くん」もそのひとり。
でも、その「園田くん」でさえ対戦校の「松永くん」にはかなわない。
そんな構図と、去年の近畿大会をインフルエンザで棄権した演劇部女子のやりきれなさが
徐々に重なり合います。
 
そして、「園田くん」に勝てない負い目から野球部を辞めた藤野くん。
一方、どんなに才能がなくても決して諦めなかった「矢野くん」は
ついに試合の終盤で初めて出場のチャンスを掴みます。
 
諦めた人と、諦めなかった人。
スポットライトを浴びる人と、アルプススタンドのはじの方でそれをただ見ている人。
 
そしてこぼれる「中屋敷法仁が『贋作マクベス』書いたんはさ、高三のときやねん」という一言。
台詞も構造も秀逸で、最後は客席全体が試合の行方を見守っていました。
 
何者にでもなれると夢見るには、もういろんなことを知りはじめて、
でも「しょうがない」とすべてを諦められるほどまだ老成してはいない。
そんなどこにでもいる高校生のリアルな心情が見事に映し出された作品でした。
 
生徒講評委員会では、
「頑張っている人の姿って周りに影響を与えるんだってことが伝わりました」
「藤野くんを見ながら、『あそこの舞台に立ちたかっただろうな』と思った。
 諦めなければ良かったと思うし、めっちゃ共感した」
と称賛の声が続出。
 
「セットがすごかった」
「小道具のタオルの使い方で暑さを表現していて良かった」
「目の動きだけで自分にもボールが見える気がして、余計に引きこまれた」
と、役者・裏方のレベルの高さに唸る声も相次ぎました。
 
中には
「外野は注目されないけど、頑張っていないわけじゃない」
「野球と演劇って似ている。野球は外野、演劇部は裏方。どちらも注目されないけれど大事」
など、「はじの方」に近い人たちに思わず共感する人たちも。
 
東播磨高校のみなさん、お疲れ様でした!

岐阜県立加納高校『彼の子、朝を知る。』


2日目のトリは、これまでとはまた毛色の違ったファンタジックな一本でした。
 
ブザーと共に幕が上がると、舞台上には約20人のキャストが勢揃い。
「ブサーって何?」という切り口から掴み所のない会話がポンポンと繰り広げられていきます。
ここが、どこかもわからない。いったい、何の話かもわからない。
だけど、不思議と高揚感のある幕開けです。
 
そして、そこからラジオ体操をモチーフにした高速ダンス。
全体の動きがよく鍛えられており、側転やバク転など難度の高い技も繰り出し、見応え十分。
何だかよくわからないけれど、よくわからないままに、徐々にその世界観に引きこまれていきます。
 
将棋の駒の動きは、やがて戦争へと転換し、
役者の口から放たれる「ドンパチ」のリズムは花火と銃声の音へ。
ひとつのイメージから、まったく異なる別のイメージへと転化していく技法は非常に巧みで、
劇作家と演出家の豊かな演劇観がうかがえます。
 
本作を貫く大きな柱は「戦争」。
今や日本に住む人にとって、「戦争」は数年前よりずっとリアルになりました。
もう日本は決して平和慣れしている国ではない。
いつ戦火が上がる日が来てもおかしくはないということを、民衆はもうすでに気づいています。
 
そんなタイミングでこの作品が上演されるというのは、偶然か必然か。
いずれにしても皮肉な運命を感じざるを得ませんでした。
 
ドンドンと放たれる花火の音は、隣国で打ち上げられるミサイルの音をイメージさせますし、
「先輩は、フランスで、テロにあった」という現実は、大きな衝撃をもって胸に突き刺さります。
 
不思議なもので虚構性が富めば富むほど、よりリアリティが増してくるような、
そんなからくり仕掛けの面白さが。
 
劇中の舞台は8月。そして、その中に登場する「長月(9月)」というキャラクターの意味とは。
まだまだ拾いきれていない様々な要素を含め、
観る人の想像力の波の上で大胆に奔流するようなダイナミックさを感じました。
 
生徒講評委員会では
「まだ飲み込めていないけど鳥肌がすごい」
と加納高校のエネルギーに圧倒された声が。
 
「新しい朝とは戦争が終わった後の平和な朝かと思った。
 でも、今も世界では戦争をやっているところもあるんだということを改めて気づかされた」
など「あたらしい朝」「あったらしい朝」という言葉遊びの面白さに着目した人も。
 
その他、最後に鳴った心拍停止のブザーについて
「今もどこかで誰かの死を告げるブザーが鳴っているのかもしれない」
「ブザーは何かを知らせるもの。戦争があることを知ってほしいという訴えのブザーに感じた」
「その前に心臓の音が鳴っているとき、すごく私もドキドキしていた。
 でもピーッて鳴った瞬間、『あ、死んだ』と思った。結局他人事なんだということをそこで実感した」
など、いろんな解釈が飛び交っていました。
 
加納高校のみなさん、お疲れ様でした!

いよいよ今日、注目の結果発表!

残り2校の上演を控え、いよいよ今日が全国最終日。
全高校演劇ファンが見守る結果発表の時間も差し迫ってきました。
戴冠の瞬間まで『ゲキ部!』はしっかりレポートするので、
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