優れたコメディには、共通する「型」がある。【アガリスクエンターテイメント主宰 冨坂友が語るコメディ論(1)】

コメディは、楽しい。いきなりストレートな切り出しで申し訳ないですが、でもいろんなテイストの作品がある中で、こんなにも誰もが楽しめて、明るい気持ちになれるジャンルは、そう多くないような気がします。

一方であえて言わせてください。コメディは、難しいと。友達や知り合いならまだしも、目の前の、よく知らないお客さんをいきなり笑わせるのって、相当な技術とセンスが必要です。

みんな大好き。だけどやってみると火傷覚悟のコメディ。どうしたら内輪ウケで終わらない、良質なコメディがつくれるのか。

そこで、2014年に沖縄県立向陽高校演劇部が大会のレパートリーとして選択し、見事九州大会まで駒を進めた傑作会議劇『ナイゲン』の作者であり、黄金のコメディフェスティバル2015の覇者でもあるアガリスクエンターテイメント主宰・冨坂友さんに、コメディのイロハをおうかがいしました。

(Text by Yoshiaki Yokogawa)

PROFILE

冨坂 友

1985年5月13日生まれ。喜劇作家。演出家。小さい頃から見ていた国府台高校文化祭のクラス演劇で演劇に出会い、高校卒業後、オリジナルのシチュエーションコメディを創作するためにアガリスクエンターテイメントを旗揚げする。ワンシチュエーションでの群像劇のコメディを得意とし、緻密な伏線回収による笑いと、俳優の魅力を最大限引き出す宛て書きに定評がある。国府台高校の精神を舞台にして伝えることと、シチュエーションコメディをアップデートすることをライフワークとして活動中。

 
アガリスクエンターテイメント

一つの場所で巻き起こる事件や状況で笑わせる喜劇、シチュエーションコメディを得意とする、屁理屈シチュエーションコメディ劇団。05年、主宰・冨坂友が高校の同級生を中心に結成。代表作『ナイゲン(全国版)』が全8660公演中第2位を受賞。『七人の語らい/ワイフ・ゴーズ・オン』で黄金のコメディフェスティバル2015最優秀作品賞、最優秀脚本賞、高校生審査員賞、観客賞を総なめ。『紅白旗合戦』で2015年度サンモールスタジオ選定賞にて最優秀団体賞を受賞した。

コメディを書くときにやってみた方がいい勉強法とは?

――コメディってわりとみんな好きだけど、いざ自分で書いてみようと思ったら、なかなか上手く書けずに断念した、というケースが大半だと思います。まずはコメディを書く上でやるべきことって何があると思いますか?

一言でコメディと言ってもいろんなジャンルがあるし、書き方も作家によって様々だと思うので、一概にこれだと断定するのは難しいところですね。なので、あくまで僕が実際にやった手法をご紹介します。それは、自分が面白いと思う既存のコメディを教科書にして、その型を研究するという方法です。

――型ですか?

具体的に言うと、僕が得意とするのは、「主人公が嘘をついて誤魔化して、どんどんピンチになるタイプのコメディ」。大きく言うと、いわゆる「シチュエーションコメディ」と呼ばれるものですね。逆に、いわゆるコント的な、突飛な言動やキャラクターで笑わせるタイプのコメディもあると思いますが、今回のお話ではそういったコメディについては言及しません。あくまで、ネタではなく、物語が進行することで笑わせるタイプのコメディについてお話をしていきたいと思います。

まず、僕がお手本にしたのは、三谷幸喜さんの『君となら』と『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』。初めて台本を書いたときは、この2作をとにかく何度も見返して、両方の作品に共通している最大公約数的な要素を抜き出すことで見つけた「型」に、自分のオリジナルの設定を流しこむことを徹底しました。

――よければ、その「型」というのを教えてもらっていいですか?

もちろんです。まずこの2作品はどちらも、主人公グループが、AというグループとBというグループの両方に嘘をつくことで辻褄が合わなくなり、A/Bグループ両方が勝手に勘違いをはじめて、ややこしくなるというスタイルのお話なんです。

――王道ですね。

しかもフォーマットもすごくしっかりしていて、両作品の共通点は

[1]主人公が2~3人のチームになっている

[2]AグループとBグループを会わせないようにするために適当な嘘をつく

[3]その結果、両者の持っている情報が食い違う

[4]中盤で、AグループとBグループが顔を合わせてしまう

[5]両者の持っている情報の食い違いから勘違いが発生し、それが大きな笑いにつながる

[6]最後に主人公グループのついた嘘がバレる

といったところが挙げられます。

――そう言われると、確かにいろんな作品が思い浮かびますね。

さらに時間配分もかなり明確なんです。割合で示すと

■状況説明と主人公がチームを組むまでの流れに【1】

■AグループとBグループを会わせないようために行ったり来たりする流れに【2】

■さらにそこから両者が顔を合わせることで勘違いが膨らむ流れに【2】

■最終的に嘘がバレて物語が収束する流れに【1】

この「1:2:2:1の時間配分」が、このタイプのコメディをつくるための僕なりの黄金比です。優れたコメディほど、美しい構成で成り立っているもの。もし手元に好きなコメディのDVDがあるなら、見ながら再生時間をチェックしてみるのも勉強法としていいかもしれません。まずは型を意識してみるだけで、バランスのとれた良質なコメディに一歩近づけると思いますよ。

――余談ですが、コメディを見ていて難しいのが最初の着火点が遅いもの。笑っていいものなのかどうなのか見方に迷っているうちに30分くらい過ぎてしまうものも少なくありません。結果、その後から大きな弾を仕込んでいても、観客としてはもう笑える状態になっていないから、どうしても爆発力が落ちてしまうんですよね。

そこは難しいところですね。僕たちが得意とするシチュエーションコメディも、最初に一定の説明が必要になるので、決して着火が早いタイプとは言えません。

ただおっしゃる通り、早い段階でお客さんの見方を定めておくことは戦略として非常に重要です。なので、開始10分くらいの間に確実に大きめの笑いがとれるポイントを仕込んでおくことは大事なのかな、と。そうやって先手を打っておくことで、たとえコミュニケーションとしてリアリティがないことや無茶をしても、お客さんは「そういうノリね」という目線で見てくれますから。あとは、作品以外の、たとえばパンフレットとか宣伝の段階で、「これはコメディなのである」ということを事前に公言しておくのもいいかもしれません。

思わずみんなが見たくなる題材選びのポイントとは?

――型を理解したら、その型に流し込む自分流の題材というのが必要になってきます。冨坂さんの次回作『時をかける稽古場2.0』で言えば、「本番2週間前なのに台本が1ページもあがっていない劇団がタイムマシンを使って稽古最終日に時間移動し、完成した台本をとってくる」という3行で説明しても面白いと思えるキャッチーさが魅力です。題材選びの上で冨坂さんが心がけていることはありますか?

そうですね。僕自身のやり方としては、既成のジャンルの中から、自分が書けそうで、かつまだ世の中にはないオリジナリティを加えられるものを選ぶのがセオリーです。

たとえば、会議モノでいえば、三谷さん率いる東京サンシャインボーイズの『12人の優しい日本人』という傑作があります。これにインスパイアされて、かつ僕自身の高校生活をミックスしたのが、最近高校生のみなさんの間でも上演していただいている『ナイゲン』です。

次回作『時をかける稽古場2.0』に関しても、出発点はヨーロッパ企画の『サマータイムマシン・ブルース』という時間移動コメディの傑作があって、自分なら時間移動というジャンルで何が書けるだろうと考えたところから。

やっぱり先行作品から学ぶことや着想をもらうことはたくさんあります。今、名前を挙げたような作品はどれも映像化しているので、実際に購入して研究してみるといいですよ。

――他に着想の段階で意識していることってありますか?

題材はあえてコメディに向かなさそうなマニアックなものを選んで、その代わり料理法はオーソドックスに、というのも僕がよくやるパターンのひとつですね。

たとえば、『わが家の最終的解決』という作品があるのですが、これはホロコースト(第二次世界大戦中のナチス政権下に行われたユダヤ人などに対する組織的な大量虐殺のこと)が題材になっています。ホロコーストなんてコメディの題材としては極めてアンマッチ。だけど、それを古典的なシチュエーションコメディの手法で語ると、ギャップ的な面白さが出て、笑えない題材のはずが笑えてしまうんですよね。『紅白旗合戦』も、卒業式での国旗掲揚と国歌斉唱をめぐって教師と生徒が激論を交わす話です。いかにもデリケートな題材ですが、それも「真面目にやればやるほど面白い」というシチュエーションコメディの特性を使えばコメディにできます。

たぶんみなさんの周りにも、決して笑いにしてはいけないアンタッチャブルな題材ってあると思うんですよね。そういう無茶な題材をあえてシチュエーションコメディの文脈で語るというのは、個性を出すための手法のひとつだと思います。

笑いの沸点をピークに持っていくための意地悪な仕掛けとは?

――では、実際に書く上で注意しておきたいことは何かありますか?

シチュエーションコメディのつくり方の基本は、登場人物をいかに困らせるかなんです。意地悪な話ですが、人は困っている人を見ると笑ってしまう生き物。その意地悪さを活かすことが、コメディにおいてはとても重要なことです。だから、筋書きを立てるときは、主人公がどうなったら困るかという罠を随所に仕掛けておくといいですね。その罠が連鎖反応を起こしたとき、一定期間、何をしても笑いが起きる、「マリオがスターをとった状態」が発動するんです。

――わかりやすいようにちょっと具体例を出して話を進めましょう。

■What’s ナイゲン?
アガリスクエンターテイメントの代表作。舞台は、とある高校の文化祭の代表者会議。諸般の事情から1クラスだけ当初決めていた発表ができないという事態に陥った高校生たちが、自らのクラス以外のどこか1クラスを落選させようと熾烈な泥仕合を繰り広げる姿を描いた会議コメディ。

――アガリスクエンターテイメントの作品『ナイゲン』という会議劇があります。この中で、会議の出席者である海のYeah!!が、会議中にトイレに行きたいんだけど、規則により退室すると発表の資格を失ってしまうので行けずに困るというくだりは、まさにその「マリオがスターをとった状態」の最たる例ですよね(動画の1:06:15から)。

そうですね。このときに大事なのは、人を罠にはめるときは、それまでの間に必ずその罠を伏線として事前に出しておくことです。いきなりとってつけた罠で登場人物を困らせても、お客さんから見ると白々しくて笑いにならない。『ナイゲン』の例で言えば、

■退室をする場合は、同じクラスの中から代理者を立てなければいけない

という前提に対して、

■クラスの友達を代理に立てようとするも、会議中に携帯電話は使用できないというルールが事前に明示されている

■休憩をとろうとするが、すでに事前の話し合いで今日の会議中にもう休憩はとれないというルールが決議されている

■会議出席者の中から代理者を立てようとするが、その資格に関連する副委員長と文化書記は、海のYeah!!の浮気をめぐって対立関係にある

という罠があらかじめ仕掛けられています。それが次々と発動することで、海のYeah!!はトイレに行けず、どんどん追いつめられてしまう。その困りっぷりと、何とかトイレに行こうともがくさまを見て、お客さんは笑ってくれるわけです。

こうした笑いの渦をつくるためには、とにかく先にいくつも罠を仕掛けておくことが不可欠です。自分で思いつかない場合は、この状況でどうすればAという人物が困るか、ということをみんなで大喜利してみるのも一案かもしれません。

――そういう罠やルールの数が、コメディとしての爆発力につながるんですね。

僕はシチュエーションコメディをルールのコメディだと思っています。

たとえば、サッカーならハンドやオフサイドなどいろんなルールがありますよね。サッカーが面白いのは、こうしたルールを切り抜けるためにプレイヤーが知略を絞って無数の戦略を編み出すから。あれが何のルールもなく、ただ球を蹴ってゴールに入れるだけのゲームなら、たぶんこれだけ多くの人が熱狂することはない。
同じように、作中でこれをしてはいけない、あれをしてはいけないという制限が設けられていて、お客さんがそれを共有していればこそ、主人公が何に困っているかわかるし、それで笑ってくれる。そういった「場のルール」という観点で考えることは、この種のコメディの強度をあげる上で非常に大切なことだと思います。

――面白い話をいろいろありがとうございます。では残りは後編でおうかがいします。どうぞ更新をお楽しみに!

INFORMATION

今回ご登場いただいた冨坂さん率いるアガリスクエンターテイメントの最新公演『時をかける稽古場2.0』が東京・京都の2都市で上演されます。

ここでお話しいただいたコメディの極意を自分のものにするには、実際に良いコメディにふれてみるのがいちばん!

きっと「こういうことか…!」と頷けるような発見がたくさんあると思います。

しかも高校生のみなさんなら500円で観劇可! 映画より安い!

コメディを愛するすべての人へ…さあ今すぐアガリスクエンターテイメントに来たれ!

■あらすじ

―待ってられない 台本がある。

超遅筆な脚本家率いる若手劇団「第六十三小隊」は、勝負をかけた公演を二週間後に控えながら、 台本が1ページも無いという危機に瀕していた。

ある日、稽古場にて偶然タイムマシンを発見した劇団員達は起死回生の策を思いつく。

それは「本番前日まで行って、完成した台本を取ってくる」というものだった…!

 

■公演日程

<東京公演>2017年3月22日(水)~3月28日(火) ※全10ステージ

<京都公演>2017年4月4日(火)~4月9日(日) ※全9ステージ

 

■会場

<東京公演>下北沢駅前劇場 ※小田急線・京王井の頭線「下北沢」駅南口出てすぐ

<京都公演>KAIKA ※阪急「烏丸駅」23番出口徒歩8分、京都市営地下鉄「四条駅」6番出口徒歩6分

 

■チケット料金

<東京公演>富豪席5,000円、ペア料金5,000円(2名様分)、一般料金3,800円、前半・平日昼料金の回3,300円、高校生料金500円

<京都公演>ペア料金4,000円、一般料金3,000円、前半・平日昼料金の回2,500円、高校生料金500円

※その他割引システムあり。チケット料金の詳細は、必ず劇団HPをご確認ください。

ToTop