真面目なシーンをいかにコメディに翻訳できるかが腕の見せどころ。【アガリスクエンターテイメント主宰 冨坂友が語るコメディ論(2)】

前編では、「ネタ」ではなく、「筋書き」で笑いをとるコメディの基本構造を解説してくれたアガリスクエンターテイメント主宰の冨坂友さん。後編では、さらに演出面も含めたコメディのつくり方をお話しいただきます。

(Text by Yoshiaki Yokogawa)

PROFILE

冨坂 友

1985年5月13日生まれ。喜劇作家。演出家。小さい頃から見ていた国府台高校文化祭のクラス演劇で演劇に出会い、高校卒業後、オリジナルのシチュエーションコメディを創作するためにアガリスクエンターテイメントを旗揚げする。ワンシチュエーションでの群像劇のコメディを得意とし、緻密な伏線回収による笑いと、俳優の魅力を最大限引き出す宛て書きに定評がある。国府台高校の精神を舞台にして伝えることと、シチュエーションコメディをアップデートすることをライフワークとして活動中。

 
アガリスクエンターテイメント

一つの場所で巻き起こる事件や状況で笑わせる喜劇、シチュエーションコメディを得意とする、屁理屈シチュエーションコメディ劇団。05年、主宰・冨坂友が高校の同級生を中心に結成。代表作『ナイゲン(全国版)』が全8660公演中第2位を受賞。『七人の語らい/ワイフ・ゴーズ・オン』で黄金のコメディフェスティバル2015最優秀作品賞、最優秀脚本賞、高校生審査員賞、観客賞を総なめ。『紅白旗合戦』で2015年度サンモールスタジオ選定賞にて最優秀団体賞を受賞した。

コメディ俳優に必要な最もベーシックな武器とは?

――では、コメディの演技面についてうかがっていきたいのですが、冨坂さんはコメディを演じるときに大事なことって何だと思いますか?

これはわりとハッキリしていて、身も蓋もない言い方ですけど、声の大きさとテンポの速さは大事です。これはもう見世物の原則みたいなもので、音が大きくてテンポが速いものに人は圧倒されてしまうんですよね。俳優の古田新太さんも「若い俳優は間とか空気とか言ってないで、大きい声出して元気にやれよ、今しかできないことだから」というようなことをおっしゃっていましたが、まさにその通りだと思います。限度はありますが(笑)。

――テンポについては、読者のみなさんからもいろいろと質問が来ました。その中に「会話のテンポが一定になってしまいがちです。いい意味で崩すにはどうしたらよいですか」というものがあったのですが、この質問について冨坂さんはいかがお考えでしょう。

僕は、そこについてはあまり気にしなくていいというか、台本の意図を踏まえた上で最適化した結果なら、それで構わないと思います。僕の作品も基本的にテンポは終始速いままですし。

演出が見なければいけないのは、全体のスピード感覚。笑いがとりやすい間で進行しているかをチェックするのが演出の務めです。よほどゆるい感じのコメディでない限り、ある程度テンポは速い方がお客さんも気持ちいい。実際、「テンポがいい」という言葉を聞いたとき、みなさんがイメージするのって、普段の会話よりちょっと早めのテンポだと思うんですよね。なので、基本的には前の人の台詞に少しかぶせるくらいの感覚でポンポンと進めていくのが、ベーシックなコメディのテンポ感かなと思います。

もしテンポが一定なことに対して単調だと感じているのであれば、それはテンポだけで調整できる問題ではなくて。そもそもシーンの展開が平板だったり、俳優に熱がなかったり、別のところにネックがひそんでいると考えた方がいいかもしれません。

――俳優の演技を見るときに注視しているものはありますか?

登場人物が何をしたがっているのか、行為の目的というか動機がちゃんと見えているかは意識しますね。極論ですが、コメディをやるとき、演出家はあまり感情についてあれこれ言う必要はないと思っているんですよ。それよりも、たとえばAという人とBという人が出ている場面があるとして、はたしてAはBに対して何がしたいのか。Bを追い返したいのか。あるいはBに見つからないように隠れたいのか。それが観客の目線から見たときにはっきりわかることの方が大事です。

なぜかというと、Aが何がしたいのか、その動機がはっきり見えると、逆に起こってほしくないこともわかるから。そうすると、その起こってほしくないことが現実になったとき、お客さんはつい笑ってしまうんです。だから、行為の目的・動機を役者が明確に表せているかどうかは注意深くチェックします。

――そもそもなんですけど、笑いが起きるときって、どんなときですか?

何種類かあると思うんですけど、僕が意識しているのは主に2つ。ひとつは、こう来るだろうと思っていたものに対して、その予想を超えるものが飛び出してきたときに発生する驚きの笑い。漫才の「ボケ」はこのタイプが多いと思います。

もうひとつは、逆にこう来るだろうと思っていたものがやってきたときの嬉しさや安心の笑いです。先ほど話した、登場人物にとって起こってほしくないことが実際に起きてしまったときに発生する笑いや、前に貼っておいた伏線が回収された時の笑いは、こちらに分類されます。

この2点を意識しておくと、ここで笑わせたいというポイントをつくりやすくなると思いますよ。

既成のコメディをやるとき、絶対守った方がいい唯一のものとは?

――コメディの台詞を書くときのコツはありますか?

僕の場合はリズム感です。これも『ナイゲン』を例に説明してみますね。

■What’s ナイゲン?
アガリスクエンターテイメントの代表作。舞台は、とある高校の文化祭の代表者会議。諸般の事情から1クラスだけ当初決めていた発表ができないという事態に陥った高校生たちが、自らのクラス以外のどこか1クラスを落選させようと熾烈な泥仕合を繰り広げる姿を描いた会議コメディ。

海のYeah!!の浮気が発覚したことにより、次々と彼のクラスを落選させようと票が流れていく場面があります(動画の56:42あたりから)。

みんながこぞって「ウチのクラスの票も海のYeah!!に変更してください」と手を挙げていく中で、その流れに逆らうようにおばか屋敷という人物だけが「ウチのクラスのはⅠは地球をすくうに変更してください」と私怨のあるⅠは地球をすくうに票を投じる。ここで大きな笑いが発生します。

これはなぜ面白いかと言うと、リズムよくみんなが「ウチのクラスの票も海のYeah!!に変更してください」と続く中で、ひとり最後におばか屋敷が「ウチのクラスのはⅠは地球をすくうに変更してください」と言うから。このリズム感が大事なんです。もしこの順序が逆で、先におばか屋敷が「ウチのクラスのはⅠは地球をすくうに変更してください」と言ったら笑いにはならない。これも、先ほどお話しした予想とは別のものが来たことによる笑いのひとつですね。

――読者からの質問に「ツッコミ役の人の台詞はどのくらいまで完成させますか」といったものがあったのですが、これについての冨坂さんのご意見は?

僕はあまりガチッとは決めないです。やっぱり演じる俳優によって持っている言語は違うので、その人が言いやすいように変える分には特に気にしないですね。

これは既成の台本をされる高校生に対して特に伝えたいのですが、コメディをやるなら、台本に書いてあることを絶対視しない方がいいと思います。台本に書いてあるから必ずしもこうしなきゃいけない、ということはない。それよりも「この笑いの取り方は本当にいちばん面白い表現なのか、適した表現なのか」を考えることが大切だと思います。

――やっぱりその人の語彙にないものを喋らせると、どうしても不自然さが出てしまいますからね。

それはありますね。ただ一点、これはありがたいことに最近いろんな学校や団体で自作の『ナイゲン』をやってもらっているからこそ感じることなんですけど、既成のコメディをやる上で唯一死守した方が良いと思うものがあるんです。

――それは何ですか?

「間」ですね。キャラクターや台詞に関しては俳優に寄せて変えていった方がいい方向に転化することが多いのですが、唯一「間」に関してだけは、できる限り本家のものを守った方が面白いものになりやすい。それくらいその台本における最適な「間」は唯一無二のものなんです。逆に言うと「間」さえ守っていたら、あとは多少いろんなことが違っても作品の面白さはそう簡単に崩れはしません。

――これも読者からの質問なのですが、「セリフ1つ1つが短くなって、 展開が速くなりすぎてしまう。バランスのとれたものにするには、あまり喋る人を変えない方がいいですか」というお悩みがありました。

いや、台詞が短い分には全然気にしくていいと思います。基本的に展開がどんどん進んでいくことはいいことですし、僕自身も自分の作品の中で好きな場面を挙げると、大抵台詞が短いシーンですね。

――恐らくここで気にされているのは、展開が速くなりすぎることで内容がアッサリしてしまうことなんでしょうね。

その場合、ネックになっているのは、台詞の短さではなく、膨らませ方の方だと思います。もっと問題を放り込んで主人公たちを困らせればいいところを、簡単に問題が解決してしまうので、アッサリした内容で終わってしまっているのかな、と。

たとえば、僕の作品の中に『笑の太字』というものがあります。これは大学の卒業制作の課題に、とある有名喜劇作家の戯曲をタイトルだけ変えて提出して自分のオリジナルだと主張する学生と、それを断固として認めない大学教授の二人芝居。言ってしまえば、このお話って教授が「これは認めない」と言ってしまえば、もうそこで話は終わりなんですよね(笑)。でも、何とか抜け道をかいくぐろうと学生が屁理屈をこねるから話が面白く膨らんでいくわけで。

内容がアッサリしているなと思ったら、まずはどうしたらもっと掘り下げられるか、どうしたら登場人物を困らせられるか、みんなで話し合ってみることをオススメします。さっきシチュエーションコメディはルールのコメディだと言いましたが、恐らくどんな作品でも「これが解決すると物語は終了」というゴールポイントがあると思うんですね。そこを明確にさせた上で、じゃあどうやったら簡単にゴールポイントに行かずに話を転がせられるか、みんなで知恵を絞ってみる。いかにしつこく食い下がれるかがコメディの面白さを握っています。

台詞を短く書けるということ自体は、優れた才能のひとつだと思うので、ぜひ大事にしてください。

コメディにおけるシリアスなシーンの描き方とは?

――あとコメディをつくっていく上でやっておいた方が良いと思うことはありますか?

最近は劇団員との付き合いも長くなってコンセンサスがとれているからやらなくなりましたけど、稽古の状況が芳しくないときは、みんなで台本を開いて集まって、このお話のどこが面白いのか、どこでお客さんに笑ってほしいかということを解析・共有するようにしています。コメディはチームプレイ。重要なのは、自分がこの登場人物をどう演じるか、だけではなく、みんなでひとつのネタをやるんだという感覚です。だから、全員が「ここでしっかり笑いをとるんだ」という共通認識を持っておくことはチームで笑いをとる上でも大事なんじゃないかなと思います。

――コメディを見ていると、中盤までバカバカしくて最高なのに、なぜか最後の最後で急に真面目になったり、いいことを言おうとする方向に着地してしまう作品が時折見受けられます。僕はこれについて残念だなと思うのですが、冨坂さんはコメディをつくる上で、こうした真面目さやドラマ性というものとどう付き合っていますか?

僕もいつも悩むところで、どうやったらそういう真面目なシーンを省けるかということにエネルギーを注ぎます。題材によっては、真面目なシーンを入れないと終われないものもあるでしょうけど、仮にそうした切実な題材であったとしても、じゃあその真面目なシーンをいかにコメディに翻訳できるかが、作家の腕の見せどころ。

たとえば『七人の語らい(ワイフ・ゴーズ・オン)』のクライマックスでジョンが語った台詞はその象徴ですね。

■What’s 七人の語らい(ワイフ・ゴーズ・オン)?
黄金のコメディフェスティバル2015グランプリ受賞作品。英国の喜劇作家・ゲイ=ルーニー氏の書いた傑作シチュエーションコメディ『ワイフ・ゴーズ・オン』を演じる七人の男女…の姿を通じて「コメディとは何か」を問う、シチュエーションコメディ批評にしてシチュエーションコメディ讃歌。

終盤、シリアスなシーンが続いたところで、ジョンが「コメディなら笑えなきゃダメなんです!」と異議を唱えます。他のみんなが「そういう『お話』みたいなのもないとさ」と言い訳する中、「コメディって、みんなを笑わせるためのものでしょ?」とジョンは熱く訴える。そういういい感じの雰囲気の中で、ジョンが自分の主張を通すために最終的にとった行動は、「真面目なシーンなのに、みんなあごをしゃくれさせて喋る」というくだらないもの。仮に作家が主張したいことがあったとしても、それを真面目に語らず、笑えるやりとりに翻訳するのが望ましい。作家にとって切実なテーマを扱っていても、最初から最後まで全編くだらない展開で終わるのが、美しいコメディだと思います。

もし万が一、「ちょっとはテーマ性を入れておいた方が審査員受けがいい」とか「先生が言うから真面目な要素も入れてみた」と後付けでシリアスなシーンを追加しようとしているなら、それはやらない方がいい気がしますね。

――いろいろお話をありがとうございます。最後に改めて演劇でコメディをやることの魅力を教えていただけますか。

それこそ漫才だったりコントだったり、人を笑わせる方法っていくらでもあると思います。その中で今回僕がお話しした筋書きで笑わせるコメディって、学校や会社といったコミュニティの中で「面白い人」認定されてこなかった人でも、人前で不特定多数の人を笑わせることのできる稀少な手段、言うなれば「貧者の武器」なんです。僕たちアガリスクエンターテイメントのメンバーにしても、教室の真ん中で笑いをとっていた人気者はほとんどいません。でも、そんな僕らでもコメディという武器を使えば、たくさんの人から笑いをとれる。そこがやっぱりいいところですよね。

お客さんの反応を見ても、笑いほどわかりやすいものってなかなかない。演者とお客さんが時間と空間を共有するライブ感が演劇の醍醐味であるなら、その快感を最もおいしく味わえるのがコメディだと僕は思っています。

あと、単純にウケるのってめちゃくちゃ気持ちいいです。こんな気持ちいいこと、一度味わったらそう簡単に忘れられない。だからぜひたくさんの高校生のみなさんにコメディにチャレンジしてもらえたら嬉しいですね。

INFORMATION

今回ご登場いただいた冨坂さん率いるアガリスクエンターテイメントの最新公演『時をかける稽古場2.0』が東京・京都の2都市で上演されます。

ここでお話しいただいたコメディの極意を自分のものにするには、実際に良いコメディにふれてみるのがいちばん!

きっと「こういうことか…!」と頷けるような発見がたくさんあると思います。

しかも高校生のみなさんなら500円で観劇可! 映画より安い!

コメディを愛するすべての人へ…さあ今すぐアガリスクエンターテイメントに来たれ!

■あらすじ

―待ってられない 台本がある。

超遅筆な脚本家率いる若手劇団「第六十三小隊」は、勝負をかけた公演を二週間後に控えながら、 台本が1ページも無いという危機に瀕していた。

ある日、稽古場にて偶然タイムマシンを発見した劇団員達は起死回生の策を思いつく。

それは「本番前日まで行って、完成した台本を取ってくる」というものだった…!

 

■公演日程

<東京公演>2017年3月22日(水)~3月28日(火) ※全10ステージ

<京都公演>2017年4月4日(火)~4月9日(日) ※全9ステージ

 

■会場

<東京公演>下北沢駅前劇場 ※小田急線・京王井の頭線「下北沢」駅南口出てすぐ

<京都公演>KAIKA ※阪急「烏丸駅」23番出口徒歩8分、京都市営地下鉄「四条駅」6番出口徒歩6分

 

■チケット料金

<東京公演>富豪席5,000円、ペア料金5,000円(2名様分)、一般料金3,800円、前半・平日昼料金の回3,300円、高校生料金500円

<京都公演>ペア料金4,000円、一般料金3,000円、前半・平日昼料金の回2,500円、高校生料金500円

※その他割引システムあり。チケット料金の詳細は、必ず劇団HPをご確認ください。

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