第62回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【3日目】

全12校の上演が終了し、いよいよ講評を残すのみとなった全国大会。
最終日の2校は、少人数という共通項はあるものの、
どちらも個性の大きく異なるお芝居となりました。
 
では、最後の2校の上演をプレイバック!
あなたはどの上演校のお芝居に最も惹かれましたか?

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

和歌山県立串本古座高校『扉はひらく』

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舞台上に登場するのは、わずか2人。
“ぼっち”になることを恐れ、周囲に溶け込もうと必死なムラタと、
教室に居場所がなく、外階段でひとりお弁当を食べるヤマグチ。
まずこのふたりのキャラクターと関係性が、
冒頭の数分でしっかり提示できている劇構造が秀逸でした。
 
無理して明るく振る舞うムラタの引きつり笑いは痛々しく、
大げさに手を叩いて笑う仕草や、上滑り気味の甲高い口調は、
どこかヒステリックにすら感じます。
友人はいるものの、決して関係性は対等ではない。
見えないカーストを演技で明確に見せてくれました。
 
そんなふたりが、偶然乗り合わせたエレベーターに閉じこめられたことから始まる、
ささやかな心の交流の物語。
 
ヤマグチのように“ぼっち”になりたくないとパニックに陥るムラタ。
そして“ぼっち”の状態を「寂しいんじゃないんです」と何度も繰り返し弁解するヤマグチ。
決してかみ合わなかったふたりの会話は、ある映画の話題から少しずつ絡みはじめ、
やがてあの耳に痛いムラタの口調はごくごく自然なものに。
ヤマグチも明るい笑顔を見せるようになります。
 
途中、ひそかに練習していた韓国語を披露するムラタ。
日本語より、誰にも理解されない韓国語の方がよっぽどイキイキと喋ることができる。
そんな構図も皮肉で、だからこそ胸に沁みます。
 
やっと友達ができたことを純粋に喜ぶヤマグチ。
けれど卑怯者のムラタはこのふたりきりの時間が終わってしまえば、
自分がまたあの教室社会に呑みこまれ、ヤマグチをディスることをわかっていた。
エレベーターが開く瞬間、耳をふさぎ、目をそらして怯えるムラタの姿が
今もまだ瞼に焼きついて離れません。
 
いつかふたりは朝焼けの海を共に見に行くことができるのでしょうか。
閉塞的な社会を生きるふたりの少年の魂の叫びが耳にこだましました。
 
生徒講評委員会でも、
「自分もムラタのような立場になったことがあるので、
 ヤマグチと仲良くなったらクラスから浮いてしまうと恐れるムラタの気持ちはよくわかる」
と共感の声が上がる反面、
どこかふたりの心情に理解を示すことに抵抗感のある様子も見受けられました。
その中で、「最後にムラタくんがヤマグチくんを名指ししなかったのは、
ヤマグチくんでなくてもいい、誰でもいいから
寄り添うだけで心の通じる友達がほしかったのでは」という指摘が印象的でした。
 
串本古座高校のみなさん、お疲れ様でした!

山梨県立白根高校『双眼鏡』

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1年に及ぶ長い全国への道。そのゴールテープを切ったのは、まさかのひとり芝居でした。
全国大会でも時折ひとり芝居が登場しますが、
やはりあれだけ大きなホールをひとりで埋める難しさは並大抵ではありません。
一世一代の果敢な挑戦を、まるでそんなふうに感じさせないほど飄々と、
夢遊病者のひとり遊びのように淡々と進めていった主人公の佇まいがまず心に残りました。
 
ひとり芝居ではありますが、舞台美術は実に豪華。
赤、青、黄、白、グレーと、色とりどりのブロックが並び、
舞台中央には大きな時計が。
子ども部屋のような、ちょっとファンタジックな装置が
作品イメージをより深化させる一助となっていたように思います。
 
引きこもりの少女は、
家族の中で自分だけが嫌われていたと思いこみ、
父のこと、母のことを、つらつらと語り続けます。
慕っていた父に見立ててつくったブロック製の高層ビルを、
ゴジラに扮して破壊する。
そして最後にはバラバラに飛び散ったブロックをゆっくり並べ直し、
棺をつくって、その中で眠りにつく。
 
まるで自ら死を選んだようにも見えますが、
最後の叫びを考えれば、ここで語られたすべてのことは
自意識過剰な彼女の耳目を集めたいだけの狂言のように思えました。
 
生徒講評委員会でも、
開口一番、「怖かった」という感想が飛び出す中、
劇中で主人公が用いたアンケートを引き合いに、
「私は9個中5個当てはまった。主人公は7個。
 当てはまるのが普通なら、私の方が普通じゃないのかなと思った。
 何が普通かわからなくなってしまった」
「『普通って何よ?』って連呼するところは共感できた」
と、世間の物差しに揺れ惑う高校生の本音を吐露。
「主人公は自己承認欲の塊。自分を認めてほしいのかなと思いました」
など、つかみどころのないキャラクターに想いを馳せていました。
 
白根高校のみなさん、お疲れ様でした!
 

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

運命の講評は本日15:10から!

ということで、間もなく講評が始まります。
『ゲキ部!』では結果発表をTwitterにて生中継。
また、最優秀校の講評も後ほどまとめさせていただきます。
 
年に1度の祭典の結末を、どうか最後まで一緒に見届けてくださいね。

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