第61回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【2日目】

計10校の上演が終わった全国大会2日目。
そろそろ「今までの中で私はコレがいちばん好き!」なんて感想の言い合いも
飛び交うようになってきましたね。
観終わった後も、あれこれ友人と意見を交わし合って楽しめるのが演劇の良さ。
せっかくの年に一度のお祭り、じゃんじゃん語らっちゃってください。
 
ということで、2日目の上演校を振り返っていきますよー。

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

札幌琴似工業高校定時制『北極星の見つけかた』

北海道琴似
昨年、同じ定時制の高校を取材させていただきましたが、
こちらも自分たちの少し特殊なバックボーンを活かした作品づくり。
それぞれ集団生活から少しはみ出した高校生たちが、星座のように肩を寄せ合い過ごしています。
 
正直、序盤の立ち上がりは決して良いとは言えませんでした。
むしろ役者たちの演技はどこか痛々しく空回り気味。
全国という大舞台の重圧に飲まれてしまったのかなと心配しました。
でもそこからが本作の真骨頂。彼らの背景が見えてくるに従い芝居も尻上がりに良くなります。
特に終盤、携帯のライトを使って北斗七星をつくるアイデアは、
美術的にも美しく、バラバラだった7人がつながる象徴としても抜群の機能を果たしていました。
さらにそこで綺麗に終わらず、公務補の山田さんが実は七不思議の幽霊だったというオチは、
爽快な余韻を観客に与えてくれました。
 
この山田さん、ノリノリのエアギターもどこか照れが残っている感じで、
きっと演じている本人はそんなタイプのキャラクターではないのだろうと思わせてくれるのです。
でも、そのぎこちなさが札幌琴似工業高校定時制に限っては妙味として引き立っていました。
 
生徒講評委員の公開討論会でも、
「山田さんがオイシイ。出てくるだけで笑いが起きるのは、それだけ力があるということ」
「実際に使用している校舎を想定してつくっている分、実習室のセットがとてもリアルだった」
「定時制に通う生徒って思ったより普通で私たちと変わらないんだなと思った。
ラジオに対する“外側だけ取り繕うな。中身が大事なんだよ”という先生の台詞が、
なるほどなと思った」
と作品の持つどこかゆるくて温かい雰囲気にみんなが魅了されていました。
 
札幌琴似工業高校定時制演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

いわき総合高校『ちいさなセカイ』

いわき総合
高校演劇の世界は、やはり高校生が主役の作品がほとんどなのですが、
大人の私から見ていて「今の高校生ってそんなに精神年齢が幼いのかな?」
「今時そんな台詞を言うのかな?」という違和感を覚えるものも少なくありません。
そんな中、この作品のリアルな空気感は絶妙でした。
 
友達のTwitterのプロフィール写真に、自分以外の友達と撮った写真が使われているのを見て、
疎外感を覚えるところなんてデジタルネイティブ世代だからこそ。
ちょっと気に入らないところがあれば簡単に相手をブロックしてしまう感覚も、
敢えて陰湿になりすぎずに演じることで一層リアリティがあったように思います。
 
文化祭の内容を決める話し合いを軸に、何度もその場面をリフレインしながら、
そこにいる別々の生徒の内面をフィーチャーしていくつくりは、
高校演劇というよりも単館系の映画を観ているよう。
Twitterのタイムラインの表現含め随所にセンスの良さを感じさせられました。
 
作中、様々な登場人物の内面が語られますが、彼女らの問題はひとつとして解決されません。
きっとそれはゴーストタウンと化したまま一向に復興のめどが立たない故郷・福島の問題と同じ。
単なる学園群像劇に終わらない拡がりを備えていたのも、本作の特質と言えるでしょう。
 
生徒講評委員の公開討論会でも、
「キャストのシャツが鮮やかで印象的だった。
一緒にいる子は同じ色、はぶられる子はちょっと違う色という工夫も面白かった」
「どこかしら自分に似ている人を見せられた作品じゃないかと思った。共感できるし、だからこそ怖い」
「言葉が軽いものだなって思った。言ったことも全部流れて、ちゃんと叫ばないと残っていかない。
震災のことも軽く流されていってしまっているという意味なのかなと感じました」
と話せば話すほどに深まる作品の奥深さに、時間が足りないほどでした。
 
いわき総合高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

丸亀高校『用務員コンドウタケシ』

丸亀
印象的な題名ですが、タイトルロールであるコンドウタケシは一切姿を見せず、
代わりに引継式を迎えた応援部の面々によって、その実像が浮かび上がってきます。
こうした手法は演劇ではおなじみですが、どれだけ観客の想像を喚起させられるかがポイント。
本作でもコンドウタケシとはどんな人なのか、観客が思い思いのイメージを膨らませていました。
 
思えば、用務員さんという存在はみんな知っているけれど、
実際に会話らしい会話をきちんと交わしたことのある人というのは少ないのでは?
用務員さんという枠組みを外して見たことがないという「無関心」もあれば、
中には劇中で岡崎が言っていたようにマイナスイメージを持っている人もきっといるはず。
そんな「差別」と応援部に染みつく伝統という名の男女「差別」について部員たちは向き合っていきます。
 
作中では明確な答えは出ません。新しい応援団長が誰になったのかは最後まで明かされないまま。
それでも最後の熱のこもった演舞が、部員たちの未来を暗示していたように思います。
 
生徒講評委員の公開討論会でも、
「伝統を受け継ぐことは大事だけど、伝統に縛られすぎるのは良くないなと思った。
応援団を応援するコンドウさんって図が、用務員の陰で支えている感じと合っていいなと思った」
「身体の力全部を使って演じていることが伝わった。観ていて元気が出た」
「自分もあんなに精一杯誰かのために応援したことあるかなと思ったら、たぶんないなと思った。
応援してくれる人を大切にしたいし、もっと誰かに応援する気持ちを伝えたいなと思った」
と応援部の姿に、自分たち演劇部を重ねている声が多く出ていました。
 
丸亀高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

松川高校『べいべー』

松川
生まれたばかりの新生児室を舞台にした会話劇。
会話の主体となるのは、まさにその新生児たち。
がさつで男勝りな赤ん坊もいれば、生まれて間もなくして媚びを知る者もいて、
その顔ぶれは個性的そのもの。
これはまさしく設定の勝利というべきところで、
普通の年頃の人たちが交わしていたらそれほど面白くない会話も、
新生児に置き換えると妙なおかしみが出てきます。
 
性同一性障害、ネグレクト、優秀な兄弟に対するコンプレックス。
それぞれ重いテーマながら、これも赤ん坊の目線で語ると不思議とどこか軽やかに。
それでいて生まれながらにして逃れられない運命に対する皮肉さも出ていて、
使い古された「子どもは親を選べない」という言葉が改めてズシリと響きます。
 
生まれてくる家を取り換えようと画策しながら、
最後は「見つけなきゃだよね、いいこと」と自分の運命を受け入れるラスト。
そして見上げた視線の先に浮かび上がる胎児の描かれた装置の美しさが、
じんわりと温かい感動を呼び起こしてくれました。
 
生徒講評委員の公開討論会でも、
「セットが卵子と精子をイメージしているのかなと思った。配色の美しさが生命の神秘を感じさせた」
「かりんに“何が辛いかなんて人によって違うんだよ”と言われた後、
へその緒で自分の首を締めたさくらが首に手を当てているのを見て泣きそうになった」
「ゾウさんのネタが面白い。コミカルで笑って楽しめた」
と奥深いテーマを笑いたっぷりに描いた本作の魅力をイキイキと語っていました。
 
松川高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

神奈川大学付属中・高校『恋文』

神奈川大学
一日の締めくくりを温かい笑いと甘酸っぱいときめきで飾ってくれたのが、この『恋文』。
クラシカルなタイトルとは裏腹に、内容は差出人不明の告白メールを発端に巻き起こる
高校生らしいバカでハイテンションなスラップスティックコメディです。
 
果たしてメールの差出人は誰なのか。
男女共に個性豊かなキャラクターが勢揃いしたおかげで、
まるで恋愛ゲームのような楽しみがありました。
 
恋愛以外にも父親を失った主人公・環と友人・陸奥との友情など、
青春らしいエピソードが随所に挟まれており、共感できる人も多かったのでは?
短い登場シーンながら、不良役の男子生徒もきっちり笑いをとっていました。
 
生徒講評委員の公開討論会でも、
「背中を向いて告白しているファーストシーンが意味があって良かった。
告白したのは誰なんだろうというワクワク感があった」
「高校生のノリがすごくうまくて、あんな高校生活がしたいなと思った」
「匿名でメールを送った昴の伝えたいけど知られなくないって微妙な気持ちがよくわかる」
と伸びやかな青春グラフィティに共感と憧れの声が集まっていました。
 
神奈川大学付属中・高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

明日はいよいよ最終日!

運営スタッフのみなさんのご尽力もあり、無事に2日目も終了。
いよいよ残すは最終日のみとなりました。
残る上演校は2校。ぜひ本日の2校にも最高のお芝居を見せていただきたいと思います。
 
果たしてどの高校が栄冠に輝くのか。最後の瞬間まで目が離せません!

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