青森県立青森中央高校

青森中央高校の交流会に行ってみた。

もはや全国大会でもおなじみの青森中央高校。
『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら』をはじめ、
『修学旅行』、『河童』など今や高校演劇では定番と言える名作の数々を生み出してきました。
中には、「自校で上演した!」という高校生も多いのでは?

そこでやっぱり気になるのが、「青森中央高校演劇部ってどんなクラブなの?」ということ。
その疑問に迫るべく、青森中央高校演劇部のみなさんに突撃インタビューを決行!
8月7日に上演されたすばるホール(大阪・富田林市)での公演終了後、
主催である精華高校演劇部のみなさんとの間で開かれた交流会にお邪魔させていただきました。

(Text by Yoshiaki Yokogawa  Photo by Kanata Nakamura)

ルールがあるから強いチームが生まれる。

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さて早速会場に潜入してみると、おお、すでにすごい盛り上がり。
さすが元気いっぱいの高校生。
まだ会って間もないのに、すっかり意気投合しています。

すると、あるテーブルでひと際大きな驚きの声が。
何の騒ぎかと駆けつけてみると、
どうやら青森中央高校に代々伝わる部則なるものに、
精華高校の生徒のみなさんがビックリされている様子。

何でも青森中央高校では

■部内恋愛禁止
■校則厳守(ブラウスは第一ボタンまできっちり留めること!)
■公演1週間前は、冷たいもの・辛いもの・炭酸飲料・カラオケは一切禁止
■テストで30点以下を取った部員は1週間活動停止

など、いろんな規則があるそうです。
おお、厳しい…。
しかも、これ、顧問の畑澤先生がつくったわけではなく、
生徒たちが自主的に決めたルールなんです。
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「文武両道」を掲げる青森中央高校。
部活中はもちろん普段の高校生活でも、
生徒の模範となるべく部員同士でお互いを律し合っているようです。

「いろいろ厳しい規則はありますが、
ルールがあってこそ強いチームができるんです」(1年・畠山)

何とも目からウロコな言葉!
とても1年生の発言とは思えません!

先輩後輩の強い絆が、チームワークの秘密。

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ちなみに、そんな青森中央高校演劇部。
入部して最初に身につけるのは、「恥を捨てること」だそう。
『もしイタ』でも客席の奥からでも伝わる豊かな表情が印象的でした。
日頃から顔の表現には力を入れて取り組んでいるそうで、
女子部員からは「とにかく女を捨てることが大事」という声があがりました(笑)。

「あとは、入部当初は必ず1年生から3年生に声をかけること。
これも大事にしています。
演劇部って引っ込み思案の人が多いじゃないですか。
だから自分から積極的に相手とコミュニケーションをとれるようになるために、
絶対に先輩から後輩に連絡先を聞いたりしないようにしてるんです」(3年・澤谷)

とは言え、まだ右も左もわからない1年生にとっては、かなり高いハードル。
緊張して上手く話せない子も多そうですが、どうやらそれは杞憂のようです。
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「高校に行ったら絶対に演劇がやりたくて、
青森中央高校はすごく有名な高校だから、ずっと入りたいと思ってたんです。
プレッシャーはもちろんありました。
でも、先輩はみんな優しかったので、すぐに馴染めました」(1年・吉田)

そう話す吉田さんは、まだ初々しさの残る1年生。
現在、舞台監督を務める2年の我満さんの補佐に就き、
舞台を裏側から支える面白さを学んでいるところだそう。

「1年生でも悪いことは悪い。いいことはいい。
ちゃんとはっきり指導してあげたいんです。
でも叱ったら、その倍、いいところを見つけて、褒めてあげたい」(2年・我満)

現役部員の中には、後輩の指導で悩んでいる人も多いと思います。
ついついダメなところばかりが目についてしまうかもしれませんが、
愛情をもって相手の長所をどんどん伸ばしてあげることこそが、
信頼関係の第一歩かもしれません。

たとえば『もしイタ』で被災地を訪れる場合、当然、公演のたびに会場が変わります。
しかし、リハーサルもほとんどなく、本番に入る(!)ことも珍しくないそう。
会場の大きさが変われば、役者の間合いも変化するはず。
にもかかわらず、あれだけ一糸乱れぬアンサンブルができるのは、
こうした上級生と下級生の日々の連帯感が秘訣なのではないでしょうか。

『もしイタ』は、私の高校生活のすべて。

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――では、ここで、演劇部をまとめる部長の3年・若山さんに話を聞いてみました。まず誰もが気になる畑澤先生、実際に部員のみなさんから見たら、どんな先生なんですか?

見た目は怖いかもしれませんが(笑)、すごく面白い先生。あとこれは秘密ですが、台本がいつも本番の前日とかに完成するんです(笑)。まず大体1週間前に半分くらいできて、そこから練習していくうちに、どんどん直しが入ります。ゲネが終わった後に直しが入ることも当たり前。それも全部お芝居がもっともっと良くなるため。役者の個性が活きるように演出もその都度バージョンチェンジしたり。本当にすごい先生だなと思います。

――青森中央高校演劇部は、一様に「みんなキャラクターが濃い!」と口を揃える個性派揃い。部員をまとめる立場として、苦労や責任を感じる場面も多かったんじゃないでしょうか?

みんな個性は強烈ですが、いい劇をつくりたいという想いは同じ。だから、そのためならちゃんとついてきてくれるんです。私もまだまだだし、人間なんてみんな完璧じゃない。先生がいて、副部長がいて、舞台監督がいて、みんながいてくれるから、何とかできてる。私の力でまとめられているわけじゃないんです。

――若山さんは、1年生の頃から『もしイタ』の舞台に立ち続けた1人。自分にとって、『もしイタ』はどんな存在なんでしょうか?

高校生活、ですね。『もしイタ』は私の高校生活のすべて。毎年毎年、『もしイタ』をやって全国あちこちに行って、本当に楽しい想い出でいっぱいです。

畑澤先生がいてくれたから、ここまで成長できた。

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――さて、最後に、2011年・2012年版では主要人物であるピッチャー役を熱演、2013年版ではキャプテン役を務めた3年の工藤くんに直撃してみました。青森中央高校と言えば、『もしイタ』以前にも2度の全国最優秀賞に輝いた名門。部員として、やっぱりプレッシャーを感じる場面も多いのでしょうか?

プレッシャーと言うわけではないですが、ありがたいことに地域からも注目をいただいているところはあるので、その期待に恥じない演技をしなければならないなという想いはあります。

――工藤くんとって、顧問の畑澤先生はどんな人ですか?

誰よりも信頼できる人。僕だけじゃなくて、みんなが畑澤先生のことを信頼しています。優しくて、まっすぐで、熱くて、僕たちに本気でぶつかってきてくれるから、先生の言うことなら間違いないって、そう言い切れるし、畑澤先生がいてこその青森中央高校演劇部だと、そう思います。

――中でも先生との忘れられない想い出はありますか?

『もしイタ』のクライマックスで、「ごめん」という場面があるんです。先生から「泣け泣け」と何度も言われたのですが、なかなかできなくて。それでも先生は最後まで丁寧にわかりやすくその時の気持ちを教えてくれました。答えを1から10まで全部教えてくれるんじゃなくて、道筋だけを教えてくれて、あとは自分で走ってごらんというのが先生のやり方。先生のおかげで、僕自身、役者としても、人としても成長できたと思います。

――2年間、演じぬいたピッチャーという役柄は、今、振り返ってみて工藤くんにとってどんな存在だったんでしょうか?

被災者でもない僕が、被災者を演じるということに、果たしてどうなのかなという迷いはありました。家族も友人も地震ですべて失った時、どんな気持ちになるんだろうということは、当然何度も何度も考えました。でも、実際に被災された方の前で演じた時に嫌な想いをさせてしまわないか考えると、なかなか自信は持てなかった。自分がどうしてこの役に選ばれたのか今でもよくわかりませんが、こうして演じ終えてみて思うことは、ピッチャーという役は僕の高校生活の中で一番大事な役だということ。それだけは胸を張って言えます。

――最後に、今改めて感じる演劇の面白さについて教えてください。

高校に入るまで、演劇なんて全然興味がなかった。でも一度舞台に立ったらもうすごく楽しくて、ちっとも飽きが来ない。満足してもし足りないし、もっとこんな役がやってみたい、もっとあんな場所でやってみたいという気持ちが次々と沸いてくる。新しい玩具をもらった子どもみたいな感じなんです。
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青森中央高校のみなさん、そして精華高校のみなさん、ありがとうございました!
全国に『もしイタ』旋風を巻き起こした青森中央高校演劇部。
どんな演劇エリートが集まっているんだろうとビクビクしましたが(笑)、
その瞳は、何もない素舞台を稽古着一枚で駆け回る『もしイタ』の登場人物たちと同じ。
人の心に元気と勇気を与えるような、瑞々しい輝きでいっぱいでした!

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