演劇集団キャラメルボックス

【加藤昌史インタビュー(1)】キャラメルボックスと駆け抜けた28年間。

7月に発表した「第1回 あなたのおすすめ劇団アンケート」で見事首位に輝いた演劇集団キャラメルボックス。多くの高校演劇生が、キャラメルのつくり出すエンターテイメント・ファンタジーに魅了され、多大な影響を受けてきた。
創立28周年。今や演劇界の中でも老舗に分類される歴史を持ちながら、決して古びることなく常に新しい輝きを放ち続けるキャラメルボックス。トップランナーとして第一線を走り続ける同劇団の魅力とは果たして何だろうか。創立メンバーのひとりであり、製作総指揮としてキャラメルボックスを牽引してきたプロデューサー・加藤昌史に、その秘密を尋ねてみた。

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa  Assistant by Ai Miyazaki)

成井豊の作品を通じて、世界を平和にしたかった。

――キャラメルボックスの結成は、1985年。早稲田大学の学生演劇サークル『てあとろ50’』が原点です。加藤さんは何がきっかけで演劇を始めたんですか?

振り返ってみると、世界を平和にしたい、と考えたのが始まりかもしれません。僕は高校3年生の時に、東京から長崎に引っ越したんです。ごく普通の県立高校だったんですが、そこには被爆2世の方がいっぱいいた。原爆というものが身近にあって、いつ死ぬかわからないという人たちがすぐそばにいる。ショックでした。東京にいた時はそんなこと考えたこともありませんでしたから。それで、なぜこんなことが起きたのかを考えると、やっぱりそこに戦争という悲劇や核兵器という脅威がある。だから、世界から戦争をなくしたいって、そう強く思うようになったんです。
そこからは本当にいろんな人と話をして、思想としても左傾化した時期というのがありました。でも、話せば話すほど、政治では世の中は変えられないということも痛烈に感じるようにもなった。そんな時に出会ったのが、演劇だったんです。

――それが、早稲田大学に入った頃ですか?

そう。ちょうど中高の放送部の先輩に、ラッパ屋の鈴木聡さんがいて、鈴木さんが演劇をやっているということで、『てあとろ50’』を観に行ったのが、僕の演劇の原体験です。それまでずっと放送部で、演劇なんてほとんど観たことありませんでしたから。それで、すごく感動して、この感動を世界中の人に届けることができたら、世界は変えられるんじゃないかなって、そんなふうに思ったんです。
とは言え、その頃はまだ放送研究会にいたり、テニスサークルで遊んだり、自分が実際に演劇をやることを決めたわけじゃありませんでした。僕が演劇の世界に飛び込んだのは、大学2年の時。そこで初めて成井のお芝居に出会ったんです。

――初めてふれた成井さんの作品はいかがでしたか?

衝撃でしたよ。ちょうど『てあとろ50’』が鈴木さんから成井に代替わりをしていたんです。僕はそれを知らなかったものだから、「なんだ」と拍子抜けして観ていたら、完全に打ちのめされた。演目は、『キャラメルばらーど』。『不思議なクリスマスのつくりかた』の原型となった作品です。
もうね、これしかないと思った。これを観た人がアメリカの大統領になったら、きっと核兵器の発射ボタンを押すか押さないか選択を迫られた時に、押さないためには何をすればいいか考えてくれるんじゃないかって、そんなイメージを抱くくらい感動した。演劇は、世の中を変えることができる。そう確信して、『てあとろ50’』に入団を決めたんです。

別の道を選ぶことを忘れていたから、ここまで走ってこられた。

――そこからキャラメルボックス結成へと進んでいった。

当時、成井はプロになる気なんてなかったんです。でも、僕は違った。絶対に売れると思ってた。だから必死になって成井を口説いたんです。それで、プロは無理だけど社会人劇団ならというかたちでキャラメルボックスはスタートしました。

――キャラメルボックスは今年で創立28周年。これだけ長い間、ひとつの劇団を運営し続けることって、本当に難しいと思うんです。

そうですね。もともと僕は第三舞台に憧れていたし、成井は野田さんが大好きだった。でももう第三舞台も夢の遊眠社もいない。僕らとほぼ同時期に大きくなった劇団ももうほとんど解散してしまった。
あの頃は本当にいろんな劇団があって、みんながライバルというか、僕たちも負けてたまるかっていう気持ちでやっていたけど、ちょうど30歳、40歳と節目を迎えるうちに、少しずつみんな路線を改めていくんです。作演出家なら商業演劇の世界に行ったり、役者なら映像の世界に転向したり。あるいは、大学や専門学校で教える立場に移ったり。そんなふうに堅実な道を選んでいくのがほとんどでした。

――でも、キャラメルはそうならなかった。

忘れてたんです(笑)。そういう選択肢があることを、みんな忘れてた。だから今日まで続けてこれたんです。

常にお客様の声に一番近い場所に立ち続ける。

――個人的には、キャラメルボックスの場合、作演出の成井さんと、製作総指揮の加藤さん。別々の強みを持った二人がいることが、これだけ長く続いた理由なのかなと思ってました。

やっぱりね、クリエイティブの人間にはできないことっていうのがあるんですよ。稽古場を押さえたりとか、チケットを売るためにパーティーに出て、いろんな人によろしくお願いしますって頭下げたりとか。成井にはそんな面倒臭いこと絶対にできない(笑)。家に閉じこもって本を読んでる方が性に合ってる。だから、代わりに僕がやるんです。逆に、僕はもう小説ってほとんど読まないんですよ。

――そうなんですか。ちょっと意外です。

昔は読んでましたよ、それこそ一般的な人が人生の中でふれる本数くらいは若いうちに読破した。でも、40歳を迎える頃に、きっぱりやめたんです。これからの僕は、劇団を存続させることに注力しようと。今まで劇団四季以外、まだどこもそれを成功できている劇団はなかった。だったら、僕がそれを実現しよう。
そう思って、演劇に関すること以外、たとえば経営だったりマネジメントだったりプロデュースだったり、別世界の人たちと交流を重ね、スキルを伸ばしていくことに自分の力と時間を注いでいくことに決めました。

――加藤さんのすごいなと思うところが、いつも公演が終わるたびにロビーに出て、お客様と普通に話をしているじゃないですか。あれって、昔からずっとやってました?

もうあれはずっと昔から。あれはね、第三舞台のマネなんですよ(笑)。動員数も1万人を超えて、憧れの紀伊國屋ホールで上演する規模になってもなお鴻上(尚史)さんも細川(展裕)さんもロビーに立ってた。それがすごく恰好いいなと思って。
経営に詳しい人からすれば、そんなことしてないでもっとデスクワークに専念しろと言われるのだけれど、僕らの仕事は生が命じゃないですか。どんなに計算したって計算通りに行かない。毎ステージ、お客様の表情もリアクションも全然違う。だからちゃんと現場に立って、お客様の声に直接ふれることで、常に修正や改善を繰り返さなきゃいけないと思うんです。

――お客様との接点こそが第一だ、と。

もちろん。僕の役割は、それがすべてだと思ってます。責任者出てこいって、言われる前にすでに出てる(笑)。それが、僕のウリです。
たとえば、劇団がレストランなら、成井の役割はシェフ。厨房にこもって、美味い料理をつくるのが役割です。でも、たまに突飛なことを言い出すわけなんですよ。次はトリプルキャストでやりたいとか、東野圭吾や有川浩と組んでやりたいとか(笑)。そういう他の人がやめとけよと止めるような演出の奇抜なアイデアを、盛り付けを工夫したり、ネーミングにこだわったりして、いかに美味しそうに見せて、お客様に興味を持ってもらうかが、僕の仕事。
だから、いまだに僕は全作品の選曲を手がけているし、公演前の通しは必ずチェックします。そこだけは譲れない(笑)。さすがに今はもうなくなりましたけど、創立から10年くらいは僕が通しを観て泣けない芝居は中止にするという権限を持たせてもらってたくらいですから。

キャラメルボックスは太陽のような存在。

――西川(浩幸)さんが自著のタイトルに『僕はいつでもここにいます』ってつけてるじゃないですか。あの言葉がすごく大好きで。一時期、演劇が嫌いで離れていた時期があるんです。それで、いろんなことがあって、もう一度、演劇に向き合えるようになった時、最初に観に行ったのが、やっぱりキャラメルボックスで。

そしたら、もう何年もブランクがあったのに、キャラメルは何も変わっていなかった。ずっと変わらずに舞台の上にいてくれた。そのことが僕は本当に嬉しかった。やっぱりキャラメルがこれだけ多くの人に長く愛されているのは、その変わらない「キャラメルらしさ」が理由なんじゃないかなと思っています。

正直、キャラメルらしさが何なのかは僕もまだわかっていないんです。ただ、ずっとやり続けることが義務だと思ってます。もちろん西川がそう言う前から一生続けるつもりでやってきたけど、ああいうふうに彼に言われるともう裏切れないな、と。
お客様の中でもいらっしゃるんです、キャラメルを観ると人生が変わってしまうから観たくないとおっしゃる方が。やっぱりキャラメルって太陽のような存在じゃないですか。観てしまうと自分がその眩しさに当てられると言うか、ダメなところが照らし出されてしまう。僕だってありますよ、キャラメルの芝居観て、「ああダメだ、今の僕、頑張ってないな」とヘコむことが。

――加藤さんがですか(笑)?

そう。観たくない観たくないと思ってはいるものの、自分でやっているんだから観ないわけにはいかない。そして、観ると「やっぱり今の自分はダメだ」と生き直してみたり。そんなこと、何度となくあります(笑)。

あの時に戻りたいと思う過去はひとつもない。

――単刀直入に聞きます。人生の半分以上をキャラメルボックスと過ごしてきて、幸せだって思いますか?

やめときゃよかったと思うことはあんまりないですね。どれだけ人に迷惑をかけてきたんだということはあるけれど。少なくともあの時点に戻りたいと思う過去はないです。よくタイムトラベルの芝居をするんですけど、あれをやるたびに僕には戻りたい過去はないって思う(笑)。あとゴーストものをするたびに、死んじゃった人で会いたい人もいないと思う(笑)。今が一番なんです。本当に後悔はしていないし、後悔してたら続けてないですよ。
ひとつだけ言えることは、株で大儲けして六本木にマンション買ってフェラーリ乗り回す人生を送りたいって言う人は、演劇はやっちゃいけない。今すぐ辞めて、株やパソコンの勉強をした方がいい。でもね、たぶん演劇を選んじゃった時点でもうみなさん忘れられないんですよ、あのカーテンコールの温かい拍手が。そうじゃないですか?

――もうまさしくその通りだと思います。

高校で演劇をやっていて、これから進学なり就職なりという人生の分岐点に立っている人たちに、ぜひ覚えておいてほいしいことがあるんです。それは、あんなに温かい拍手をもらえる世界なんて他にそうないということ。テレビや映画では難しい。音楽やお笑いならあるかもしれないけど、それでもあれだけ大勢のお客様がどっかんどっかん受けて、じゅるじゅる泣いてくれて、劇場の中の空気がぐわっと凝縮して、最後の暗転でわーっと拍手が湧く。そんなことはほとんどない。演劇だけです。演劇だけが感じられる財産なんです。

――加藤さんは、演劇人としてのタイムリミットを感じることはありますか?

ありますね。いや、正確には、あったと言うべきかもしれない。ただ、蜷川(幸雄)さんがあそこまでやっている姿を見ると、僕たちも70までは続けなきゃいけないんだろうなって(笑)。と言うよりも続けちゃうんだろうなって気がするんです、みんなに迷惑がられても。演劇は、一生の仕事なんですよね。役者なんてお金もないから酒に溺れたりクスリにハマッたりもできない(笑)。だから一生健康のまま働いて、楽しく死んでいけるんですよ。
演劇は、好奇心がすべて。好奇心のない俳優はいないし、好奇心を商売道具にできるのが演劇のいいところです。もし俳優の才能がないと思っても、照明や音響、美術、製作、いろんな方向に進んでいける。舞台に対する夢さえ失わなければ、どこにだって行けるんです。
それに仮にね、途中で演劇の道を離れたとしても、今の時代なら定年後にまた演劇を始めることだってできる。最近ではそういう劇団も増えてきてるじゃないですか。そうやっていつでも何度でもやり直せるのが演劇の素晴らしいところ。
必要なものがあるとすれば、仲間くらい。仲間がいれば必ずいつかできる。だから、たとえ演劇を離れる道を選んだとしても、どうか演劇への情熱はなくさないでほしい。僕らはいつでもみなさんのことを待ってますから。

 

 

※ますますヒートアップする後編では、高校演劇に青春を捧げるすべての人へ、加藤さんからのメッセージをお届けします。お楽しみに!

今度のキャラメルボックスは、史上初のダブルエンディング!

ultra_xmas_photo

『隠し剣鬼ノ爪/盲目剣谺返し』から始まり、怒濤の公演ラッシュで駆け抜けたキャラメルボックスの2013年もいよいよクライマックス! フィナーレを飾るのは、待望の新作『ウルトラマリンブルー・クリスマス』。これまでクリスマスを舞台に数々の名作を送り出してきたキャラメルボックスらしい、心温まるファンタジーが期待できそうです。

しかも、今回は主人公が出会う天使によって、日替わりで2種類のラストシーンを楽しめるキャラメルボックス史上初のダブルエンディング! 一体どんなラストシーンが待ち受けているのか…。これは劇場でその目で確かめるしかありません!

 

■キャラメルボックス2013クリスマスツアー『ウルトラマリンブルー・クリスマス』

<作・演出>

成井豊

<キャスト>

阿部丈二、西川浩幸、坂口理恵、前田綾、岡内美喜子、三浦剛、石原善暢、実川貴美子、左東広之、渡邊安理、多田直人、林貴子、原田樹里、毛塚陽介、木村玲衣

<ストーリー>

昭和58年のクリスマスイブ。

長野県のとある町で建設会社を経営している辺見鐘司は、自殺を決意して、町外れの川にやってくる。

橋から身を投げようとすると、横から誰かが飛び下りた!

辺見はその人物を助けるため、慌てて川の中へ!

次に目を開けると、辺見はバスに乗っていた。

隣の席には、先に飛び下りた人物。

その人物は、自分は天使だと名乗り、辺見の自殺を止めようとして、誤って落ちたと言う。天使は辺見をバスから引きずり降ろし、なぜ死のうとしたのかと聞く。辺見は語る。

そもそもの始まりは昭和36年、辺見が高校2年の時だった……。

<神戸公演>

11月17日 (日) ~24日(日)

新神戸オリエンタル劇場

[S席](1・2階)7,300円

[A席](3階)6,300円

(全席指定・税込)

<新潟公演>

11月29日 (金)~30日(土)

りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場

[S席]6,500円

[A席]5,500円

[U-25シート] 2,500円

(全席指定・税込)

<東京公演>

12月5日 (木)~25日(水)

サンシャイン劇場

【平日ステージ】

[S席]7,300円

[A席]5,500円

[SS席(最前列シート)] 8,300円

[Z席(最後尾シート)] 1,000円

【土日祝・12/25ステージ】

[S席] 7,300円

[SS席(最前列シート)] 8,300円

(全席指定・税込)

○インターネット予約

http://piagon.jp/top.jsp

○チケットに関するお問い合わせ

演劇集団キャラメルボックス

TEL:03-5342-0220

FAX:03-3380-1141(12:00~18:00 日祝休み/東京公演中は16:00まで 日祝休演日休み)

○公演ホームページ

http://www.caramelbox.com/stage/umbc/

ToTop