第59回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【1日目】

いよいよ始まった第59回全国高等学校演劇大会!
初日から早くもタイムラインには、みなさんの感想ツイートが溢れ返っています。
そこで、『ゲキ部!』では会場に行けなかった多くの演劇部のみなさんのために
当日の様子をレポートしていきます。

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

長野県丸子修学館高校『K』

丸子修学館
まずトップバッターで登場したのが、長野県丸子修学館高校の『K』。
長野県の高校としては5年ぶりに全国大会の切符を掴んだ同校が選んだ題材は、フランツ・カフカ。
言わずと知れた20世紀の大作家ですが、高校生にとっては決して身近とは言えない存在です。
 
舞台は、下手から上手に向かってゆるやかな傾斜が。
赤と黒の市松模様の床面が、どこかヒステリックな印象を与えます。
冒頭の場面や、転換時のステップ、さらに終盤、コンプレックスを吐き出すカフカのつぶやきが、
やがて高校生の等身大の叫びへと移り変わっていくハイライトでは、
舞台上に大勢の役者を登場させ、その迫力で会場を圧倒。
 
観客からも「幕が上がって、最初からすごくインパクトがあった」、
「虫の表現など、身体の使い方がすごく上手かった」、
「『こんな芝居やったって意味ねえよおおお』とみんなが叫ぶシーンは鳥肌が立った」と、
不条理な作風を「見せるエンターテイメント」に昇華した演出力に、称賛が集まっていました。

宮城県名取北高校『好きにならずにはいられない』

名取北
2校目は、宮城県名取北高校『好きにならずにはいられない』。
出逢って間もない16歳の少年に妄執に結婚を求める男女の喜劇と、仲の良い姉妹の落ち着いた会話劇。
ふたつの異なるストーリーが両軸で進む中、突如、物語はその全貌を明らかにします。
そこに横たわっているのは、東日本大震災の悲劇。
これは、顧問の安保教諭が、
震災で命を落としたクラスの生徒・石川絵梨さんへの追悼をこめて書き下ろした作品だそう。
 
すべての真相を知り、「僕、幸さんと結婚したかった」と主人公が絶叫し、
亡き少女が風のようにそばを舞うラストシーンは、胸に沁み入る美しさ。
 
また、個人的には父と妹を探して暗闇の瓦礫を歩き回る場面が心に迫りました。
瓦礫の山だけが白々と浮かぶあの孤独な闇、電気も途絶え、
ただ恐怖しかなかったあの夜が突然くっきりと立ちのぼってきたようで、
いかに自分の中で3.11という日が風化しつつあったかを、図らずも思い知らされたような気がします。
 
観客からも「震災の被害に遭った土地の人だから描ける作品」、
「最後に、幸がタマちゃんに花束を渡すのが見えた」という声が。
終盤は、すすり泣く声もあちこちから聞こえてきましたね。

北海道北見北斗高校『ちょっと小噺。(ちょこばな。)』

北見北斗
3校目は、北海道北見北斗高校の『ちょっと小噺。(ちょこばな。)』。
うだつの上がらない落語研究会が、
同好会の存続をかけてバレンタイン寄席に挑む姿を笑いたっぷりに描いた本作。
前2作とはまた違う、これぞまさに男子演劇部員の魅力全開!
といったテイストで、大いに会場を沸かせてくれました。
 
中でも主人公である熊さんとはっつぁんの噺家姿は、高校生とは思えない風情が。
落研4人が、目の前の友達を笑わせようと
がむしゃらになってネタをそらんじる場面は、抜群のインパクト。
バカでカッコ悪くて、だけど何かカッコいい、
そんな男の友情の素晴らしさに目頭が熱くなった人も多いのでは。
 
また、菊池さんのツンデレっぷりに場内から思わず拍手が沸き起こる場面も。
 
観客からも「ストーリーが面白かった」「ノリがすごくいい」とストレートな感想が続々。
「落語らしく、オチもしっかりしていた」ことも好評価につながっています。

栃木県立さくら清修高校『自転車道行曾根崎心中』

さくら清修
4校目は、栃木県立さくら清修高校『自転車道行曾根崎心中』。
同校では初となる全国出場。
平凡な教室に並ぶ自転車。「起立、礼、乗車」という挨拶に、客席からは思わず笑い声が。
以降も、誰かが自転車をこぐのをやめるびに、舞台がじんわりと暗くなるなど、
その奇抜な設定で冒頭からお客様の心をがっちりと掴んでいました。
 
しかし、その内容は、観る者の想像力が大いに試されるものでした。
突如、教室内に運び込まれた“転校生”という名の黒い箱。そして少しずつ減っていくクラスメイト。
劇中では、直接的な説明は一切入っていませんが、そのモチーフは原発。
同校の隣にある矢板市の国有林が放射性物質を含む
指定廃棄物の最終処分場候補地に選定されたことをきっかけに、
顧問の岩崎教諭や生徒が中心となって生まれたという本作。
故郷をゴーストタウンに変えていく原発問題を、今一度、私たちに提起しています。
 
自転車を漕ぎながら、故郷を去った親友に対し、
「自分はこの街で生きていく」と宣言する主人公の姿は凛々しく清らかで、
ひらひらと舞う雪とバックに映し出された豊かな故郷の景色には、演劇的な美しさがありました。
 
観客からも「最初はよくわからなかったけれど、いろいろ考えさせられた」
「もう一度、はじめから見てみたい」と、
暗示されたメッセージに対する反響があちこちから沸いていました。

瓊浦高校『南十字星』

瓊浦
そして、初日を締め括ったのが、瓊浦高校『南十字星』です。
あの劇団四季の『南十字星』を高校生がチャレンジするという意欲作。
2時間あまりのミュージカルが高校演劇用に1時間にまとめられており、
劇団四季が高校演劇に脚本を提供したのも今回が初めてとのこと。
ファンの多い作品だけに、ともすればイメージが違うという声も上がってきそうですが、
原作の舞台に対する敬意を持ちながら、
ひとつひとつの場面を丁寧に作りこんでいるのが印象的でした。
 
特に照明は趣向を凝らしており、終盤、投獄された主人公とその婚約者が
格子越しに指切りを交わす場面は、息を呑むような美しさ。
悲劇に消えたふたりの愛の儚さを、その青白い光がより鮮烈に引き立てていたように見えました。
軍事裁判にかけられた主人公が、長崎の悲劇を米国軍に訴える場面の切実さは、
長崎代表である瓊浦高校だからこそのリアリティ。
 
観客からも「舞台美術や衣裳のこだわりがすごかった」、
「戦争について改めて考えさせられた」と、壮大な世界観に圧倒されたような声が目立ちました。

やっぱり高校演劇は面白い!

初日にして、すでに完成度の高い作品が相次ぐ全国大会。
「日本一」の称号を争う舞台だけに、お互いの舞台に影響され、
2日目以降の上演校もますますヒートアップしていきそうです。
 
個人的な感想としては、思ったよりも観客の解釈に委ねるような、
余白のある作品が多いなということ。
その分、逆にシンプルなエンターテイメントに徹した
『ちょっと小噺。(ちょこばな。)』の気持ち良さが目立ったかもしれません。
 
また、全体的に台詞の掛け合いや場面転換などゆったりしたお芝居が多かったようにも感じました。
これは私が大阪出身で、テンポの速い台詞の応酬に慣れているからかもしれませんね。
こうした県民性の違いを楽しむのも、全国ならではの面白さと言えそうです。
 
さあ、6校目の上演まで残り7時間を切りました。
ここからどんな舞台が生まれてくるのか。2日目も目が離せません!

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