第63回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【1日目】

今年もまた、この熱い季節の到来です。
夏が来れば思い出すのは、遥かな尾瀬より、総文でしょ!
ということで、今年も開催地・宮城より高校演劇生の眩しい煌めきの瞬間をレポートします。
現地民も、茶の間組も、この一瞬の輝きを永遠にその瞼に焼きつけてくださいね~。

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

千葉県立八千代高校『煙が目にしみる』


まず1本目は、劇作家・堤泰之の『煙が目にしみる』に、八千代高校のみなさんが挑戦。
よくいろんな劇団で上演されている人気戯曲のひとつですが、
八千代高校のみなさんは伸びやかに、また爽やかに、
永遠の別れを迎えた二組の家族の物語を演じきってくれました。
 
舞台は、火葬場の待合室。
ベンチに座っているのは、今まさに遺体を焼かれようとしている故人の幽霊。
悲しみに暮れる遺族はもちろんその幽霊を目にすることはできませんが、
なぜか痴呆症気味のおばあちゃんだけは二人の幽霊が見えて会話もできるよう。
 
そこから巻き起こる悲喜こもごもの人間模様と、
死者から生者に贈る最後のメッセージが、観客の笑いと涙を誘います。
 
悪意的な登場人物は一切登場しない、
不純物ゼロのハートウォーミングストーリー。
ともすれば、あまりの良く出来た話感が鼻につくところですが、
そう感じさせないのは、やはり八千代高校のみなさんの演技に衒いがなく、
戯曲の持つテーマ性をまっすぐ観客に届けようとしてくれているから。
 
死んでしまった二人のお父さんもそれぞれキャラクターこそ異なるものの、
死の悲壮感を一切感じさせず、観る者の心をほっこりと和ませてくれる演技でした。
 
中央の銀杏の木も実に色鮮やかで、
人生の黄昏時を迎えた二人のお父さんと家族の別れを象徴しているかのよう。
 
生徒講評委員会でも、
「人の死は悲しいけれど、そこから始まる新しい出会いもあるのだと思った」
「『煙が目にしみる』というタイトルが、
 泣いているのを隠そうという強がりのような感じがしていい」
「言葉を発しないシーンが印象的。後ろ向きに煙草を吸っているシーンが
 泣いているように見えて印象的だった」という声が。
 
また、実際に父親を亡くした経験を持つ高校生からは
「現実では、死んでしまったら言いたいことは言えない。
 こんなふうに綺麗にはいかないので、少しモヤモヤが残った」と
率直な感想も寄せられていました。
 
八千代高校のみなさん、お疲れ様でした!

埼玉県立秩父農工科学高校『流星ピリオド』


1校目の八千代高校が、純度100%のハートフルコメディなら、
2校目の秩父農工科学高校は序盤から露悪的なムードが漂うダークストーリー。
 
賑やかに会話をする若者たちがテンポよく描かれていきますが、
そこは実はグループチャットの世界。
友人同士が、実際には顔を合わせることなく、
文字だけでコミュニケーションをとっていきます。
 
既読無視に対する恐怖心や、
もう使っていないけど退会しづらいグループが山のようにあるという
現代高校生のモヤモヤが実に上手く描かれていて、
お芝居でありながら、どこか実際の自分たちのリアルを見せつけられているような気分に。
 
そして、そこに切り込まれていくある一人の女の子の死。
彼女は本当にただの事故死なのか、それとも…。
死んだ女の子をめぐる後悔と愛の物語かと思いきや、
ラスト5秒ですべてが暗転します。
 
高校演劇ではなかなか見られない衝撃の結末に、
客電がついた瞬間、客席からは悲鳴のようなざわめきが。
途中、随所に差し込まれていた正体不明の効果音の意味も最後に明かされ、
モヤモヤしながらもどこか痛快な余韻さえ感じました。
 
生徒講評委員会では、
「これで終わりじゃないよね。どうかこの後まだ続いてほしいと思った」
「アニメチックな設定でハッピーエンドかと思ったら、ユズハやべえな」など
やはり震撼のラストに驚きの声が続出。
 
また、実際にスマートフォンを持っていないという高校生から
「俺がスマホを持たない理由は、画面上では気持ちが伝わらないし、
 正面で向き合って話すことを大事にしたいと思っているから。
 そういう意味でも共感できる、いい劇だと思った」という感想が出てくるなど、
同世代の高校生は共感しきりだった様子。
 
また、「着信音が気持ち悪かった」
「舞台美術が、機械的な雰囲気や、人間の心とかけ離れた冷たい感じを表していた」
など、スタッフワークにも高い評価が集まりました。
 
秩父農工科学高校のみなさん、お疲れ様でした!

徳島市立高校『どうしても縦の蝶々結び』


3校目は、独特のタイトルが印象に残る徳島市立高校。
 
高校演劇の世界で学校を舞台にした作品は数多くありますが、
事務室を取り上げた舞台は非常に稀。
まずはその着眼点に新鮮な面白さを感じました。
 
事務室を忠実に再現した手の込んだ舞台美術はもとより、
そこで働く阿部さん、田中さん、遠藤さんの3人もそれぞれリアル。
自分より明らかに年上のキャラクターを違和感なく演じられる
徳島市立高校の演技レベルの高さに舌を巻きました。
 
そして、その中で瑞々しい輝きを放つのがヒロインの高橋さん。
仕事ができずに先輩の阿部さんに叱られる新人職員を、
見ているこちらが応援したくなるような愛らしさと、
どこかイライラしてしまうリアルさを見事に同居させて体現しました。
 
どうして事務室を舞台にしたのか。
その疑問は、途中、高橋さんの家庭環境が語れることで明らかに。
この物語が単なるお仕事ドラマではない、
家庭環境の格差で将来を諦めざるを得ない現代高校生の
リアリズムあふれる青春劇なのだとわかります。
 
正しい蝶々結びも教えてもらえない。
下に弟がいるから、大学に行くことさえできない。
抜け出せない環境に自分の将来さえ諦めてしまったような高橋さんが、
「縦結びさん」とのつながりを通して、自らの呪縛を紐解き、
一歩踏み出そうとする姿が清々しく、胸を打ちました。
 
生徒講評委員会では、
「何を頑張ればいいんですかという台詞に共感できた」という声が出る一方、
「入りこめなかった」「甘いんじゃないかと思った」など主人公への反発の声も。
「見ていてムシャクシャするのは、
 心のどこかで言い訳している自分を目の当たりにしているから」
など、自らと重ね合わせたような感想も印象的でした。
 
また、努力というキーワードに対し、
「努力して叶う人もいれば、叶わない人もいる」
「努力することは大事。叶わなくても報われることはある」
など様々な意見が。
「最後に事務員の志望動機を言えるようになった高橋さんは、
 きっと報われたんだと思う」と、主人公のこれからを想う声も上がりました。
 
徳島市立高校のみなさん、お疲れ様でした!

宮城県名取北高等学校『ストレンジスノウ』


続いては、開催県代表の名取北高校。
 
同じ演劇部員の女優デビューが決まった。
その快挙に沸き立つ部内に持ち上がったのは、
女優デビューが決まった「篠原ゆき」と、
自分たちが知っている「有美先輩」は別人であるという疑惑。
 
そこへ登場する有美先輩。
彼女は自分が「篠原ゆき」だと主張して譲らない。
そしてついには今度の映画の衣装だと言い張り、
ウエディングドレスを着て部室に現れる。
 
ただの虚言壁なのか、それとも解離性同一性障害なのか。
 
一風変わった不気味なサイコホラーは、
終盤、友人のリカの指摘から全貌を一変させます。
 
有美が東日本大震災で妹を失ったこと。
妹の死は自分のせいだと思いこんでいること。
その心の傷で彼女の人格は壊れてしまった。
 
有美と友人のリカの叫びには、東日本大震災から6年が過ぎ、
被災地以外で暮らす多くの人たちが知ることのない、
「震災後」のドラマがこめられていました。
 
何と言っても、不気味な違和感を抱かせたのは、
その言葉遣いと演技スタイル。
他校が「それな!」など現代的なワードを多用する中、
「~している」「あなたは嘘をついていない」など
まるで感情を乗せることは一切排したような硬い言い回しと、
それを丁寧に読み上げるような独特の演技が、
多くの観客の間で物議を醸しました。
 
これには、生徒講評委員会でも「なぜ片言だったのかな」と疑問の声が。
「普通では絶対しない喋り方で、怖いなと思った」
「恐怖心を煽ってくるような喋り方なのかなと思った」
と、その不気味さにおののく人もいれば、
「ゆっくりとした台詞の言い方だからこそ、
 ひとつひとつの言葉を受け止めようと思えた」と好感を持つ人も。
 
また、弟を亡くしたリカが、
「健太は私を助けるために隠れたまま出てこなかった」と言ったのに対し、
「小さい子どもだし絶対違うと思う。でもそういうふうに捉えないと生きていけない。
 そこにいちばん苦しさを感じました」と深い洞察を寄せる声も。
 
最後は「震災を忘れちゃいけないなと思った。
ずっと記憶にとどめておかなければ」とかみしめるように語る姿が胸に残りました。
 
名取北高校のみなさん、お疲れ様でした!

茨城県立日立第一高校『白紙提出』


1日目の最後を飾ったのは、日立第一高校による爽快コメディ。
 
普通、1日に5本も観劇していると、
どうしても終盤は疲労が出て集中力が欠けてしまうもの。
 
しかし、そんなハンデをものともせず、
むしろ最初から最後まで観客を大いに笑わせた日立第一高校の
潔いまでのエンターテイナーシップにまずは拍手を送りたいと思いました。
 
冒頭からキレのあるアイドルダンスで見せ場をつくり、
そこからは恋や性に悩む男子高校生の葛藤を
あくまでコメディとして笑いたっぷりに描き、劇場を爆笑のるつぼに。

エロ本の使い方から、高速移動の表現、
強烈すぎる主人公の父・母・弟のキャラクターなど、
とれる笑いは根こそぎとってやるという貪欲な姿勢も好感度大。
 
それでいて、バレエシーンや映像を使った心理描写など、
演劇的な見せ場も盛りだくさんに組みこまれていて、
最後まで飽きることなく楽しむことができました。
 
多感な高校生にとって「気持ち悪い」という言葉は、
「バカ」より「チビ」より「デブ」より「ブス」より、
強力な破壊力を持った言葉。
ある意味、その人の人格そのものを否定する渾身のキラーワードです。
 
その「気持ち悪い」という言葉を軸にしながら、
主人公が自分の気持ち悪さを認め、受け入れていくまでのプロセスが
コメディの体を守りつつ、丹念に描かれていたことも良かったですね。
 
生徒講評委員会でも、
「笑いの中に、やめたいけどやめられない葛藤が伝わってきて、
 面白い中で考えることができる劇」と大好評。
 
「壁に映った影が檻に見えた。その檻が壊れていくことで、
 主人公のしがらみも壊れていくように感じられた」
「日本では男性のバレエダンサーはメジャーじゃない。
 あえて、そこをバレエで挑んだところに、
 ただの演出じゃなくて、ジェンダー的なものを感じました」
と演出の意図をしっかりと読み解いた様子。
 
タイトルの『白紙提出』という言葉に対しても、
進路調査票という額面通りの意味だけでなく、
「自分のことを認めた主人公の気持ちを表しているんじゃないか」
「上から何色でもかぶせられるのが白。
 人の個性を表していて、何を描いていくのは自分次第という意味では」
と様々な考察が活発に交わされました。
 
日立第一高校のみなさん、お疲れ様でした!

2日目も見逃し厳禁の作品連発です!

完成度の高い作品が多く、1日目にして満足度満点の今年の総文。
きっと2日目も勝るとも劣らない作品が続々と発表されるはず。
推しの高校だけでなく、ぜひどの作品も観て、
この年に一度のお祭りを大いに楽しんでください。
 
2日目の上演校のみなさん、応援していますよ~!

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