無料ソフトでできる!高校生のためのチラシ講座【劇団犬と串 藤尾勘太郎】
今や高校演劇もネットで宣伝ができる時代。校内に掲出するだけでなく、ツイートにチラシ画像を載せるだけで、宣伝ツイートもぐっと目を引きやすくなりますよね。チラシのデザイン次第では、そこから一般のお客様を巻き込むチャンスも十二分にあり得ます。
ということで、2017年3月末、小劇場を中心に数多くのチラシのデザインを手がける俳優の藤尾勘太郎さんをゲストにお迎えし、高校生のためのチラシ講座を実施。
今回はその講座の模様をみなさんにもお届けします!
(Text by Yoshiaki Yokogawa)
PROFILE
1986年12月27日生まれ。東京都出身。08年、劇団犬と串に参加。case.1『メスブタ』以降、ほぼ全公演に参加している。その他の客演に、串田版『K. テンペスト』、Mrs.fictions『再生ミセスフィクションズ- 私を東京へつれてって-』、現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』、the PLAY / GROUND vol.0『背信|ブルールーム』、20 歳の国『保健体育B』、風琴工房『insider-hedge2-』、クロノステージvol.3『鏡の中のAuftact』などがある。
○公式ホームページ
http://sakanatokirin.wixsite.com/triangle
○劇団犬と串公式ホームページ
チラシづくりと演技の意外な共通点とは?
藤尾さんも実は高校演劇出身。俳優として所属劇団の犬と串をはじめ、風琴工房、20歳の国など人気劇団にも多数客演を果たしてきた藤尾さんが、チラシデザインをはじめたのは、自劇団のチラシをつくるようになったのがきっかけだったのだとか。
独学でデザインを勉強し、以降、手がけた公演チラシは40作品以上!
そんな藤尾さんがチラシのデザインを経験した上で感じたこと。それは、「チラシデザインも俳優業も変わらない」ということでした。
なぜなら、「チラシデザインも演技もゼロから何かをクリエイティブするものではない」から。
脚本や小説を書く作業のように、何もないところからモノをつくるものではありません。俳優が台詞やト書きを頼りに脚本の趣旨を理解し、演出の言葉を聞いて意図を把握し、役の人物像を構築していくように、チラシもまた与えられた脚本やプロット、演出のイメージなどをベースにデザインを組み立てていくもの。
だから、俳優やスタッフとして創作に参加している人ならば、きっとデザインの資質も育てられているはず。やったことがないから、と身構える必要はないのです。
その上で、藤尾さんが考えるチラシデザインとは…
この極意を抑えつつ、チラシづくりのステップを紹介していきます。
打ち合わせ
まずは演出を担当する人と打ち合わせをしましょう。
ここで抑えておきたいのは、チラシを通じて、「何を伝えたいのか」「どう思われたいか」。公演日時や会場など基本的なデータが記載されてることはもちろんですが、作品イメージをどんなトーンやテイストで手に取る人に伝えるかが重要です。
あたたかいのか?
クールなのか?
ポップなのか?
スタイリッシュなのか?
チープなのか?
いろんな角度から、演出の意図を把握しにいきましょう。
アイデア出し
「何を伝えたいか」「どう思われたいか」を理解したら、それを実現するための表現方法を考えましょう。
ここでは実例を挙げながら、ご紹介します。このアイデア出しをするときに、藤尾さんがよく実践しているのが連想ゲーム。
たとえば、上は『サヨナラサイキックオーケストラ』のチラシ裏面。
本作は、タイトル通りサイキッカー(超能力者)が登場する物語。そこで超能力者から連想し、浮かんできたのがスプーン曲げ。さらにそのスプーン曲げのシルエットから連想したのが、音符マーク。チラシの隅に配置された五線譜と音符は、そんな連想ゲームから生まれたのだそう。
他にも、こちら俳優の一色洋平さん小沢道成さんによる2人芝居『巣穴で祈る遭難者』。
防寒コートを羽織ったツーショットが前面に強調されていますが、何やら違和感が…。そう、一色さんと小沢さんの目や口などパーツがそれぞれ相手のものと入れ替わっているのです。
なぜなら、本作品がステージごとに2人の俳優がそれぞれお互いの役を入れ替えて演じるというものだったから。この公演の特徴的なポイントをヴィジュアライズしたものが、パーツを入れ替えるという表現だったのです。
これも、「入れ替える」というキーワードから連想して生まれたアイデア。作品のキーワードを抑えつつ、頭を柔らかくして発想を転換していくことが、翻訳作業の秘訣のようです。
より良いアイデアを生むための訓練法とは?
と言っても、なかなかアイデア出しって難しいですよね。そこでデザインスキルを上げるための筋トレとして、藤尾さんがオススメしていたのがこの2つ。
【1】アイデアをパクろう
「パクる」というと身も蓋もなく聞こえますが、これだけデザインが溢れる時代、100%オリジナルのものを生み出すのは難しい。世に氾濫する様々なデザインも、既存のアイデアを合成することによって新しい価値を生み出しているものがほとんどです。
丸パクりはNGですが、自分の発想を広げるヒントやモチーフとして有効活用するのはひとつの手。藤尾さんも、いいなと思ったチラシはストックしておいて、何かあると見返すのだそう。みなさんも劇場に行ったら、チラシの束から好きなものだけ持ち帰って、実際にチラシをつくるときの参考にしてみるといいかもしれません。根幹となるアイデアから、文字のフォントやレイアウト、色の使い方などディティールまで真似したくなるところがきっとあるはず。
ちなみに、距離やお金の問題でなかなか劇場に行けないという人はこんなサイトを使ってみるという手も。
http://eplus.jp/sys/web/cst/index.html
「チラシステージ」は、全国の舞台公演のチラシがまとめて見られるアプリ。スマホで簡単にいろんなチラシがチェックできるので、デザインの引き出しを増やしたいときにオススメですよ。
【2】興味のあるものを広げよう
演劇部に所属のみなさんなら、大なり小なり「演劇」に興味はあると思いますが、他に好きなものを挙げてと言われたら、どれくらい瞬時に思いつきますか?
野球やサッカーといったスポーツから、漫画、アニメ、ゲーム、小説、映画、音楽、美術といった文化やアート、さらには料理や旅行、ファッション、カフェめぐりなど日常を充実させるものまで、好きなものの数が多い人は、それだけ引き出しの数が多いということ。
たとえば、野球やサッカーが題材のお芝居のチラシをつくるなら、やっぱり野球やサッカーをよく知っている方がアイデアも膨らみますよね。幅を広げていくには、自分自身の知識と経験値を増やすのが最善策。いろんな体験をして、興味のあるものを広げることが、デザインスキル上達の秘訣なのです。
デザイン作業/すり合わせ
アイデアが固まったら、いざ実作業へ。
ここで、チラシ制作のためのツールをご紹介します。本来ならPhotoshopやIllustratorといったソフトを使うのが最も良いのですが、どちらも高額だけに高校生で手が出せる人はごくわずか。そこで、今回はこれらに近い機能を持った無料ソフトを使って作業を進めます。
藤尾さんが紹介してくれたのが、無料画像編集ソフト・GIMP。これはPhotoshopと同じ画像編集ソフトのひとつです。パソコンにGIMPが入っていないという方は、まず下記ページを参考にダウンロードしてみてください。
https://synclogue-navi.com/gimp-install
ダウンロードが完了したら、さっそく使ってみましょう。使い方もこちらのサイトに詳しく紹介されています。
https://synclogue-navi.com/category/gimp
とにかく最初は自分で手を動かしてみるのが、上達への近道。お気に入りの画像を材料に、失敗を恐れずさわってみてください。文字を載せたり、画像の中の人物や花だけを切り抜いたり。慣れれば、できることがどんどん増えていきますよ!
チラシをカッコよく見せる簡単テクニック9選
とは言うものの、まだ慣れないうちは、それほど技術はありません。少ない武器を使って、デザインをカッコよく見えるためにはどうすればいいのか。藤尾さん直伝のすぐに使える実践テクニックを伝授します。
【1】フォントの大きさをそろえよう
ひとつのチラシの中で、文字のフォントがあまりにバラバラだと、一気に見づらいものに。情報の重要度に応じて、ある程度、フォントの大きさを統一した方が、印象もスッキリします。
【2】ラインをそろえよう
お客さんに必要事項を伝えるためにいろんな情報を詰め込みたくなるのが心情ですが、あまりゴチャゴチャしすぎるとその時点で誰も見てくれません。わかりやすく伝えるには、テキストの頭やお尻の位置をそろえてみるのがオススメ。
上のチラシは、タイトルもあらすじも公演情報や地図もすべて幅が均等にそろえられています。おかげで情報は多いのに、あまりゴチャゴチャした感じがしないですよね。全体をスッキリみせたいときに、ぜひ覚えておきたいテクニックのひとつです。
【3】色の数を減らす
1枚のチラシに、あまりにも多種多様な色を盛り込むと目がチカチカしてしまいます。
上のチラシは、表もイラストの描き込みが多く、裏も情報量が多いのに、色を黄色とオレンジをベースに暖色でまとめているおかげで、あまりゴチャゴチャした印象を与えません。
上のチラシもほぼピンクで統一されているので、とても見やすいですよね。このように、色の種類を最低限に絞り込むことで、「おぬし、デキる…!」感を演出しましょう。
【4】余白をもうける
つめこみすぎるとNGなのは、脚本もチラシづくりも同じ。
たとえば、上のチラシ。全体的に文字をびっしりつめこんでいる中、左下だけ余白がありますよね。この余白のおかげで、添えてあるコピーもグッと際立ちます。ついつい余白があると何か盛りこみたくなりますが、その欲を抑えて、あえて余白をもうけると、俄然印象もアップします。
【5】写真を単色でつぶす
上のように、写真を特定の色で塗りつぶすと、また違った雰囲気に。この方法は以下の通り。
まずはGIMPを開き、左上の「ファイル」から「レイヤーとして開く」を選び、加工したい画像を選択します。
元画像が表示されたら、今度は「レイヤー」から「新しいレイヤーの追加」をセレクト。
すると、上記のような画面が表示されるので、ひとまず「OK」をクリックしてください。レイヤーとは画像のパーツを層に分ける透明のシートのようなもの。このレイヤーに文字を載せたり、別の画像を載せることで、何層ものレイヤーが組み合わさった加工画像をつくるのです。今回は元画像に別の色を載せるため新しくレイヤーを追加します。
画面左にいろんなアイコンが並んだツールボックスがあります。まずは①の部分をクリックし、元画像の上に載せたい色を選んでください。色を決めたら次は②のインクバケツボタンを選び、そのまま元画像をクリックしてください。
すると、画面が真緑に。先ほど追加したレイヤーに緑色を載せたということになります。では、元画像とどう色味のバランスをとればいいかと言うと、画面左にレイヤーというウィンドウがあります。ここで画面の不透明度を調整できるので、お好みに合わせて不透明度を0~100%で調整してください(デフォルトは100%です)。
たとえば、30%だとこんな感じ。いろいろ自分で調整しながら、好きな色味を見つけてみてください。
その他、普段からLINEカメラやinstagramで画像加工するのに慣れている方なら、下のようなサイトで画像加工をするのもアリです。PCでもインスタライクに画像の雰囲気を変えられるので便利ですよ。
【6】無駄に英語にする
日本人たるもの、英語に謎のオシャレ感を持っているもの!
たとえば公演日程を「2017年4月12日(水)」から「2017.4.10 wed」に変えてみるだけで、なぜだかスタイリッシュに。キャストの名前を敢えてローマ字表記にしてみたり。ちょっとした小ワザが、見る人の印象を大きく左右するのです。作品のイメージに合わせて、こういった細かいところにもこだわってみては?
【7】枠をつけるとオシャレに
写真やイラスト、文字を配置してみたものの何となく味気ない。そんな時は枠をつけてみてはいかが?
このように枠をつけるだけで、ちょっとしたアクセントが。このひと工夫が、他のチラシと差をつけるのです。
【8】謎に棒とか並べる
こちらも、デザインに味つけするスパイスのようなもの。
たとえば、上のように棒を入れてみるだけで、何となくこなれ感が出てきますよね。
その他、公演情報や出演者名などのデータを並べるときに、ジャンルごとに棒で仕切ってみるとわかりやすさもアップ。こうした小ワザをフル活用して、目につくチラシを目指してください。
藤尾さんの講義は一旦ここまで。
藤尾さん曰く最初のうちは難しいことにチャレンジせず、少ない技術でやれることに挑戦した方が良いのだとか。確かに「こんなことをしてみたい!」と願望を膨らませても、自分のスキルが追いついていないと、なかなか理想通りにはいかないもの。まずは基本をしっかり抑えつつ、徐々にレベルアップを目指すといいですね。
お家にパソコンがある方は、早速次回の公演からチャレンジしてみては?
お芝居をつくるだけが演劇じゃない。広報・集客・当日の案内、いろんなところに目を向け気を配ることで、お客様に楽しんでいただける時間をトータルプロデュースできると思います!
注意事項
※家のパソコンにGIMPをダウンロードする場合は、必ずおうちの方の許諾をとってくださいね。
※市販ソフトであるPhotoshopとGIMPの最大の違いは、CYMKのサポートがなく、RGBのみ対応していること。
CMYKとはざっくり言うと、色の表現方法の一種で、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4成分によって色を表します。おうちにプリンターがある方は、カラーインクを見るとよくわかるかもしれません。一方、RGBは赤、緑、青の三つの原色を混ぜて幅広い色を再現しています。パソコンやテレビの液晶画面で使われているのは、このRGBですね。そのため、RGBで作成した場合、印刷したときに画面で見たものと色味に違いが出ることも。また、印刷屋さんにお願いして大量印刷することができません。この点をあらかじめご了承ください。
※なお、GIMPを使いながら作業をしていく中で、万が一、パソコンにトラブルが発生した場合も、『ゲキ部!』で責任は負いかねます。この点もあらかじめご了承ください。
INFORMATION
今回、いろんなテクニックを教えてくれた藤尾さんの最新舞台出演作はこちら。
所属劇団である犬と串の主宰・モラルさんが脚本・演出を務める舞台『昆虫戦士コンチュウジャー 〜ただの再演じゃ終わらない、そうだろみんな!?〜』が、2017年5月10日より東池袋・あうるすぽっとにて上演されます。
昨年大好評を博した、昆虫戦士と怪人たちの熱き戦いを笑いたっぷりに描いた新感覚ヒーローコメディが、今年8月上演予定の続編を前に、異例のスピード再演。きっと観終わった後は「楽しかった~!」と劇場を後にできるはず。
詳しくは公演公式ブログをご覧ください。
また、7月には、ゴジゲン番外編『なんかすごいSF的なやつ』にも出演決定!
ゴジゲンとは、名脇役6人の共演が話題をさらったドラマ『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』の脚本・監督を手がけた松居大悟率いる人気劇団。今回は、その松居大悟が不在で、作を堀善雄が、演出を目次立樹が務める異色企画です。
藤尾さんの「いつもの定食屋さんの店長がいなくて、店長の友達たちが運営するみたいです」というコメントにある通り、どんな味になるのかはまったく未知数。それだけに、新しいゴジゲンワールド誕生の予感必至です。
こちらもぜひ公式サイトから情報をチェックしてくださいね。
藤尾さん、タメになるお話をありがとうございました!