しんどいときこそが勝負。キャラメルボックス関根翔太が部活で培った「困難に打ち勝つ思考術」

西川浩幸、上川隆也から岡田達也、大内厚雄、そして畑中智行、阿部丈二、多田直人と演劇集団キャラメルボックスの歴史を彩ってきた主演俳優の系譜に、新たな名前が加わった。2013年入団、26歳の関根翔太が10月4日から全国を巡演するキャラメルボックス2017グリーティングシアターVOL.4『光の帝国』で待望の初主演を飾る。

入団5年目で迎えた大きな転機。このターニングポイントを迎えるまでの間に、どんな変遷を辿ってきたのだろうか。期待の成長株の軌跡を振り返った。

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

関根 翔太(せきね・しょうた)
1991年2月19日生まれ。演劇集団キャラメルボックス俳優教室10期生として研鑽に励んだ後、2013年、入団。2014年、『ヒトミ』で初舞台。近作に『嵐になるまで待って』『フォーゲット・ミー・ノット』『きみがいた時間 ぼくのいく時間』などがある。劇団公演以外では、『カーテンコールは終わらない』『スキップ』などに出演。高校時代は卓球部に在籍。大学では園芸学部を専攻し、地域社会学を学ぶ。

どんなにしんどくても部活は3年だけ。そう思ったら逃げずに乗り越えられた。

――『ゲキ部!』は高校演劇に打ちこむ高校生を応援するメディアです。関根さんの高校時代の思い出は?

僕は中・高と卓球部に在籍していたので、その思い出がいちばん大きいですね。

――そうなんですね。選手としては強かったんですか?

いやいや、僕は全然。ただ高校に入ってすぐ、それまで強豪校の顧問をしていた先生が赴任してきたんですよ。ちょうど僕らがその先生の教えを受けた最初の代。とても厳しい先生で、よく怒鳴られたりはしていましたね。

――上の大会を目指していこう、というような?

そうですね。まずは県大会進出を目標に掲げていました。ただ、1年生の頃はまだ僕自身も上に進むということがどういうことなのか本当の意味ではわかっていなくて。すごく接戦だったんですけど、あと一歩というところで、県大会の切符を逃してしまったんです。そこからですね、本気で県大会に行きたいと思うようになったのは。目標が見えているのに、手が届かない。その悔しさを初めて知って、練習への取り組みもがらっと変わった。おかげで2年生のときは団体でも個人でも県大会に行くことができました。

――具体的にはどんな変化が?

何より意識したのは「1日1日を大切にすること」ですね。授業がある以上、部活にあてられる時間は限られている。その中で上達するには、練習の密度を濃くするしかないと先生から言われて。僕たちはとにかく打ち込みとフットワークという基礎中の基礎を徹底的にやっていました。

――素人質問ですみません。フットワークというのは?

足の動きを鍛える練習のことです。球の打ち方には、フォアハンドとバックハンドの2種類があるんですけど、フォアの方が骨格的にも強い球が打てるし安定するから、すべての球をフォアで返すというのが、うちの学校の戦術でした。けど、すべてフォアで返球しようとすると、その分、たくさん動かなくちゃいけない。その練習をひたすら繰り返していました。やっぱりスポーツも演劇も基礎が大事。たとえ特別なプレイヤーがいなくても、基礎をきちんと鍛えることで、強いチームはできるんじゃないかと思います。

――部活から学んだことは何ですか?

しんどいときこそが勝負だ」ということ。フットワークも足が動かなくなってからが勝負なんです。限界まで来た方が自然と無理のないフォームができる。練習も同じです。先生は厳しかったし、よく叱られてはヘコたれていましたけど、そうやって一度逆境に追いこまれた方が自然と這い上がる力が沸いてくる、というのはありましたね。

――何事も真剣に打ちこめば苦しみはついてまわる。中には、その苦境に耐えられず心が折れてしまう高校生も少なくありません。関根さんがどんなにヘコたれても逃げずに続けられたのはなぜでしょう?

うーん。逃げる勇気がなかったというのもあるけど、「言っても3年間だけでしょ」という開き直りみたいなものが支えになっていたところはあるかもしれない。どれだけ辛くても部活は3年間だけ。長い人生で見れば、ほんの一瞬のことです。だったらその3年間くらいはたとえぶっ倒れようが歯を食いしばって乗り越えてみたらいいんじゃないかなって。

――確かにそのマインドは大事かもしれないです。

それに、部活で鍛えた忍耐力は、確実にキャラメルボックスでも役立っています。僕自身、とことん追いこまれて、ようやく求められているものが引き出されるタイプ。(作・演出の)成井(豊)さんもそれをよくわかっているから、僕に対する指導は容赦ありません(笑)。成井さんの厳しい指導に耐えられるのは、3年間の部活があったから。ほっとくとすぐ怠けちゃう性格の僕ですが、それでも最近は「しんどい方が人生楽しいな」って思えるようになりましたね。どんなしんどいことも、自分がもうひとまわり大きくなるための成長痛なんだって、そうプラスに受け止めれば楽しめると思いますよ。

最初のオーディションでは不合格。二度目のチャレンジで掴んだ夢への切符。

――では、ここからは演劇の話を。演劇との出会いは?

大学生になってミュージカルサークルに入ったのがきっかけです。

――ストレートプレイではなくミュージカルからのスタートだったんですね。

そうなんです。自分で観に行くのも劇団四季や東宝ミュージカルがほとんどで、ストレートのお芝居はほとんど知りませんでした。それが大学3年生くらいのときかな。本格的にお芝居をやってみたいと思うようになって、友人にストレートプレイでどこかオススメはないか聞いてみたんです。そこで貸してもらったのが、キャラメルボックスの『ミスター・ムーンライト』というDVD。もう一発で好きになって、これは生で観なければと、ちょうど当時やっていた『トリツカレ男』の再演に当日券で飛び込みました。

――何にそんなに心を打たれたのでしょう?

もともと笑いあり感動ありという作品が大好きなんですけど、キャラメルボックスはまさにその言葉を体現するような劇団で。その後もいろんな劇団を観に行ったんですけど、初めてキャラメルボックスを観たときの衝撃を超えるところにはなかなか出会えなかった。それで、その年の入団オーディションを受けたんですけどダメで…。大学4年のときに9ヶ月間、俳優教室に通った後、もう一度オーディションを受けて、何とか合格になりました。

――合格が決まったときの心境は?

実はオーディションは全然手応えがなかったんですよ。完全に落ちたと思い込んでいたので、合格の通知を読んだ瞬間、人生で初めてガッツポーズをしました(笑)。

――そして念願の劇団員に。夢見たキャラメルボックスの世界はいかがでしたか?

成井さんと最初の面談をしたとき、「役者は個人事業主だから」と言われて。その言葉は、すごく自分の指針になりました。キャラメルボックスは芸能事務所というわけではない。あくまで、ひとつの作品をつくるために集まった有志の団体のようなもの。だから、劇団に入ったからと言って、決してゴールというわけじゃない。むしろここからが本当のスタート。キャラメルボックスの看板に頼るのではなく、どうやって役者として自立できるようになるか考えていかなくちゃいけないんだなと思ったのを覚えています。

――新人時代で覚えていることは?

もう自分のことで精一杯でした。たとえば、稽古中、代役を任されたりするんですけど、代役の僕の方が本役の先輩たちよりもダメ出しをされるんです。できないことがいろいろありすぎて、いっぱいいっぱいになってましたね。

ぶち当たった壁。「できない自分」を認めることで、いろんな道を見つけられた。

――初舞台は『ヒトミ』ですね。

そうですね。その前の公演で初めて前説をやらせてもらったんですけど、その時点で相当緊張していたので、こんな自分が舞台に立てるか不安でしょうがなかったです。

『ヒトミ』はDVDでも観たことがあったので、どんな作品なのかもわかっているし、僕が演じる若杉という役がどういうキャラクターなのかも十分に理解しているつもりだったんですけど、いざ稽古に入ってみたらどう演じればいいのかまったくわからなくて…。答えが見つからないまま本番を迎えてしまったという感じでしたね。本番中も、毎日劇場のロビーで成井さんから個人稽古を受けていました。

俳優教室のときは、たとえどんなに稽古が苦しくても、本番の幕が上がれば楽しいという気持ちしかなかったんですよ。でも正直に言えば、初舞台に関しては、舞台に立つことを心の底から楽しめていなかったと思います。

――どうしてそんな袋小路に迷い込んでしまったんだと思いますか?

たぶんどこかで自分のことを「できる」と思っていたのかもしれないですね。俳優教室のときも3回、中間発表会があるんですけど、毎回いい評価をもらっていて。大学卒業と同時にキャラメルボックスに入団することもできた。何もかもトントン拍子で進みすぎていたんです。自分で自分のことを「できる」と思い込んでいたから、「できない」ことがショックで、「何でできないんだ?」という壁にぶち当たっていたんだと思います。

――そんなどん詰まりの状況からどうやって抜け出していったんでしょうか?
ひとつは「自分はできないんだ」って開き直れるようになったことが大きいですね。「できる」と思っているからいつまでも目の前の壁から逃れられないのであって、「できない」と認めてしまえば、どうやったらできるようになるか、いくらでも他の道を探せるようになる。「自分はできる」という過信が、視野を狭めていたような気がします。

――なるほど。

あとは、キャラメルボックス以外のことに目を向けられるようになったのも、思考を切り替えるきっかけになったのかな、と。キャラメルボックスでは入団から3年間は新人期間ということで自分が出演していない公演にもスタッフとして関わります。その間はとにかく毎日がキャラメルボックス一色。そんな新人期間を終えて、ちょっと時間的に余裕ができたこともあって、今までやってこなかったいろんなことを始めてみたんです。中でも大きかったのが、ギターとジム通い。最初はどっちも全然上手くできませんでした。でも、少しずつ練習していくうちに弾けなかった曲が弾けるようになったり、何とかバク転ができるようになったり、徐々に自分の成長が見えてきて。できなかったことができるようになるのって純粋に楽しいことなんだって思えた。「できない」ことを楽しむ気持ちの余裕を持てるようになったことが、自分を変えてくれたのかもしれません。

――部活も同じかもしれません。部活漬けだと、どうしても近視的になってしまう。いかに「部活以外の場」を充実させるかが、結果的に作品づくりの糧になるのかな、と。さて、そんな葛藤を乗り越えて、この秋、いよいよ初主演です。

成井さんから初めて話を聞いたときは不安ももちろんありました。でもそれ以上に、楽しみだという気持ちの方が大きかったですね。たぶん昔の自分なら「頑張って楽しもう」と言い聞かせていたと思う。けど、「楽しもう」と思い込んでいる時点でもう気負いが入っている証拠。今はもっと純粋に楽しめる予感でいっぱいなんです。きっと入団当初の僕がこの役をもらっていたら気づけなかったいろんな美しさや豊かさに出会えるんだろうなって。そう思うと、自然と心がワクワクしています。

――これまでの歩みを振り返ってみて、俳優という道を選んで良かったと思いますか?

それは絶対に良かったと思います。だって、毎日楽しいことだらけですもん。お芝居をしていると、周りの人から「やりたいことやってて楽しいでしょ」と言われることがあるんですけど、実際はそんなことはなくて。他のお仕事と同じように、辛いこともたくさんあって、でもその中にすごく楽しいことがあるから、今こうして続けられてるんだと思います。きっと入団当初は「自分がやりたくてやっているんだから楽しまなくちゃ」と無理に言い聞かせていたから苦しかったんでしょうね。最近になってようやく肩の力が抜けて、日々の中にあるいろんな楽しさを自然と見つけられるようになった。それが、入団していちばんの変化かもしれません。

闇雲な練習では上手くなれない。まずは自分の苦手分野を自覚することが、上達への第一歩

――では、そんな関根さんに高校生から質問です。「演技を上達させるために、まずやらなければいけないことは何でしょうか?」とのことですが。

自分の苦手なところを明確にすることだと思います。闇雲に練習していても、なかなか上手くはなれなくて。やっぱり部活という限られた時間だからこそ、一人ひとりがちゃんと自分に必要なトレーニングは何か考えることが大事なんじゃないかなって。たとえば発声練習ひとつとっても、みんなでやっていると自分の声ってあまりちゃんと聞こえないから、自分がどの発声が不得意なのかよくわからなかったりするんですよね。課題ごとに必要なトレーニングは全然違う。まずは自分の苦手なところを知って、それを補強できるトレーニング法を調べたり、人に聞いたりしてみるといいと思います。

――次に、「練習をしていても、なかなか殻を破れていないとダメ出しを受けることがあります。どうやったら殻を破れますか?」という質問が来ています。

殻を破れていないのは、その役柄の感情を本当の意味で理解できていないからだと思うんですね。怒っているとか悲しんでいるとか、大きな枠ではわかっていても、そこに至るまでの階段を見つけられていないと、なかなか上手く表現はできない。階段を一気に飛ばそうとするのではなく、その役の背景や出来事を考えてみたり、一段ずつ必要なステップを見つけてみることから始めてみたらいいんじゃないでしょうか。

――そのとき、関根さんは主にどんな方法をとりますか?

僕の場合は、作品以外のいろんなものに目を向けてみます。それこそ映画やドラマを観て、自分の役柄に近いキャラクターを見つけて参考にしてみたり。特に参考になるのは、映画よりもドラマですね。なぜかと言うと、ドラマって回によっては主役以外のサブキャラクターがメインになったりするじゃないですか。サブでいるときとメインでいるときでは物語における役回りも見せ方もまったく違う。それを両方観察できるので、すごく勉強になります。アウトプットを磨くためにも、インプットを増やすことは大事ですね。

――それこそ演出家の求めるオーダーが上手く咀嚼できないときはどうしますか?

まずは演出の方にいろいろと聞きます。キャラメルボックスの場合は、成井さんが読書家なので、イメージに近い小説を教えてもらったりとか。そうやって役者と演出間で上手くイメージを共有する方法を持つことは、ひとつの解決策としていいと思いますよ。あとは周りの先輩に、自分の芝居がどんなふうに見えているか聞いてみたり。

もちろん演出の方が求めるものを表現するのが役者の仕事ではあるんですけど、そのゴールへ辿り着く道のりは1通りではない。いろいろ寄り道してみたっていいんです。成長のスピードは人それぞれ。周りに影響されすぎず、焦らず自分のペースでゴールに向かっていけたらいいと思います。

INFORMATION

そんな関根さんの初主演作『光の帝国』が10月4日・5日のシアター1010での公演を皮切りに、全国をめぐります。

キャラメルボックスでは、2009年に上演時間60分の「ハーフタイムシアター」として上演。

みなさんの中にも「自分の高校で上演した!」という方もいるのでは?

8年ぶり2回目の上演となる今回は、90~120分の長編につくり直すということで、初演を知っている方にとってもきっとまた違った作品に見えるはず。

今回が4回目となるこの「グリーティングシアター」は、普段なかなか公演することのない各地域にキャラメルボックスが直接会いに行くツアー。

物理的な距離の問題で、劇場で観劇するのは難しいという方にとっても、生のキャラメルボックスを楽しめるチャンスです。

ぜひこの機会に、ライブのキャラメルボックスの魅力をたっぷり味わってください。
 

■キャラメルボックス2017グリーティングシアター VOL.4『光の帝国』

<原作>

恩田陸(『大きな引き出し』集英社『光の帝国』所収)

<作・演出>

成井豊+真柴あずき

<キャスト>

関根翔太、森めぐみ、鍛治本大樹、小林春世、毛塚陽介、金城あさみ、竹鼻優太

原口健太郎(劇団桟敷童子)、家納ジュンコ
 

<ストーリー>

小学4年生の春田光紀には、読んだものを「しまう」力があった。古事記も枕草子も平家物語も、一度読んだだけで完璧に暗記できるのだ。実は、光紀の両親も、姉の記実子も、同じ能力を持っていた。が、それは家族だけの秘密。光紀には不満でならなかった。学校からの帰り道、『平家物語』を暗誦していると、一人の老人に話しかけられる。老人は猪狩義正という名の元医師で、光紀の暗誦ぶりを褒めた。が、光紀の両親は、その老人に二度と会うなと言う。光紀は激しく反発する…。
 

<スケジュール>

○東京都(北千住)

10/4(水)・5(木)|シアター1010 ※ホール主催

○東京都(立川市)

10/7(土)・8(日)|たましんRISURUホール 大ホール(立川市民会館)

○埼玉県(秩父市)

10/12(木)|秩父宮記念市民会館 大ホール フォレスタ

○愛知県(豊川市)

10/15(日)|豊川市御津文化会館(ハートフルホール)

○大阪府(阪南市)

10/17(火)|阪南市立文化センター サラダホール 大ホール

○広島県(廿日市市)

10/19(木)|はつかいち文化ホール さくらぴあ 大ホール

○鳥取県(鳥取市)

10/22(日)|鳥取市民会館 大ホール

○大阪府(西梅田)

10/27(金)~29(日)|サンケイホールブリーゼ

○埼玉県(所沢市)

11/3(金・祝)|所沢市民文化センター ミューズマーキーホール

○新潟県(新潟市)

11/5(日)|りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
 

※詳細は公式ホームページをご覧ください

http://www.caramelbox.com/stage/hikari-no-teikoku/

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