第60回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【1日目】

おはようございます。
すでにTwitterのタイムラインでは全国の話題で持ちきりですが、
高校演劇最大にして最高の大会・第60回全国高等学校演劇大会が開幕しました。
ここでは、初日の模様を完全プレイバック。
ステージを観られた人も、残念ながら観られなかった人も、
ぜひ『ゲキ部!』を通して興奮を味わっていただければと思います!

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

池田高校『麒麟児 ~killing G~』

池田
トップバッターを飾ったのは、すでにこちらでも紹介させていただきました
中部日本ブロック代表・池田高校による『麒麟児 ~killing G~』。
 
ゴキブリ殺しで序列が決まるという
荒唐無稽でありながら自己の内面に鋭く切り込む、ある種、小劇場的な作風が印象的。
繰り返されるゴキブリの隠語=Gは展開が進むにつれて、どんどんそのイメージを変容していき、
社会からのG(重圧)を連想させれば、G(学校)というキーワードにも絡まり合い、
やがてG(自我)との対峙へとつながっていく。
 
Gを殺せば殺すほど人気者とは、
すなわち自分を殺せば殺すほど周囲からも受け入れられる
学校生活の同調圧力をイメージさせます。
 
そんな複雑な世界観とは対照的に、演出方法は実にエンターテイメント性たっぷり。
観客からも「照明がカッコいい!」「動きにキレがあって良かった」「圧倒された」との感想が。
 
まだ会場そのものが温まっていない中でのスタート。
正直、序盤は台詞が走りすぎていたり、空気に呑みこまれている感も否めませんでした。
しかし、これまで積み重ねてきた練習は、絶対に裏切りません。
7匹のゴキブリが登場したあたりから物語は一気に加速。
最後まで集中して見ることができました。このあたりは、さすがの地力ですね。
1校目のプレッシャーをはねのける素晴らしい舞台でした。
 
池田高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

青森中央高校『翔べ!原子力ロボむつ』

青森中央
こちらも、昨年のスペシャルインタビューでご登場いただきました
畑澤聖悟先生率いる青森中央高校による『翔べ!原子力ロボむつ』。
 
今や青森中央高校といえば、高校演劇の世界でも最も注目度の高いビッグネーム。
生徒のみなさんにかかる期待もおのずと高まります。
その期待を納得の面白さに変えてくれるのが、青森中央高校のすごさ。
 
今回は、全国を制したあの『もしイタ』と同様、
ステージは大道具を一切用いない素舞台、衣裳もベースはほぼTシャツのみ、音響効果もゼロ。
照明は夢の場面だけホリゾントにミラーボールが使用されていましたが、
それ以外は地明かりのみという、役者の身体表現の可能性をとことん追求した舞台でした。
 
ともすると、あれだけ鮮烈な印象を残した『もしイタ』のイメージに引っ張られそうになるところを、
完全に別の作品として印象づけたところが、まずは見事の一言。
 
ほぼ全員で演じたロボむつも印象的でしたが、
(台詞の合間にはさむ駆動音?が特に効果的だったと思います)
芝居の絶妙なアクセントになっていたのは、何と言ってもサツキとミナヅキの双子ロボット。
あの機械的でありながらチャーミングさが際立つ声と動きは、
思わずマネしたくなった人も多いのでは?
それが前半ではいい笑いのポイントになっていたのですが、
後半になると同じ声と動きのはずなのに、やけに悲しく切なく胸に迫ります。
 
『もしイタ』の「オレ、ピッチャー!」という爽快なラストシーンとは正反対。
絶望に打ちのめされたような静かな幕切れは、
3年間に渡り被災地を回り、震災を描き続けた青森中央高校だからできる
問題提起のように思えました。
 
解決の糸口が見えない原発という問題と、今を生きる世代はどう向き合うべきなのか。
上演終了から9時間経った今もなお、残骸となったロボむつに問いかけられているような気がします。
 
観客からも「歌をうたいながら転換するアイデアが面白かった」
「主人公が叫ぶラストシーンが忘れられない」と称賛の声が集まりました。
 
青森中央高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

久留米大学附設高校『女子高生』

久留米
お昼休みをはさんで、次は九州ブロック代表・久留米大学附設高校による『女子高生』。
タイトル通り、演劇部に所属する女子高生が主人公の本作。
何が異色かと言えば、女子高生を演じる生徒は全員男子、
そして唯一の男子生徒を演じるのは女子という男女逆転コメディだということ。
 
とは言え、部員に限りのある高校演劇の世界では、
女子が男子を演じるというのは常套手段。
芝居上でも語られていましたが、その是非というのもたびたび議論の俎上に載せられるところです。
また、単純に笑いをとりにいく方法としても、男子の女装は常套手段と言えます。
そこを上手く逆手に取ったのが、本作の巧妙さ。
特に、男子の女装は安易すぎて出落ちで終わってしまうところが多いのですが、
同校のみなさんはあくまでそれを笑いの道具にするのではなく、
男子の肉体を通して女子を演じるということと誠実に向き合っていたように思えます。
 
そのハイライトといえるのが、演劇部に来なくなった荒木に対して、聡美が窓から呼びかける場面。
男子を拒み続けた聡美は、あの時、何を思っていたのか。
ポップなアイドルソングが繰り返し歌う「頑張れ」の言葉に疑問を持ち続けた彼女の
ラストシーンでの変化も、観客に様々な想像をもたらします。
 
舞台美術としては、机を並べただけのシンプルなもの。
普通、お芝居で教室を表現する時は、机を並べすぎると邪魔になるので、
必要な分だけ置いて後は簡略化する学校が多いような気がするのですが、
同校は敢えて普段の教室とほぼ同じと思われるだけの机をズラリと並べていました。
何だかそれが逆に新鮮に見えましたし、
冒頭の男子役者がスカートを履いていたネタバラシ、
踊りながらの舞台転換など、上手くこの膨大な机を活用していたように思います。
 
観客からも「女役なのに敢えて凝ったメイクをせず、観る人の想像に任せているところが良かった」
「スカートをバサバサするところなど細かい仕草もこだわっていて面白かった」と大好評でした。
 
久留米大学附設高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

松川高校『ちいさいたね』

松川
4校目は、関東ブロック代表・松川高校の『ちいさいたね』。
こちらは絵本作家・エリックカールの『ちいさいタネ』をベースに、
昨年の全国大会に出場した広島県立沼田高校の黒瀬貴之教諭が戯曲化した作品。
本作も、舞台は原爆が投下された後の広島です。
 
まず目を引くのが、ディティールまでこだわってつくられたことが
客席からも十分に伝わる美しい舞台美術。
瓦礫の山となった敗戦の焼け野原が、確かにそこには再現されていました。
また、舞台中央に吊るされた真っ赤な太陽も、
戦争直後の荒廃した街並みと逆流するような生命感があって、象徴的。
衣装も隅々まで汚しが効いていて、世界観をつくるために細部にまで心を配ったことが感じられました。
 
章と俊夫という二人の少年を演じた役者も、「子役じゃないよね?」と思わず確認したくなるほど自然体。
少年を演じようと気負ったところがないところが、演技に躍動感を与えていたように思います。
 
原爆投下という悲劇を越え、生き残ってしまった主人公。
しかし、被爆者に対する差別と偏見は、生き残ったことさえもまるで罰や枷のよう。
その中で、大人になった主人公は、少年時代を過ごした広島の地に帰ってくる。
生きのびた者と死んだ者の対話は、その重みに観る者の胸が苦しくなるほどでした。
 
最後に、冒頭から繰り返し語られてきた「ちいさなたね」の物語が、
主人公の娘によって再び語られます。
4つの種は風に乗って運ばれ、どこへ行くのか。
決してすべての種が地面に植わり、花を咲かせるわけではない。
そのことが、主人公とその幼なじみの顛末にリンクし、大きな感動を生みました。
 
観客からも「舞台装置が細かいところまで忠実に再現されていて、印象的」
「ひとり生き残ってしまった主人公の哀しさが伝わってきた」と感動の声が。
 
松川高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

出雲高校『見上げてごらん夜の☆を』

出雲
初日のラストを飾ったのは、出雲高校の『見上げてごらん夜の☆を』。
出雲高校は昨年からの2年連続の全国出場。
直接明言はされていませんでしたが、東日本大震災を下敷きにした世界観は、
前作の『ガッコの階段物語』とどこか地続きになっているよう。
 
友人たちが一人またひとりといなくなる主人公を取り巻く世界と、
「劇団オリオン座」という星座たちによる天体ショーという名の劇中劇を、
交互に繰り返しながら、その世界観が徐々に広がっていきます。
 
「今見えているものは、過去」という象徴的な台詞を主旋律にしながら、
SEKAI NO OWARI、坂本九、望遠鏡、オリオン座、手紙、ピアノという、
印象的なモチーフが星座のように散りばめられている。
 
それぞれがどう結び合い、ひとつの像をかたづくっているのか。
それは決して明確に語られることはなかったように思います。
むしろ大きな余白を残したまま、幕を閉じたと言ってもいいかもしれません。
 
それでも胸に温かさがこみ上げるのは、
今回多用したミュージカル的演出が効いていたからこそ。
決して美しいダンスというわけではありませんでしたが、
劇中でも語られていた通り、そこで歌い踊る役者たちはみな楽しそう。
根底にある種の刹那的儚さを漂わせた題材でありながら、
観る人たちに今を生きることの大切さを感じさせてくれたのは、
こうした要素が非常に大きなポイントになっていたのではないでしょうか。
 
観客からも「装置がいろんなふうに使われていて面白かった」
「ボイスパーカッションがすごかった!」
「それぞれがいろんな役を演じ分けているところが素晴らしい」と
見どころたっぷりの本作らしい感想が集まりました。
 
出雲高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

一生消えない感動が、ここにある。

改めてこうして1年ぶりに全国大会にふれてみると、
やはり全国には全国でしか味わえない感動があるように思います。
それは、全国出場を果たすだけの技術レベルに起因するものではなく、
この1年のすべてをこの日のためにかけてきた高校生の年月の長さと、
それに相反するようにたった1時間でそのすべてが終わってしまう儚さが、
全国の舞台につまっているからではないでしょうか。
 
明日も、どんな感動に出会えるのか。
いち高校演劇ファンとして楽しみにしています。
 
明日上演されるすべての出場校のみなさん、最高の舞台をつくってくださいね。
『ゲキ部!』は全力でみなさんを応援しています。

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