第60回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【2日目】

2日目も期待通りに各校の個性が炸裂した全国高校演劇大会。
今日で計10校の上演が終了しました。
ここまで来ると、「あの学校が良かった!」「私はあの学校!」と感想を言い合うのもまた一興です。
 
ということで、早速、本日の上演をプレイバック!
ぜひぜひ最後までお読みください。

(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)

松山東高校『夕暮れに子犬を拾う』

松山東
こちらは、『七人の部長』『夏芙蓉』など高校演劇ではおなじみ越智優氏の書き下ろし新作。
顧問は『ホットチョコレート』で全国を制した横川節(曽我部マコト)教諭。
このタッグは、青森中央高校の畑澤聖悟教諭同様、高校演劇の世界ではゴールデンカード。
同校としては初の全国大会となります。
 
内容としても、まず語るべきは戯曲の完成度の高さ。
「いじめられっ子」「いじめっ子」「それを傍観する子」という手垢のついた題材を、
越智氏が料理すると、そこにもうひとつ別の顔が見え隠れします。
 
弱者を守ろうとする正義感の強い女子はどこか押しつけがましく、
また友人からハブられようとしている女子もそのコミュニケーション能力の低さが鬱陶しい。
出てくる登場人物がそれぞれにざらついた不快さを備えているところがリアルでした。
 
そして、いじめっ子の集団と、いじめられっ子を守ろうとする集団の対立は、
やがて「戦争」の構図を浮かび上がらせてくる。
近隣国との間でくすぶり続ける火種、その中で確実に右傾化する日本。
女子高生の平凡な日常と、今の日本が抱える問題も、根底で流れるものは同じ。
 
「昔のことが、死んでくれないんです」という台詞が、
日本が戦後70年にわたって抱え続けてきた戦争賠償の叫びに聞こえました。
 
メインの4人の登場人物はそれぞれに力演でしたが、
中でもクライマックスのサオリとミーナが感情をぶつけ合う場面は圧巻。
 
観客からも「最後のシーンが忘れられない」「いじめと戦争が重なっているところが面白い」と
白熱した演技合戦と構成の妙に拍手喝采が集まりました。
 
松山東高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

観音寺第一高校『問題の無い私たち』

観音寺第一1
そして今日一番の反響を巻き起こした問題作が、観音寺第一高校の『問題の無い私たち』。
冒頭から「審査員あるある」とも言うべき講評場面が風刺的に描かれ、観客の共感を誘う。
「ネット台本はNG」「ラノベはNG」「等身大の芝居を」という審査員の講評の言葉に、
会場からは笑いが相次ぐ。
「台本の批評ばかりで芝居の中身はまったく評価してもらえない」という悩みは、
特に実績もなく指導者もいない高校ほど共感する人は多いはず。
まるで客席全体が頷いているかのような一体感で、観る人を味方につけました。
 
ただ、そんな審査員批判、よくある演劇部モノで終わらないのが、本作のすごさ。
途中、「勝つために演劇をすることと、楽しんで演劇をすることの、どちらが正しいのか」
「放射能汚染から逃れるために転校してきた男子生徒の悩み」
「病弱な弟に家族の愛情が集中し、孤独を感じる女子生徒の悩み」
「ほのかな部内恋愛」など、もはや高校演劇でさんざんやり尽くされたテーマを
登場人物たちが延々と吐露しはじめた時は、
結局、ここも審査員の求める高校演劇の型を踏襲するだけかと危惧しました。
 
が、最後にそのすべてを投げ打って、それぞれの登場人物たちが吉本新喜劇や宝塚、
ミュージカルなど自分の好きな演劇の衣裳を身にまとい、
『コーラスライン』の音楽に乗せてラインダンスを披露。
そして、緞帳が半分まで降りたところで全体がストップモーションし、
「ま、これも顧問が作ったんですけどね」とすべてをぶち壊す一言で幕となります。
 
すべては作り手の巧妙かつ狡猾な仕掛けの中で踊らされたと気づいた瞬間に、
なぜか湧き上がる圧倒的な爽快感。
客電がついた瞬間、異様などよめきで場内が揺れました。
 
『ゲキ部!』では、全国までの過程を描く上で、「勝利」「栄冠」という言葉を意図的に使います。
もちろん、演劇で勝ち負けを決めることの是非は承知の上。
審査の難しさ、高校演劇らしさの不可解性など、
日頃みんなが感じている疑問やフラストレーションをこれだけストレートに描きながら、
そんな問題さえもどこ吹く風と蹴り飛ばすように、楽しくラインダンスを踊る姿に、
胸のすく想いがしました。
「台本が9割」と嘆きながらも、本作の魅力もまた台本の妙であることが、カオス。
 
観客の間でも「こんな演劇、今まで見たことがない」「自分たちの気持ちを代弁してくれた」
「これを書いた顧問の先生がすごい」と絶賛の嵐が巻き起こる一方で、
「どうしても素直に受け入れられなかった」と拒否反応を示す人も。
しかしこれだけ賛否両論を生んだということ自体が、評価に値することだと思います。
 
観音寺第一高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

甲府南高校『マナちゃんの真夜中の約束・イン・ブルー』

甲府南
そんな問題作の衝撃が残る場内を、また自分たちのワールドにしっかり染め上げてくれたのが、
甲府南高校による『マナちゃんの真夜中の約束・イン・ブルー』です。
こちらも詳細は、バックステージでご紹介させていただいた通り。
夢とも現実ともつかないマナちゃんの一夜の出来事を描いた不思議なファンタジーです。
 
ある種の浮遊感を備えた本作の持ち味を、役者たちの力のぬけた演技が絶妙に引き立てていました。
決してわかりやすいギャグを次々と繰り出していくわけではないのですが、
とぼけた会話のやりとりで確実に笑いを生むところは、さすがの安定感。
力技に頼ることのない、同校の確かな練習の積み重ねと実力の高さを感じました。
 
観音寺第一高校が高校生なら誰もがわかるテーマで勝負しているのとは対照的に、
甲府南高校のストーリーは観る人によって解釈は様々。
夢の中で部屋から出られなかったはずのマナちゃんがザクリッチを求めて、
遥か紛争地まで旅をしていく展開には、疑問符が浮かんだ人も多いのでは?
でもこうして想像力を働かせ、自由自在な世界を楽しむこともまた演劇の楽しみのひとつ。
 
ぬくぬくと守られてきた自分の部屋の中が、一転して銃声飛び交う戦場となる。
外に踏み出ることとは、いったい何なのか。
カムパネルラがマナちゃんに約束したかったこととは果たして何だったのか。
恐らく正解なんてありません。
ぜひめくるめくこの幻想的な物語の余韻を、みなさんで楽しんでほしいなと思います。
 
実際、観客のみなさんも「ピンとこなかった」と首をかしげながらも、
「最後にマナちゃんは“わーい”と喜んで部屋を出る。あのラストシーンが示すものは何なのか知りたい」
「このふわふわした世界観が心地よかった」と、甲府南高校の織りなす独自のワールドに酔いしれた様子。
 
甲府南高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

北海道大麻高校『教室裁判』

北海道大麻
次々と個性豊かな作品が披露されていく中で、
最も手堅くスタンダードな演劇を見せてくれたのが、北海道大麻高校の『教室裁判』。
 
公開授業で行われる模擬裁判のリハーサルのために放課後に集まった生徒たち。
そこにクラスメイトの暴力事件という身近なニュースが持ち込まれ、
彼らはこの事件を自分たちで裁こうと裁判を始める。
 
裁判員制度という時事ネタを織り込みながらも、
描きたいのは集団からはみ出すことを恐れて友達を救えなかった女子生徒の葛藤。
序盤の何気ないやりとりの中でも、自然と主人公である彼女に目が引かれるような演出が施されており、
非常に見やすいつくりになっていました。
また、それに応えうるだけの演技力と存在感を備えた聡子役の女子生徒も立派。
一方で、これだけ登場人物の多い会話劇でありながら、
聡子以外の人物にあまり焦点が当たらなかったのは残念だったかもしれません。
 
終盤、聡子は中学時代から抱え続けてきた自分の罪を告白します。
その懺悔の迫力と、「裁かれるのは私なんだよ」という台詞が、
芝居全体に心地良い緊張感をもたらしていました。
 
また、特筆すべきはラストシーンの夕日の美しさ。
非常に長い間、沈黙が続くのですが、鮮やかに射し込む照明の美しさが、
役者の演技をしっかりと支えていたと思います。
 
観客も「非常に丁寧につくりこまれていて良かった」「夕日の場面がすごく綺麗で心に残った」と、
非常に演劇らしい実直で誠実なつくりに好印象でした。
 
北海道大麻高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

水海道第一高校『お好みぃにけ〜しょん』

水海道第一
何とも濃密となった2日目のトリは、水海道第一高校による『お好みぃにけ〜しょん』。
緞帳が上がると同時に、楽隊が生演奏を披露。
これまでとはまったく違うお芝居が見られるという期待感を存分に与えてくれる幕開けとなりました。
 
引き割り幕が開くと、そこは庶民的な香りのするお好み焼き屋。
細部までしっかりつくりこまれたカウンターや、壁いっぱいに貼られたポスターなど、
実にリアリティのある舞台装置が、先ほどの生演奏とはまったく正反対で意表を突かれました。
 
男子高生のおバカなトークでまずは観客の心を掴むと、
そこからは女子高生の陰湿で残酷でおどろおどろしい心理バトルで終始ひきつけます。
特に、女子グループのリーダー格である成美のリアリティは絶妙。
その場にいないものを徹底的に貶め、常に優越を感じていたい女子の醜さを
「クラスにもこんな子いる!」と膝を打ちたくなるほど存在感たっぷりに表現します。
 
また、3人の男子を演じた役者のバランスも上手かったですね。
女子にこき使われる底辺男子の情けなさがよく表れていました。
 
お好み焼き屋というほのぼのとした舞台設定とは裏腹に、舞台上で漂うのは集団生活の閉塞感。
最終的に主人公がその輪から解放されることはなかった結末が、何とも現実的でした。
 
さらに、その声なき叫びを役者以上に聞かせてくれたのが、キーアイテムとなるサックス。
本来ならばダンサンブルで洒脱なはずの『SING, SING, SING』のメロディが、
彼女たちの生活は不自由な檻の中で楽しげな仮面をつけて踊らされているだけ、と歌っているかのよう。
 
観客からも「テンポがあってノリの良い演技で最後まで引きつけられた」
「千佳と厚子の最後の場面が良かった」「お好み焼き屋さんのセットがすごい」
「生音だったので、すごく迫力があった」と、
本日5校目という疲れを感じさせないイキイキとした感想が届きました。
 
水海道第一高校演劇部のみなさん、お疲れ様でした!

浮かび上がってくる、「今、伝えたいもの」。

「高校演劇とは何だ」という大きな問題提起がなされた大会2日目。
個性は様々ですが、一方で多くの作品の中で語られたのが、集団からはみ出す恐怖でした。
 
そもそも「空気を読む」という言葉が一般的になったのはいつの頃からでしょうか。
個人の記憶としては、ちょうど私が高校生くらいの頃、
「雰囲気」という言葉を「空気」と言い換えることが多くなったような気が。
それから十数年が経ち、KYという言葉も流行語から一般用語に定着した感さえあります。
 
特にTwitterやLINEなどネット上でも複雑なしがらみに縛られる高校生にとって、
疎外ほど恐ろしいものはないのかもしれません。
それならば、したたかに空気を読み、仲間を捨て、自分を殺すこともいとわない。
そんな生活に多くの高校生が疑問を抱いているように感じました。
 
さて、上演校も残すところあと2校のみ。
明日はまたどんな作品との出会いが待っているのでしょうか。
すでに上演を終えた10校に負けない素晴らしいお芝居を期待しています。

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