第59回全国高等学校演劇大会に行ってみた。【2日目】
各地域からの強豪校が出揃う全国大会。
2日目も5つの上演校が、1年間の想いのこもった渾身の舞台を披露してくれました。
あとは最終日を残すのみ。
その前に、昨日の熱演を『ゲキ部!』でプレイバックします!
(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)
広島市立沼田高校『うしろのしょうめんだあれ』
6校目は、広島市立沼田高校の『うしろのしょうめんだあれ』。
誰からも存在を見つけてもらえない現代の女子高生と、
友を見捨てて自分だけが生き残ってしまった後悔に苦しむ、1945年、ヒロシマの地に生きた少女。
異なる時代の少女を交差させながら、自らがつくり上げた“籠の中”から一歩踏み出すまでを、
女子高生ならではの清廉な演技で描いた本作。
冒頭の童謡「かごめかごめ」から始まり、舞台はどこか抽象的な世界観。
細い柱だけがポツポツと並んだシンプルな舞台装置は、さながら主人公を取り囲む“籠”のよう。
登場する女子高生たちも、出番が終わると袖には退場せず、柱のすぐそばのグレーのボックスに腰掛け、
主人公を閉じこめる視線の“籠”としての機能を果たしています。
無造作にふれれば、たちまちに崩れ落ちてしまいそうな繊細な空気が非常に印象的でした。
特筆すべきは、母の独白シーン。
焼けただれた娘の亡骸を抱きしめることができなかったという懺悔の声が、
終始静謐な芝居の中で、ひと際感情的に観客の胸を揺さぶります。
また、主人公が自らを取り戻し、大きくジャンプして“籠”から飛び出すラストシーンには、
じんわりとした温かさが。
安易な飛び道具に頼らず、
地元・ヒロシマへの想いと自分たちの生きる意味に真摯に向き合った60分間でした。
観客からも「戦争モノは苦手な自分がこんなに感情移入できたのは初めて」、
「柱を瓦礫に見立てるなど演出面での工夫が面白かった」、
「ラストシーンの世界が広がっていく雰囲気が、復興を感じさせて良かった」と感動の声が集まりました。
大阪市立鶴見商業高校の『ROCK U!』
7校目は、大阪市立鶴見商業高校の『ROCK U!』
「バックステージ」でもご紹介した通り、在日コリアンの苦悩と解放を描いた本作は、
作者である趙さんをはじめ、3年生の卒業により、
大幅なメンバーチェンジを経て、新生『ROCK U!』として生まれ変わりました。
その集大成となるのが、今回の舞台。
Queen の『We Will Rock You』をバックに足を踏み鳴らす強烈なオープニングから、
タオルを振り回し、抑圧からの解放を歌うエンディングまで、
大阪人らしい力強さを存分に発揮し、独特の世界観をつくり出していました。
「竹島は誰のものでもない竹島だけのものじゃ」とテソンに飛び蹴りするスナの姿は、爽快の一言。
日韓関係が悪化し、些細な事柄でも両国の叩き合いとなっている今の世の中だからこそ、
大人たちがつくり上げた歴史のしがらみに縛られず、
「自分は自分だ」と言い切るスナの強さに、人は惹きこまれるのでしょう。
観客からも「スカッとした」、「あのテンションが気持ちいい」、
「あれだけのパワーがうちの高校にもほしい」と、ツルドレンのロック魂に拍手喝采が送られました。
高田高校『マスク』
8校目は、高田高校の『マスク』。
こちらも詳細は、以前の「バックステージ」でお伝えした通り。
メインのアケミとサヤカはキャスト変更がありましたが、そんなことを感じさせない安定した演技。
高田高校の素晴らしいところは、これだけ大勢のキャストが同時に舞台に出ていながら、
その一人ひとりがきちんと役を生きて、何気ない教室のざわめきを自然に表現しきっているところ。
個々の役者力の高さは突出しているように感じました。
スピーディーな台詞の応酬も、観客にとってはちょうど気持ちのいいテンポで、
ぐいぐい展開に惹きこまれていきます。
クラス内における女子同士の対立構造や、どこか人を苛立たせるアケミの人物造形もリアル。
核となる主人公・アケミのトラウマはそれほど詳細に描きこまれてはいないのですが、
役者が強烈なパワーで物語を引っ張っていくので、ほとんど違和感はありません。
観客からも「マスクという小道具に着目した点がユニークで面白い」、
「問題が鮮やかに解決するのではなく、この後どうなるんだろうと考えさせられる結末がいい」、
「場面転換の前に挟まれる罵倒シーンが印象的だった」と、
同世代ならではのストーリーに共感を覚える人が多かったようです。
また、「ハンサムくんが本当にハンサムだった!」なんて声も。
東京都立東高校『桶屋はどうなる』
そして、9校目は、東京都立東高校の『桶屋はどうなる』。
こちらも以前の「バックステージ」で取材をさせていただいた作品。
今大会最少人数となる2名でのお芝居は、
コロスなど大人数を使った派手な演出が目立つこの全国の舞台では不利にもなりかねないところ。
しかし、開始10分強、天衣無縫に舞台を駆け回るチャバネには、
ひとりである物足りなさをまったく感じさせない魅力が。
ベジ子が登場してからのやりとりも見どころが多く、
火曜サスペンス劇場や刑事ドラマなどで定番のBGMを使ったショートコントのような場面では、
多くの観客の笑いを誘っていました。
また、前半のギャグシーンに対して、後半のコントラストも実に鮮やか。
ベジ子が放った「ただちに影響はありません」という、あの頃よく聞いた実体のない弁明の言葉は、
その一言でこの物語の全貌を解き明かす大きなインパクトがありました。
もうひとつ衝撃的だったのは、終盤、チャバネがゴキブリの扮装を脱ぎ捨て、
黒のタンクトップから女子高生の制服へと着替える場面。
余計なBGMは一切入れず、まったくの無音を貫き通すことで、
場内の注目を一身に惹きつけることに成功していました。
ラストの「うま」の一言も、観客の解釈に委ねる幅の広さがあって面白かったと思います。
観客からも、「チャバネが美味しそうにご飯を食べているところを、
ベジ子が見つめているラストシーンが、すごく幸せそうで良かった」という感動の声から、
「あれだけ静かな場面が続くと普通なら飽きてしまうのに、まったく目が離せなかった」
という称賛の声まで、実に様々。
「60分をふたりでやりきるのがすごい」、「動きが大きくてインパクトがあった」など、
所狭しと舞台を動き回ったふたりのお芝居への惜しみない賛辞も目立ちました。
徳島県立城ノ内高校『三歳からのアポトーシス』
そして、2日目のラストを飾ったのが、徳島県立城ノ内高校の『三歳からのアポトーシス』。
高校演劇という概念に迎合するつもりはない。
それどころか従来の芝居のセオリーに自らを当てはめる気も更々ない。
そんな主張が行間からにじみ出るような、哲学的で観念的な台詞の連続で観客を圧倒。
意味ありげな舞台装置に、不可思議な衣装。赤を基調とした独創的な照明プランなど、
一見するだけで他校とはまったく異なる芝居づくりで、独自のワールドを築いていました。
原発や戦争をテーマにした重い芝居や、観る者に判断を委ねるような自由度の高い作品が続く中、
ある意味ではそんな今大会を象徴するような一本。
目の前で繰り広げられる、これまで見たことのないようなイデオロギーの深淵に、
多くの観客が打ちのめされていました。
上演後も「何の話かわからなかった」という感想で場内がざわめく一方、
その後も観客同士で解を求め合う場面があちこちで見かけられました。
この理性では追いつかない奇妙な感覚も演劇の楽しみのひとつ。
まだ多くの未知を秘めた高校生に、ひとつ新しい扉を開かせた作品だと言えるかもしれません。
いよいよ運命の講評へ
いよいよ全国大会も佳境に突入。
残すところは沖縄県立八重山高校と島根県立出雲高校の2校のみとなりました。
果たして最優秀校は、すでに上演した10校の中から選ばれるのか。
それとも本番を控えた残る2校が栄光をかっさらうのか。
すべての答えが出るまで、あと12時間を切りました。
『ゲキ部!』は、その運命の瞬間まで完全レポートします。
ぜひお楽しみに!