笑いを生むのは台詞ではなく、リアクション。【アガリスクエンターテイメント劇団員 矢吹ジャンプが語るコメディ俳優の演技術(1)】
いざ舞台の上でお客さんから笑いをとるのってなかなか難しい。次々と自在に笑いをとる他の役者を見て羨ましいと思ったことがある人も少なくないのではないでしょうか。どうすればもっと上手に笑いがとれるんだろう。そんな疑問に応えるべく、人気コメディ劇団・ファルスシアター/アガリスクエンターテイメントに所属の俳優・矢吹ジャンプさんに、コメディ俳優に必要なことを聞きました。
(Text by Yoshiaki Yokogawa)
PROFILE
1976年12月16日生まれ。都内大学の演劇サークルにて演劇活動を開始。「(劇)べっちん」での活動を経てファルスシアターに入団、看板俳優として多くの海外シチュエーションコメディを演じる。ファニーな体格と豊富なコメディ演技の引き出しを生かし、アガリスク作品では「典型的なシチュエーションコメディの象徴」として、活躍したりいじられたりしている。 2017年よりファルスシアターとアガリスクエンターテイメントの二団体所属。
一つの場所で巻き起こる事件や状況で笑わせる喜劇、シチュエーションコメディを得意とする、屁理屈シチュエーションコメディ劇団。05年、主宰・冨坂友が高校の同級生を中心に結成。代表作『ナイゲン(全国版)』が全8660公演中第2位を受賞。『七人の語らい/ワイフ・ゴーズ・オン』で黄金のコメディフェスティバル2015最優秀作品賞、最優秀脚本賞、高校生審査員賞、観客賞を総なめ。『紅白旗合戦』で2015年度サンモールスタジオ選定賞にて最優秀団体賞を受賞した。
台本を読み解くとき、俳優が注目するべきポイントとは?
――まず最初に、コメディを主戦場とする俳優が台本をもらったときにやるべきことと言えば何でしょう?
コメディの種類によって準備の仕方は変わるのかなと思います。
ざっくりと僕はコメディを3つのタイプに分けていて。アガリスクエンターテイメントで言うならば、ひとつが『ナイゲン』のように掛け合いの面白さで笑いをとる会話劇的なコメディ。次に、『わが家の最終的解決』のような主人公が嘘ついて誤魔化してオロオロする姿が滑稽なタイプのコメディ。もうひとつは、アガリスクエンターテイメントでは扱いませんが、一発ギャグ的なネタやキャラクターを武器とするコント的なコメディというのもありますね。
――たとえば会話劇的タイプのコメディの場合だと何をしますか?
まずは台本の持つ間や空気感を掴むつもりで台本を読みますね。どのテンポで話すと、この会話の面白さが引き立つだろうとか。他の登場人物とのバランスを見つつ、どういうキャラクターとして演じればおかしさが出るだろうとか。非常にオーソドックスな読み方になると思います。
――では、嘘ついて誤魔化して~というタイプのコメディの場合は?
この場合は台本の構造を理解することが第一です。この台本の何が面白いのか、笑いのシステムを理解する。そして、そのシステムが成立するためには、どういうリアクションが必要かといった部分を見ていくという感じです。
――構造理解と言うと、なかなか最初のうちは難しいような気がします。何か手立てになるものってありますか?
基本的に俳優が意識しなければいけないのは、台本に書かれている台詞の部分ではなくて、台本に書かれていないリアクションの部分なんです。笑いって、実は台詞を喋っていない側がつくるもの。たとえば嘘ついて誤魔化して~というタイプのコメディなら、面白いのは嘘ついたり誤魔化している方じゃなくて、嘘をつかれて戸惑っている側のリアクションだったり、誤魔化されたのになぜか納得している側のリアクションなんです。
あと、お互い思い違いをしているのになぜか会話が進んでいく、いわゆる勘違い会話もコメディではよくあるパターンですが、これも会話の中身というよりも、おかしいなと思いつつ何となく飲みこんで、そのまま話を進めていく人間のリアクションに人はつい笑ってしまうんですよね。
――言われてみると確かにその通りですね。
たとえば、何か話をしているところに、その話を聞かれるとまずい相手がやってくるというシチュエーションがあったとします。このとき、笑いが起きるのは、その相手が入ってきたときの周りのリアクションが秀逸だから。
自分の台詞にしても同じです。特にキャリアの浅い俳優ほど自分の台詞をどう言うかという点に終始しがちなんですが、台詞にばかり拘泥していてもちっとも面白くはならない。むしろ注意すべきは、その台詞を言う直前のリアクション。取り乱しているのか、平静を装っているのか。適切なリアクションが掴めないと、どんなに台詞だけを工夫しても笑いにはなりません。
台本を読むときは、どんなリアクションをするのがベストなのか。そこをしっかり抑えることが、俳優のやるべきことじゃないかなと思います。
――リアクションというところで聞いてみたいのですが、コメディだからといって極端にデフォルメされたオーバーリアクションをする俳優がいますよね。ああいうのを見ると白々しくて逆に醒めてしまうケースも多いのですが。
難しいところですが、そこで白々しく感じられるのは、やろうとしているリアクションに対して俳優のエネルギーが足りてないからだと思います。リアクションを大きくするには、それに見合うだけエネルギーが絶対条件。
コメディってエネルギーの使い方が発散型なんです。演劇の種類によっては、自分の内側にエネルギーをためこむことで、お客さんを引きこむタイプの演技もあると思うのですが、基本的にコメディはエネルギーを外側に発散してお客さんにぶつけていかないと笑いにならない。
だから演出からリアクションがわざとらしいと注意を受けたときは、単に身振り手振りを大きくするのではなく、自分の中にある熱量も倍増させることを意識すると、白々しさは少しは解消されるんじゃないかと思います。
コメディ俳優なら誰もがほしい「愛され力」の培い方とは?
――コメディ俳優にとっていちばん必要なものって何だと思いますか?
声の大きさとか、今お話ししたエネルギー量なんかもそうですけど、いちばんと言われたらやっぱりお客さんから愛される力でしょうね。
――読者からも「役者が出てきて一言目で笑ってもらえる、というのが目標なのですが、コツなどはありますか」という質問がありました。こうしたお客さんから自然と愛される力というのはどうやって磨いていけばいいのでしょうか。
難しいですよね。こればっかりはある程度天性のものもあると思います。ただ、演技としてお客さんから愛される、あるいは嫌われない工夫というのは十分可能です。
――と言うと?
ここで大事になってくるのが、滑稽さです。コメディにおいては、たとえ物語上は悪役であったとしても、愛すべき嫌なやつにならなければならない。そういうとき、滑稽に見せるというのは、結構効果があるんですよね。
具体的に言うと、たとえば人に文句を言ったり怒るシーンがあるとします。このとき、台詞のベクトルを怒鳴りつける対象者に向けてしまうと、外側にいるお客さんの立場からすると、すごく怖い人に見えるし、本当に怒っているように見えてしまうんですね。
じゃあどうすればいいかと言うと、台詞のベクトルを上に向ける感覚で怒ってみてください。「ふざけるなよ」という台詞があるとしたら、それを前にめがけて放つのはなく、上に向かって発する。台詞の向きが変わると、お客さんの印象も変わって、怒ってる人がちょっと困っているというか滑稽に見えるんですよね。これだけでお客さんもキャラクターに親しみを感じるし、見ていてちょっとおかしくなる。
愛され力に関して言えば、天性によるものが大きくて、特効薬的な解決方法はないというのが正直なところ。だからこそ、地道にやり方ではありますが、客席から見たときに自分がどんなふうに見えているかを常に意識して、愛される滑稽さを演出していくことが重要なんじゃないかなと思います。
――逆にコメディ俳優がやってはいけないことってありますか?
僕の考えで言えば、台本から逸脱することですね。
時に、そのキャラクターではなく、演じる俳優本人自らが笑いをとりにいこうとする場面が見受けられますが、それは決してよろしくない。唯一許されるとしたら、それはコント的なコメディの場合です。
あくまで、演劇としてのコメディであるならば、キャラクターとして筋を通さないと。笑いをとるために突然筋書きとは関係のない突飛な行動をとったりネタを入れたりせず、そのキャラクターとして必然的に発生した言動の中でお客さんに笑ってもらうことが、僕なりの美学ですね。
――ありがとうございます! では残りのお話はまた後編で伺っていきたいと思います。みなさんもどうぞお楽しみに!
INFORMATION
今回ご登場いただいた矢吹さんが所属されるアガリスクエンターテイメントの最新公演『時をかける稽古場2.0』が東京・京都の2都市で上演されます。
ここでお話しいただいたコメディの極意を自分のものにするには、実際に良いコメディにふれてみるのがいちばん!
きっと「こういうことか…!」と頷けるような発見がたくさんあると思います。
しかも高校生のみなさんなら500円で観劇可! 映画より安い!
コメディを愛するすべての人へ…さあ今すぐアガリスクエンターテイメントに来たれ!
■あらすじ
―待ってられない 台本がある。
超遅筆な脚本家率いる若手劇団「第六十三小隊」は、勝負をかけた公演を二週間後に控えながら、 台本が1ページも無いという危機に瀕していた。
ある日、稽古場にて偶然タイムマシンを発見した劇団員達は起死回生の策を思いつく。
それは「本番前日まで行って、完成した台本を取ってくる」というものだった…!
■公演日程
<東京公演>2017年3月22日(水)~3月28日(火) ※全10ステージ
<京都公演>2017年4月4日(火)~4月9日(日) ※全9ステージ
■会場
<東京公演>下北沢駅前劇場 ※小田急線・京王井の頭線「下北沢」駅南口出てすぐ
<京都公演>KAIKA ※阪急「烏丸駅」23番出口徒歩8分、京都市営地下鉄「四条駅」6番出口徒歩6分
■チケット料金
<東京公演>富豪席5,000円、ペア料金5,000円(2名様分)、一般料金3,800円、前半・平日昼料金の回3,300円、高校生料金500円
<京都公演>ペア料金4,000円、一般料金3,000円、前半・平日昼料金の回2,500円、高校生料金500円
※その他割引システムあり。チケット料金の詳細は、必ず劇団HPをご確認ください。