広田淳一

過剰な説明をやめたとき、言葉以上のものが観客には伝わる。【アマヤドリ主宰・広田淳一が語る劇作・演出論(3)】

高校生から募集した劇作に関する悩みの中で多かったのが、「言いたいことを全部台詞で言ってしまう」という声。確かに、終盤、自分の感情を登場人物が蕩々と吐露したり、テーマやメッセージを高らかに主張したりすると、観ている側はつい興醒めしてしまうもの。どうすれば、この悪癖から抜け出せるのか。アマヤドリ主宰・広田淳一さんと一緒に考えます。

(Text by Yoshiaki Yokogawa)

PROFILE

広田淳一広田淳一

1978年生まれ。東京都出身。2001年、東京大学在学中に「ひょっとこ乱舞」を旗揚げ、主宰する。以降、全作品で脚本・演出を担当し、しばしば出演。さりげない日常会話ときらびやかな詩的言語を縦横に駆使し、身体性を絡めた表現を展開。随所にクラッピングや群舞など音楽・ダンス的な要素も節操なく取り入れ、リズムとスピード、熱量と脱力が交錯する「喋りの芸」としての舞台を志向している。簡素な舞台装置と身体的躍動感を必須としながらも、あくまでも相互作用のあるダイアローグにこだわりを見せる。

2009年、2010年と連続して「アジア舞台芸術祭(Asian Performing Arts Festival)」に演出家として招聘される。2011年、韓国演出家協会主催の「アジア演出家展」に参加。ソウルに一ヶ月滞在して現地俳優と共にモリエール「ドン・ジュアン」を発表。好評を博す。

主な受賞歴に、日本演出者協会主催 若手演出家コンクール2004 最優秀演出家賞(2004年/『無題のム』にて)、佐藤佐吉賞 最優秀演出賞・優秀作品賞(2005年/『旅がはてしない』)、劇作家協会新人戯曲賞 優秀賞(2011年/『ロクな死にかた』、2012年/『うれしい悲鳴』にて)などがある。

 
ロゴ_カラーアマヤドリ

2001年に「ひょっとこ乱舞」として結成。2012年に「アマヤドリ」へと改称。広田淳一によるオリジナル戯曲を中心に、現代口語から散文詩まで扱う「変幻自在の劇言語」と、クラッピングや群舞など音楽・ダンス的な要素も節操なく取り入れた「自由自在の身体性」を両輪として活動。リズムとスピード、論理と情熱、悪意とアイロニー、とか、そういったものを縦横に駆使して、「秩序立てられたカオス」としての舞台表現を追求している。

言いたいことを台詞で言ってしまわないために必要なこととは?

―よく戯曲を書く際に陥りがちな失敗例として、「言いたいことを全部台詞で言ってしまう」というのがあります。

これは僕もよくわかるというか、自分自身もこの問題とは無縁ではないと思っています。一番の原因は、どういうふうに話を持っていこうということをあらかじめ決めてしまっているから。訴えたい結論のためには、これを言わなきゃいけないという思いこみが、そういう台詞を書かせてしまうんですよね。

――逆に観客はいわゆる「作者が言わせたい台詞」というのを敏感に見抜きます。

なので、まず単純な心がけとして、お客さんは自分以上に、あるいは少なくとも自分と同等程度には賢いという前提で書くことが大事だと思います。大抵の場合、お客さんには伝わらないんじゃないかという不安から、作家は過剰に説明をしてしまう。自分が退屈だと思う確認や説明はバッサリと省略することが第一歩です。

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――つい書き手は安心したくてわかるように書いてしまいがちです。

そこは一旦作家としてではなく、観客としての目線に立ち返ってみることが重要かな、と。映画でも演劇でも、優れたものから学ぶことはたくさんある。その際、注意深く観察してほしいのですが、洗練された作品ほど大胆な省略をしているんですね。それでも、観客は十分に理解できる。

たとえば最近僕が感心した省略の例をひとつ。『ハウス・オブ・カード 野望の階段』というアメリカのドラマがあるんですけど、この中でいろんなことを知りすぎた女がそれゆえに男から命を狙われるという展開があって。必死に命乞いをする女を見て、男も一度は心変わりをして、車に乗ってその場を去っていきます。で、その次の場面では、車を運転していた男がふと思い返したように車を止めるというショット。その次は、命拾いをした女が歩いている背後に車が近づいてくるというショットと続いて。その次のショットでは、もう女は殺されていて、男が死体を埋めているんです。この省略は見事だなあと感心しましたね。

もうすでに必死に命乞いをしているところを丁寧に描いているので、なぜ最終的に殺すことにしたのか、その逡巡を説明しなくても、観る方はよくわかるし、何よりも殺すシーンを省くことで、こんな虫ケラのように殺されてしまうんだと、男の決断がより残酷に感じられるんです。
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――説明しないことによって、観客の想像力が膨らむんですよね。

そう。だから「言いたいことを台詞で言ってしまう」ことから抜け出すために大事なことは、むしろその部分ではなく、そこまでの間にどれだけ人の葛藤や対立といった重要なことをきちんと描けているかなんです。それができていれば、本当に言いたいことは言わなくても十分にお客さんには伝わると思います。

――お客さんを信じて、言わない勇気を選ぶ。

そこで恐らく引っかかってくるのが、お客さんのアンケートです。よくアンケートで「わからなかった」って書かれることがあると思うんですけど、だからと言って何でもかんでもわかりやすくすればいいというものではない。これってお客さんは必ずしも理解不能だったから「わからなかった」と書いてるわけではないと思うんですよ。あくまでボギャブラリーの問題であって、要は退屈したというだけ。もちろんわかる人にだけわかればいいという態度も決して良いものではないけれど、わかりやすさを追求しすぎてしまうとダサくてなってしまうので、自分たちがカッコいいと思えるところまで説明を省いて尖ってみてもいいと思う。
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――野暮を心得る、ということですね。先ほど広田さんがおっしゃっていましたが、結局答えありきで何かを書こうとすると、どうしても言いたいことが先行してしまいがち。でも、観客が面白さを感じるのは、答えではなくて、そこに行き着くプロセスのような気がします。だから本当に言いたいことなんていうのは、言わなくてもいいことなのかもしれません。

そうですね。そのためにも対立意見をきちんと描けるだけの広い視点を作家は持たなければならないし、繰り返しになりますが答えの出ていない問題に挑まなければいけない。そもそも表現者というものは、あまり純粋な心ばかりでは面白くならないというのが僕の持論。適度に茶化す意地悪な目線が必要です。素敵なテーマだからと言って、それを素敵に描いてはつまらない。「テーマ(笑)」っていうくらい意地悪な目線を持って取り組んだ方が面白くなるでしょうね。

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――そもそも論として、わざわざ自分が答えのわかっているものを60分かけてやる必要はないな、と。それならTwitterにまとめてツイートするので十分という気がします。

そうですね(笑)。とても難しいところではありますが。

――こう言うと、どうしても高校生の悩みを描いた方がいいと受け取られてしまうかもしれませんが、決してそういう意味ではなく。

もちろん高校生が高校生を演じるというのは、それだけで圧倒的な武器。使わない手はありません。でも、そうじゃなくたって面白いものは必ずできる。だからぜひ言いたいことを全部説明できてしまうようなものではなく、自分が何を言いたいのか自分でも説明できないようなものにチャレンジしてもらいたいなと思います。

――次回以降は、劇作から演出に視点を移し、いろんなお話を聞いていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

INFORMATION

銀髪メインヴィジュアル今回ご登場いただいた広田さん率いるアマヤドリの次回作が、2017年1月26日より本多劇場にて上演されます。

注目の演目は、劇団15周年記念企画のフィナーレを飾る勝負の一作であり、過去に2度の上演を成功におさめたアマヤドリ渾身の代表作『銀髪』。

演劇の聖地・本多劇場初進出という劇団にとってもターニングポイントといえる今回の公演で、この作品を選んだことからも自信の程がうかがえます。

アマヤドリの代名詞とも言うべき、観る者の感覚を攪乱するような刺激的な群舞と、狂騒的なまでのスピード感、奔流する言葉のシャワーは、きっとあなたの演劇観を未知なる地平へと拡張してくれるはず。

ぜひ劇場でこの新感覚を体験してみてください。

 

■公演日程

2017年1月26日(木)           19:30★♪

2017年1月27日(金)           19:30★

2017年1月28日(土)      14:00   19:00

2017年1月29日(日)      14:00

2017年1月30日(月)      14:00◎  19:00

2017年1月31日(火)      15:00

★・・・前半割引 ◎・・・平日昼間割  ♪・・・特別なおまけ付き公演(公演パンフレットをご来場下さった皆様全員にどどーんとプレゼント!)

※ご予約の締切は、「e+」は各回前々日の18時まで、「劇団窓口」「Confetti」は各回前日の24時まで、「本多劇場窓口」では、各回前日の19時までとなっております。

※開演時間を過ぎますと、指定のお席にご案内できない場合があります。

※受付開始は開演の60分前、開場は30分前です。

※各種イベント開催予定! 詳細はWEBにて随時発表します。

※未就学児のご入場はご遠慮ください。演出の都合上、照明が暗くなったり、静かなシーンが続く場合があります。就学児だとしても、暗がりを怖がらずに2時間座って観ていられるお子様に限らせて頂きます。保護者の方には適宜判断して頂くようお願いいたします。

 

■会場

本多劇場 ※小田急線・京王井の頭線「下北沢駅」南口より徒歩3分

 

■チケット料金(全席指定)

【一般】 前売り 4500円  / 当日 4800円

【学生】 前売り3000円 / 当日3500円

【高校生以下】 前売り 1500 円 / 当日 1800 円

【平日昼間/前半割引】 前売り 4300円 / 当日 4500円

【トリオ割引】12000円(前売り・劇団窓口のみ取り扱い)

3名様でご予約をいただきますとお一人様4000円になるお得な割引です!

是非お誘い合わせの上、ご予約ください。

※その他、フリーパス制度あり。詳しくはHPをご覧ください。

 

■チケット取り扱い

1)カンフェティでのご予約(事前発券)

WEB予約 http://confetti-web.com/ginpatsu/

電話予約  0120-240-540 ※通話料無料・オペレーター対応(平日10:00~18:00)

2)イープラスでのご予約(事前発券)

WEB予約 http://eplus.jp/

3)本多劇場窓口でのご予約(事前発券)

11:00〜19:00 ※電話予約不可・一般のみ取扱い

4)劇団窓口でのご予約(当日精算)

https://ticket.corich.jp/apply/79395/

※各種フリーパス、トリオ割引はこちらのみ取扱い、他券種の当日精算分は1月中旬より受付開始。

※当日券の販売は各回開演の60分前となります。

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