広田淳一

映像は紙芝居、演劇は粘土細工。暗転で隠すのではなく、見せる方法を追求すればいい。【アマヤドリ主宰・広田淳一が語る劇作・演出論(2)】

高校生が脚本を書くとき、よくぶつかるのが「暗転が多すぎる」という壁。60分の創作劇に5回以上も暗転を挟み、観客や審査員から指摘を受けたという人もいるかもしれません。こうした場面転換の処理についてどう立ち向かえばよいのか。アマヤドリ主宰・広田淳一さんに聞きました。

(Text by Yoshiaki Yokogawa)

PROFILE

広田淳一広田淳一

1978年生まれ。東京都出身。2001年、東京大学在学中に「ひょっとこ乱舞」を旗揚げ、主宰する。以降、全作品で脚本・演出を担当し、しばしば出演。さりげない日常会話ときらびやかな詩的言語を縦横に駆使し、身体性を絡めた表現を展開。随所にクラッピングや群舞など音楽・ダンス的な要素も節操なく取り入れ、リズムとスピード、熱量と脱力が交錯する「喋りの芸」としての舞台を志向している。簡素な舞台装置と身体的躍動感を必須としながらも、あくまでも相互作用のあるダイアローグにこだわりを見せる。

2009年、2010年と連続して「アジア舞台芸術祭(Asian Performing Arts Festival)」に演出家として招聘される。2011年、韓国演出家協会主催の「アジア演出家展」に参加。ソウルに一ヶ月滞在して現地俳優と共にモリエール「ドン・ジュアン」を発表。好評を博す。

主な受賞歴に、日本演出者協会主催 若手演出家コンクール2004 最優秀演出家賞(2004年/『無題のム』にて)、佐藤佐吉賞 最優秀演出賞・優秀作品賞(2005年/『旅がはてしない』)、劇作家協会新人戯曲賞 優秀賞(2011年/『ロクな死にかた』、2012年/『うれしい悲鳴』にて)などがある。

ロゴ_カラーアマヤドリ

2001年に「ひょっとこ乱舞」として結成。2012年に「アマヤドリ」へと改称。広田淳一によるオリジナル戯曲を中心に、現代口語から散文詩まで扱う「変幻自在の劇言語」と、クラッピングや群舞など音楽・ダンス的な要素も節操なく取り入れた「自由自在の身体性」を両輪として活動。リズムとスピード、論理と情熱、悪意とアイロニー、とか、そういったものを縦横に駆使して、「秩序立てられたカオス」としての舞台表現を追求している。

暗転をさせないために劇作において気をつけたいことは?

――さて、前回は劇作をする上で漫画的・アニメ的発想から脱却することの重要性についてふれました。その象徴として特に「暗転の多用」が挙げられますが、これについて広田さんはいかがお考えでしょう。

映像なら簡単に場所の移動もできるし、空間の制約も受けない。その自由さに慣れていると、そう簡単に移動ができない演劇の不自由さを足枷のように感じてしまうかもしれません。

でも、見方を変えれば、それこそが演劇の強み。空間を共有すること。目の前で俳優が生きていること。映像なら時間を切ったり貼ったりすることができるけど、演劇はこの瞬間も進み続ける時間を共に生きざるを得ない。たとえば時間をシャッフルするような劇はあるけれど、どれだけそこで時間軸を遡っても、俳優は汗をかくことまでは止められない。その演劇の面白さを見つめることが大事だと思うんです。

――確かに。まずは「演劇とは何か」を問うことが創作では大事かもしれませんね。

どうかその問いを恐れないでほしいです。作家にしても俳優にしても、優れた人ほどその問いを延々繰り返している。こういうものだと答えを決めつけた時点で、その人の器は決まる。高校生の段階でわかる必要はないんだから、何度でもしつこく問い続けたらいいと思います。

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――その上で、いわゆる映像の脚本と、演劇の戯曲の違いと言えば、何を挙げますか?

たとえるなら映像は紙芝居、演劇は粘土細工のようなものだと僕は考えています。

新しい紙に切り替われば、それまでのことが一瞬でリセットされる紙芝居と違い、粘土細工は粘土というあらかじめ固定のものがあって、それをどう変形させるかがポイント。じっと見ていると気づいたらいつの間にかまったく違うかたちになっている。そのプロセスそのものを楽しんでもらうこと。お客さんとつながりを共有するという感覚をまず念頭に置いてみるといいと思います。

――その比喩は非常に面白いですね。映像的劇作から脱却する上で、どんなことに気をつけたら良いでしょうか?

劇作と演出、それぞれあると思うんですが、まず劇作に関することで言えば、俳優の増減を意識することですね。

演劇は、定点観測です。お客様はひとつの場所を見つめ続ける。そこに人を登場させたり、あるいは退場させることで、物語を進めたり、関係性を変化させる。この人の出し入れに関して気をつけてみるだけで、不要な転換をぐっと減らすことができると思います。
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――場所を変えるのではなく、そこにいる人たちを変えるということですね。

平田オリザさんは先に俳優の増減を決めてから書きはじめるそうです。先に場所と人の出し入れを決めて、何を話すかは後っていう。僕としては斬新な書き方ではあるんですけど(笑)。

――確かに作品を見ると、そんな気もします。

オリザさんにとっては、語りたいことありきではなく、場ありきなんでしょうね。と言っても最初からなかなか人の出し入れで話を進めるのは難しいかもしれません。そこで僕自身が意識しているのは、3人をどうつくるかということですね。

――3人をつくる、ですか?

そう。ひとりってモノローグだから書きやすいと思うんです。ふたりも対話のように見えて、ある種、自己問答だから、とても書きやすい。

それが3人になると、作家の頭の中で明らかに自分とは別人格の人物を生み出さなければいけない。その3人目が余計なことを話したり、会話を思いがけない方向に進めていくことで、新しい何かが生まれてくる。

人の出し入れを書くにしても、その場にふたりきりだとよほどの理由がないと退場させづらいですが、3人いるとその中のひとりは話に絶対的に関わらない存在にできるので、その場から出ていかせやすくなりますしね。

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――3人目がいなくなったとき、残されたふたりの空気が変わるのも面白いですよね。そもそも日常の関係性においても、ふたりだと均衡はとれますが、3人になった瞬間、パワーバランスが生じますし。

3人目がいると全然違うんですよね。これは少し邪道なんですけど、トレーニングとして、まず一旦ふたりの会話を書いて、そこに無理矢理3人目を絡ませるという練習をしてみるといいかもしれません。

たとえば会話や議論を書く際、ふたりだと内容が観念的に終始しがち。でも3人目がいると「お腹空かない?」って余計な中断が入ったり、「それってどういうこと?」と内容をまぜ返したり、あるいはまったく別個の意見を差しこんだりすることができる。話は停滞するかもしれませんが、そういうノイズが議論を面白くするし、場を活性化させるんだと思います。
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暗転をさせないために演出において気をつけたいことは?

――一方、暗転にまつわる問題について、演出面ではどんな工夫ができると思いますか?

場面転換そのものをいかに見せるかですよね。

たとえば近年の僕の芝居は気づいたら暗転が一度もないということがあるんです。暗転自体は決して悪いわけではなく、正しく活用できれば本来は非常に効果的な時間になる。だから、敢えて意識して入れたりするんですけど、暗転を一度も使うなと言われれば、じゅうぶん可能です。だからと言って、別に一幕モノのお芝居を書いているわけではありませんし。

――そうですね。どちらかというと、いろんなシーンがつながりながら展開している印象です。

なので、そのつながりをどう演出するかなんです。僕の場合は、俳優同士の身体を使ったコミュニケーションとして表現することが多いですね。

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――アマヤドリは、群舞による演出が特徴的です。

転換もひとつのシーンだと思えばいいんですよね。実際、お客さんの視点で考えても、ひたすら言葉を聞き続けるのって、少ししんどい。言葉のないシーンを上手く入れていくことで、お客さんも話の続きにすっと入りやすくなると思います。

粘土細工の話をしましたが、まさに粘土が変形していくさまを隠すのではなく、見せるということ。洗練された動きによって、時間の経過や場所の変化を表すことに挑戦するのがいいんじゃないかなと思います。

―プロの劇団もいろんな工夫をしているので、映像でもいいので、いろいろ調べて自分がいいと思うものを上手く真似てみるといいなと思います。では、次回は「言いたいことを台詞で言ってしまう」という悩みについて広田さんのご意見を伺います。どうぞ更新をお楽しみに!
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INFORMATION

銀髪メインヴィジュアル

今回ご登場いただいた広田さん率いるアマヤドリの次回作が、2017年1月26日より本多劇場にて上演されます。

注目の演目は、劇団15周年記念企画のフィナーレを飾る勝負の一作であり、過去に2度の上演を成功におさめたアマヤドリ渾身の代表作『銀髪』。

演劇の聖地・本多劇場初進出という劇団にとってもターニングポイントといえる今回の公演で、この作品を選んだことからも自信の程がうかがえます。

アマヤドリの代名詞とも言うべき、観る者の感覚を攪乱するような刺激的な群舞と、狂騒的なまでのスピード感、奔流する言葉のシャワーは、きっとあなたの演劇観を未知なる地平へと拡張してくれるはず。

ぜひ劇場でこの新感覚を体験してみてください。

 

■公演日程

2017年1月26日(木)           19:30★♪

2017年1月27日(金)           19:30★

2017年1月28日(土)      14:00   19:00

2017年1月29日(日)      14:00

2017年1月30日(月)      14:00◎  19:00

2017年1月31日(火)      15:00

★・・・前半割引 ◎・・・平日昼間割  ♪・・・特別なおまけ付き公演(公演パンフレットをご来場下さった皆様全員にどどーんとプレゼント!)

※ご予約の締切は、「e+」は各回前々日の18時まで、「劇団窓口」「Confetti」は各回前日の24時まで、「本多劇場窓口」では、各回前日の19時までとなっております。

※開演時間を過ぎますと、指定のお席にご案内できない場合があります。

※受付開始は開演の60分前、開場は30分前です。

※各種イベント開催予定! 詳細はWEBにて随時発表します。

※未就学児のご入場はご遠慮ください。演出の都合上、照明が暗くなったり、静かなシーンが続く場合があります。就学児だとしても、暗がりを怖がらずに2時間座って観ていられるお子様に限らせて頂きます。保護者の方には適宜判断して頂くようお願いいたします。

 

■会場

本多劇場 ※小田急線・京王井の頭線「下北沢駅」南口より徒歩3分

 

■チケット料金(全席指定)

【一般】 前売り 4500円  / 当日 4800円

【学生】 前売り3000円 / 当日3500円

【高校生以下】 前売り 1500 円 / 当日 1800 円

【平日昼間/前半割引】 前売り 4300円 / 当日 4500円

【トリオ割引】12000円(前売り・劇団窓口のみ取り扱い)

3名様でご予約をいただきますとお一人様4000円になるお得な割引です!

是非お誘い合わせの上、ご予約ください。

※その他、フリーパス制度あり。詳しくはHPをご覧ください。

 

■チケット取り扱い

1)カンフェティでのご予約(事前発券)

WEB予約 http://confetti-web.com/ginpatsu/

電話予約  0120-240-540 ※通話料無料・オペレーター対応(平日10:00~18:00)

2)イープラスでのご予約(事前発券)

WEB予約 http://eplus.jp/

3)本多劇場窓口でのご予約(事前発券)

11:00〜19:00 ※電話予約不可・一般のみ取扱い

4)劇団窓口でのご予約(当日精算)

https://ticket.corich.jp/apply/79395/

※各種フリーパス、トリオ割引はこちらのみ取扱い、他券種の当日精算分は1月中旬より受付開始。

※当日券の販売は各回開演の60分前となります。

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