「最初の動機なんて不純な方がいい」ジエン社 山本健介×高校生の一問一答集

高校演劇と同じフォーマットで展開する「いつ高シリーズ」。この7月、その二次創作である『いつまでも私たちきっと違う風にきっと思われているかもしれないことについて』に挑戦するのがジエン社の山本健介さんです。山本さんは、ロロの三浦直之さんが「いつ高シリーズ」の台本の冒頭に書いた「ファンタジーでなければならない」という一文の意味を探るべく、日夜たくさんの高校生と出会い、高校演劇の今を吸収しています。

その一環として開かれたのが、ジエン社 山本健介×現役高校生トークセッション。当日は座談会という枠を超え、「あなたが普通と思う人をイメージして自己紹介をしてください」「あなたが理想とする男の子から話しかけられるシチュエーションを実践してみてください」など山本さんから高校生へいろんな無茶ブリ(笑)の嵐。けれど、そんな中から「普通って何だろう」という疑問や、「私たちは何か理由がないと知らない人と話ができないのだろうか」という気づきなど、いろんな発見が生まれました。

ここでは、参加してくれた高校生(&OBOG)の方からの質問と山本さんの回答の一部をご紹介。みなさんの今後の劇作のヒントになるものが、ひとつでもあれば幸いです。

(Text&Interview Photo by Yoshiaki Yokogawa)

10年20年後の自分のための物語をつくる。

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高校生(A):地区大会で脚本・演出をすることになりました。いい脚本を書く上でのアドバイスがあれば教えてください。

山本:演劇の勉強って難しいですよね。ひとつの手として、たくさん戯曲を読むということがあると思うんですけど、実はそれが効いてくるのって10年20年後のこと。決して即効性のあるものじゃない。だから僕は今はいろいろ失敗する方がいいんじゃないかなと思う。ただ、みなさんは大会という勝ち負けの場にいる人たち。勝負の渦中にいる人が、外から失敗すればいいじゃんと言われることほどムカつくことはないですよね(笑)。

なので、僕なりのアドバイスをさせていただきます。まずひとつは、だったら10年20年先の自分のために書いてみたらいいんじゃないかってこと。10年後20年後の自分が読んだ時に、上手く書けてるなと思えるものを書くこと。それは、つまりどうすればいいかと言うと、自分の10年前を逆算してみるんです。10年前の自分が思っていたことや考えていたこと、好きだったものやカッコいいと思っていたものを脚本に活かしてみる。僕はこの前、岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートさせてもらったんですけど、その時の戯曲はちょうど18歳や19歳、当時の自分から10年前くらいの自分が、今の自分を見た時に恥ずかしいと思うんだろうか、面白いと思ってもらえるんだろうか、みたいなことを考えながら書きました。スタンドみたいに自分の後ろの方に10年前の自分がいて、ジロジロ見てるんです(笑)。そういう視点は脚本を書く上でひとつ役に立つんじゃないかと思います。

と言っても抽象的すぎるかなという気もするので、もうひとつ具体的なことを。僕はここ最近、いろんな高校演劇の戯曲を読ませていただいたんですけど、面白いなと思ったものの多くが、高校生が主役で、自分たちのことを描いたセミドキュメンタリーなんですよね。もしかしたら高校演劇とはまったくの他者――まったくの架空のキャラクターや役というものにはなれないのかもしれない。だから今の自分からスタートした半フィクションみたいなキャラクターを出すと結構強くて面白いんじゃないかなと思います。

よくエチュードから話をつくっていく方法がありますけど、あれなんてまさにそういうことですよね。半々くらいの噓を使って、「もしかしたらこれってあなたのことかもしれないよ」「俺だけはわかる、あの人はあいつだ」って思わせられるものは強そうだなって。そういうのを意識すると大会という場では勝ちやすいのかもしれません。ただ、それが本当にいいことなのかは僕にはわからない。それってファンタジーを信じていないってことだから。難しいところですね。

OB(A):そもそも脚本を書ける人がいなくて困っています。

山本:それはね、俺でもできるって思って書いてみることが一番です。この程度なら俺でも書けるって甘く見ること。覚悟とか決めなくていいし、責任感なんて感じるなって言ってあげたい。よく言うじゃないですか、「書いた以上は責任を持って」とか、「演劇やっていく覚悟はあるのか」とか。いらねえよ覚悟なんてって思います。

入口に立っている人間が覚悟なんているかって。そんなのは覚悟ってのを言いたい人が言っているだけ。覚悟や責任なんて10年やっていればついてくる。それより脚本を書く最初の動機なんて不純な方がいいと思うんですよ。俺がモテたいとか。この女優にエロいこと言わせたいとか(笑)。そこからとにかく書いて、たとえ自信がなくても「俺が書いた方が面白いし」って言い切って、たくさん失敗すればいいと思います。

高校生(B):大人を演じるのが難しいなと思います。上手い演じ方はありますか?

山本:難しいよね。僕も事情は同じで、今度は大人である僕たちが高校生を演じなければいけない。どっちも噓なんですよね。大人が制服を着て高校生って言い張ることのカッコ悪さってあるし、高校生がスーツを着てサラリーマンっていうのも何だかなっていう違和感がある。でもその気持ちは大事にした方が良くって。

違和感あるけどねっていうテイをとることは作戦としてありだと思います。敢えて高校生が大人を演じてますけど感を出すというか、「私たちは高校生なのに大人の服を着てますけど何か?」みたいなところからスタートするといいのかもしれません。

どんなに真剣に大人を演じても、ガワをやればやるほど高校生であるということが出てしまうんですよね。一生懸命大人のサラリーマンの動きをトレースすればするほど高校生というものが浮かび上がってしまう。その気持ち悪さを隠そうとするのか、それとも見せようとするのか。僕は、自分の気持ち悪さを面白がってもらうサービス精神を持つことは大事かなと思う。大人を描いているけれど、実は高校生を描いていますみたいな、それを逆手に取るような作品にしてみたらいいんじゃないでしょうか。

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OB(B):卒業して親の事情で演劇を一旦離れています。でも演劇の糸は切りたくなくて。1年間、何もしなかったら、今まで続けてきた演劇ともぷっつり糸が切れちゃうと思うから。こういう場に来ることで、ちぎれそうな糸をつなげられるんじゃないかと思って、今日、やってきました。

山本:僕も3.11の時、ちょうど公演前で、稽古を一時中止にしたんですよ。この状況で演劇は続けられないと思って。その時、俳優さんに指示したのは、「表現者の目でこの街を見ていてください。それが稽古です」ってことでした。たぶん君にも同じ指示を出すんじゃないかなと思う。表現者として、演劇をやっていない今の状況をよく見ておいてほしい。それは途切れることのない稽古だって。そういう目を持っていることが、僕は表現者なんじゃないかなと思っています。

OB(B):僕も昔からのクセというか表現者の目ってあると思うんですけど、舞台上で演技する時も、だいたい自分の経験から「こういう時はこういう振る舞いをすれば、性格とか気持ちを表現できるかな」って考えながら演じるようにしています。こうやって喋っている時にも、その引き出しを増やすヒントがいっぱい隠れている。相手の反応を見ながら、こういう立場の人はこういう話し方をするんだって観察したりとか。演技の稽古をしているわけではないけど、日常で人と喋ったり街を歩いているだけでも汲み取れるものがいっぱいあるんじゃないかなって、そういう意識で生活しています。

山本:だったら、第二段階として、じゃあそれをいかに他の人に伝えていくかということにぜひトライしてみてほしい。舞台で公演をする以外にもできることっていっぱいある。今自分がそういう目で世界を見ているということを、誰かに話してみるのもいい。すぐ隣の人でもいいし、身近な人――たとえばお母さんに「今日はこんなことあったよ」って話をすることも演劇という方法を使った何かだと思ういます。いちばん自分の身近な人って、実は話す動機がないんですよね。だけど、ファンタジーというものを使えば、話す動機のない人に話すことができる。「今日こんなことがあったよ」って勇気をもって話すことができるか。それが演劇の力のひとつなのかなと思っているんですよね。

あともうひとつ、お芝居は経験したことがないことでも、想像力で補うことができます。じゃあ想像力を養うためにどうすればいいかと言うと、自分の理想が即言えるような欲望を常に持っておくこと。ただし、人から借りてきたような理想は上滑りになります。自分はこういうことをするとすげえ喜びなんだなってことをリアルに妄想できるところまで落としこむことが大事です。

その特訓として、たとえば今日この座談会が終わって、駅に着いた瞬間から全部都合のいい理想の未来が起こるとしたら、3年後10年後自分はどうなっているかということをイメージしてみてください。勉強するとするする頭に入るようになるとか。彼女ができるでもいいです。ただし、いきなり彼女が降って湧いてくるっていうのだとリアリティがないからダメ(笑)。たとえば、クラスにいる女の子と何か事件が起きて、そこから関係が進んでみたいなイメージだといいと思う。そういうイメージがすぐに出てくる想像力が持てると嬉しいなって。それもまたひとつの途切れない稽古なんですよね。

INFORMATION

ジエン社
ジエン社の新作「いつまでも私たちきっと違う風にきっと思われているかもしれないことについて」は
2016年7月下旬、アーツ千代田3331 B104にて上演予定。
ロロの三浦直之さんがつくり出した「いつ高シリーズ」の世界観を、山本さんがどう再構築するのか。
そしてワークショップオーディションを経て決定した出演者にも注目です。
今後の情報についてはジエン社公式HPをご覧ください。

PROFILE

山本健介

■山本健介

脚本家、演出家。

1983年生まれ。埼玉県出身。

早稲田大学第二文学部卒業。演出家の宮沢章夫氏に師事。

「作者本介」の名義で自身のみによる表現ユニット「自作自演団ハッキネン」を立ち上げ、テキストを用いたパフォーマンスを展開。

2007年に12月にジエン社を旗揚げ。以降、ジエン社の全作品の脚本と演出を務める。

劇団外の活動として、映像のシナリオも手がけ、舞台、映画、TVドラマに脚本を提供する他、ゲームシナリオ、イベントテキストや構成、キャラクター設定、Vシネの脚本などを手がける。

2016年、「30光年先のガールズエンド」が岸田國士戯曲賞最終選考にノミネート。

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