キャラメルボックス大森美紀子が語る、私が高校演劇に惹かれる理由。
高校演劇の魅力って何だろう。意外とそれって当事者である自分たちにはよくわからないものだったりしますよね。演劇という広い括りの中では、他の演劇と何も変わらないんだけれど、やっぱりどこかプロが演じる舞台とは違う特別なものが、高校演劇にはある気がします。ということで、そんなプロの目から見たときに高校演劇はどう映っているんだろうということを聞きたくて、この人に会いに行ってみました。
演劇集団キャラメルボックスの大森美紀子さん。高校演劇の定番である『銀河旋律』の初代・はるかさん。その15年後を描いた『広くて素敵な宇宙じゃないか』でも主人公のおばあちゃん役を演じた、まさにキャラメルボックスの永遠のヒロイン。キャリアを重ねた今も、溌剌とした明るさで舞台に華を添え続けています。
大森さんは、2013年度の東京都高等学校演劇中央発表会(通称・都大会)で審査員を務めたのをきっかけに、今年の都大会にも忙しい合間を縫ってプライベートで訪れるなど、熱心に高校演劇を応援されています。そんな大森さんに、なぜ高校演劇に惹かれるのか、その理由を聞いてみました。
(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)
1961年4月29日生まれ。東京都出身。玉川大学卒業後、演劇集団「円」養成所を経て、1985年、演劇集団キャラメルボックスに入団。『銀河旋律』はるか役、『広くてすてきな宇宙じゃないか』おばあちゃん役など代表作多数。結成時から今日に至るまで、キャラメルボックスの顔として第一線で活躍中。
高校演劇は、高校生しかできないから面白い。
――Twitterなどを拝見していると、よく高校演劇のこともつぶやかれていますよね。いつ頃から高校演劇をご覧になるようになったのでしょう?
ずっと前に夫(西川浩幸)が高校演劇の審査員をしたことがあって、「すごく面白かった」って言ってたんですよ。それで、ちょうどテレビ放送があったので観てみたら、めちゃくちゃ面白くて。そのとき、私が観たのは、畑澤(聖悟)先生の『修学旅行』でした。
――05年に全国最優秀賞を獲った作品ですね。
そこからずっと興味があって。実際に生で観たのは、13年に都大会の審査員をさせていただいたときが初めてでした。それが本当に面白くて、もうビックリ。他の審査員の先生方とも「これ、お金を払わずに観てもいいの?」って言い合ったくらいです(笑)。
――何にそんなに魅力を感じたのでしょうか?
私は、みんなが同じ方向を向いているお芝居が好きなんですね。そのときの大会に出ていた高校の作品は、どれもみんなちゃんと同じ方向に向いているなって感じられた。それが心地良かったというのがありますね。
――その中でも特に心に残った学校があれば教えてください。
都立駒場高校の『さようなら、解散。』ですね。もうボロボロと泣いてしまって。大会が終わってからも劇団のみんなにこの作品の素晴らしさを熱弁し続けていました(笑)。そしたら、多田くんだったかな、「そんなに面白かったなら、自分でやればいいじゃないですか」って言われて。だけど、それは違うんですよね。私たちがやっても面白くはならない。高校生がやるからこそ輝く作品だったんです、あの『さようなら、解散。』は。
――確かに高校生という限定性ゆえの眩しさが、高校演劇にはあります。
私がどうしてこんなにも『さようなら、解散。』に惹かれたかというと、あの子たちがそのときの今の自分を見せてくれたからなんですね。自分たちは今こんなことを思っているんだ、という頭の中を見せてもらえたというか。もちろん高校演劇だからって必ずしも自分たちの話をやってほしいなんていうわけではありません。審査員の先生にもそれぞれの考えがあると思います。でも私は、そういう高校生にしかできないものを見せてくれると感動するし、好きだなと思うんです。
たくさんの素敵なものを観て、自分の世界を広げてほしい。
――一方で、高校生の舞台をご覧になっていて気になることや、もっとここを改善してみたらいいのにというアドバイスはありますか?
みなさんそれぞれ素晴らしいし、演出の考えもあるから一概には言えませんけど、俳優としてのテクニックよりも、むしろもっと細かいところの方が目につくかもしれません。
――と言うと?
たとえばせっかくの衣裳がシワシワになっているとか。これなんて、アイロンをかけるだけで簡単に解決することですよね。だからちょっともったいないなというか。そうした細かいところに気をつけてみるだけで、お客さんの印象は変わるんじゃないかなと思います。
――わかります。そうした小さなノイズが作品世界に没入する妨げになってしまうことはありますね。
あとは、大きい劇場に立つ上で、もう少し注意を傾けてみるといいなと思うのが、立ち方です。小さな劇場と違って、大きな劇場の場合、爪先から頭のてっぺんまで全部見える。だから、ちょっと姿勢が前傾だったりすると、少し目立ってしまいますよね。
――確かに。ついつい台詞にばかり気をとられてしまいますが、台詞を話している時間より、普通に立っている時間の方が長いわけですから、お客さんに見られているということを考えると、立ち方は非常に重要です。
すごく難しいんですけどね。袖から出てきて歩くだけでも本当に難しいと思います。
――中には、台詞はすごく熱演なんだけど、それに身体がついていっていないなと感じる人も見受けられます。
そういう場合、声の出し方から見直してみるといいかもしれません。台詞を話すときに、首から上だけで気持ちをつくってしまう人がいると思うんですけど。そうではなくて、もっと足腰を使ってみるといいと思います。
――足腰ですか?
重心を下にする、と言えばいいでしょうか。特に気持ちが昂ぶったときのお芝居ほど、つい身体の重心が上に上に行ってしまうと思うんですね。けれど、そんなときこそ重心を下に下に下げてみる。言い換えると、地面にしっかり足をつけるということですね。台詞を言うときに、踵や爪先が浮かないように、ぴったりと足をつかせる。それだけで、お芝居が安定するし、ぐっと力強いものになると思います。
――そうした重心の低いお芝居をするために、大森さんが日頃から取り組まれている練習方法があれば、ぜひ教えてください。
呼吸の練習なんですけど、まずは背筋を伸ばして椅子に座ります。足はきちんと地面につけて。そして鼻から息を吸い込みます。その吸い込んだ息を、お尻の下あたり、骨盤の間から吐くような感じですね。この呼吸の訓練を繰り返しやっています。そうしていると芯のブレない呼吸というのが身につくし、自然と重心を下げる感覚がわかってくる。最初は難しいかもしれませんが、気になる人は試してみてください。
――読者からも「もっと上手くなりたい」という声はよくいただくのですが、なかなか難しいですよね。
本当に大変だと思います。私もまだ勉強中。課題は全然尽きません。上手くなるためにはやるべきことがたくさんあって、だからこそ漠然とただ「上手くなりたい」と考えているだけではダメだと思います。まずは「上手い」ってどういうことなのか、具体的に考えてみるのはどうでしょうか。大雑把に「上手くなりたい」と考えるのではなく、何が上手くなりたいのか。台詞なのか、感情表現なのか、あるいはもっと別のことなのか。それをきちんと明確にして、そのために必要な練習をすることが大事なのかなと思います。
――ありがとうございます。最後になりましたが、読んでいる高校生に何か伝えたいことはありますか?
いろいろと技術的なお話をしましたけど、それよりもいちばん伝えたいのは、ジャンルを問わず、もっといろいろなものを観てほしいということです。お芝居にはいろんなジャンルがあります。大劇場のお芝居もあれば、小劇場のお芝居もある。エンタメも、新劇も、大衆演劇も、歌舞伎も、それぞれに、それぞれにしかない面白さがあります。まずはそうしたものにいっぱいふれてほしい。
以前、高校演劇を観に国立劇場まで行ったのですが、そのとき少し残念だったのが、せっかく郷土芸能とか素晴らしい発表がされているのに、それを観ている高校生が少なかったことでした。自分たちのお芝居だけじゃなく、もっといろんな世界に視野を広げてほしい。そして、そこから多くのものを感じ取ってほしい。お芝居だけでなく、美術館でもいいし、スポーツ観戦でもいいんです。自分の知らない世界に、素敵なものはたくさんある。高校生という素晴らしい時期に、そんな宝物にたくさんふれて、素敵な大人になってほしいなと願っています。
INFORMATION
そんな大森さんが出演するキャラメルボックスの最新作『ティアーズライン』が12月15日よりサンシャイン劇場にて開幕。12月28日・29日には明石市立市民会館でも上演を行います。大森さんが演じるのは、物語のキーパーソンである主人公のお母さん。舞台上でキラキラと輝く大森さんの姿をぜひ観に来てください。
※こちらにて初通しの模様も掲載中!併せてご覧ください。
■キャラメルボックス2017ウィンターツアー『ティアーズライン』
<脚本・演出>
成井豊
<出演>
畑中智行、阿部丈二、多田直人、大森美紀子、西川浩幸、坂口理恵、三浦剛、森めぐみ、石森美咲、大滝真実、山崎雄也、元木諒、山根翼
<スケジュール>
○東京公演
日程:2017年12月15日(金)~25日(月)
会場:サンシャイン劇場 ※東京メトロ有楽町線「東池袋」駅 6・7番出口より地下通路で徒歩5分
○兵庫公演
日程:2017年12月28日(木)・29日(金)
会場:明石市立市民会館(アワーズホール) 大ホール ※JR・山陽電鉄「明石駅」より徒歩15分
※詳細は公式ホームページをご覧ください