多田直人
【多田直人インタビュー】役者・多田直人、31歳の決断。
「女の子が多いから、モテるかなと思って(笑)」。高校入学と共に演劇部に入部。初めて演劇の世界に足を踏み入れた理由を、そう照れ臭そうに明かす。しかし、そんな不純な動機で飛び込んだ演劇は、やがて自らの天職となった。演劇集団キャラメルボックスの俳優・多田直人、その人のことである。
数々の主演舞台を経験し、看板俳優のひとりに成長した多田は、最新作『BREATH』の出演をもって、しばらく外部の仕事に専念することを宣言した。充実期の多田が下した決断の真意とは――31歳・役者 多田直人の覚悟から、進路に迷い、夢に悩む高校生もきっと多くのことを学べるはずだ。
(Text&Photo by Yoshiaki Yokogawa)
劇団30周年を締め括る作品が、『BREATH』で良かった。
――最新作『BREATH』も神戸初日まであとわずか。手ごたえはいかがですか。
今回は出演者が劇団員だけですが、Wキャスト含め20名。だからいつもに増して稽古場が狭くて(笑)、賑やかで楽しい雰囲気です。
『BREATH』は、映画『ラブ・アクチュアリー』がモチーフ。登場人物1人ひとりにストーリーがあって、これが初舞台となる新人3人もベテランもみんな同じくらいの台詞量と責任があるんです。だから、みんなすごくやりがいを持って稽古をしているし、キャラメルボックスは1人の主人公が怒濤の運命に振り回されていく姿を描く作品が多かったので、そういう面でもすごく新鮮だなって感じがしますね。
――それだけ多くの登場人物が出てくる群像劇だと、舞台の上に立つ役者さんも普段とは違う苦労があるのではないでしょうか。
そうですね。この話は2人だけのシーンが多いので、その分、会話の面白さやお互いの関係性の面白さがつまっている。そこが、やっている側も観ている側も楽しいところじゃないかなと思います。
ただ、2人しか出てこない場面が続くからこそ、次の場面へのバトンの受け渡しに気を配っていかなきゃいけない。ここはどういうシーンでどういう空気感でいこうかということを、自分の出演シーンだけじゃなく他の人が出ているシーンも見てバランスを感じ取りながらつくっていく。そういうところがいつもと違って、細かく神経を使っているところなんじゃないかと思います。
――本作では、過去の人気作品のキャラクターも登場するとか。高校演劇的には、『銀河旋律』『広くてすてきな宇宙じゃないか』の柿本光介が登場するというのも見逃せないポイントです。恐らく高校演劇を経験した人なら、やったことがあるという人も多い役どころではないかと。
そういう話のつくり方ができるのも30周年やってきた劇団だからこそ。そこはもう圧倒的な強みというか楽しさだなって自信を持ってお薦めしたいですね。
キャラメルボックスは今年30周年を迎えましたけど、この30周年を誰よりも喜んでくれているのは、今まで応援してきてくださったお客様。僕たちはお客様に喜んでいただくために、いつもと違うことをやってみようという感覚でこの1年突っ走ってきました。だからこそ、劇団30周年の締め括りが、劇団員だけでつくる『BREATH』という作品で良かったと思うし、この年を締め括るにふさわしい作品になりつつあるという手ごたえもあります。
ポスターの真ん中にいる自分が不思議。
――多田さんの入団は2004年。今や劇団を背負う中心的存在となりましたが、自分の立ち位置について思うところってありますか?
不思議ですね。あんまりしっくりきてないんですよ、自分がポスターの真ん中にいるとか。ずっと自分は異端であるなということをひしひしと感じながらやってきたので。
――それは何か演劇的バックグラウンドが違うという意味ですか?
僕は20歳で入団したんですけど、最初にビックリしたのは、劇団員もスタッフさんもいい人しかいないということ。20年間生きてきて、これだけ親切にしてもらったことはなかったので(笑)。こんな眩しい場所に自分がいていいのか、その中で自分もそんな存在でいられるのかって戸惑いはありましたね(笑)。
――そもそもどうしてキャラメルボックスに入団したんですか?
僕も地元の釧路で高校演劇をやってたんです。それこそ、高校時代、実は『銀河旋律』で柿本光介役をやったこともありました(笑)。
大会にも出ていましたよ。と言っても、3年間、地区敗退で1度も上に行けたことはありませんでしたけど。
キャラメルボックスに初めてふれたのは高校の時。顧問の先生が当時、スカパー!で放映されていたキャラメルボックスの作品を録画して、ビデオを部室に置いてくれていたんです。その中から先輩が好きな作品を薦めてくれて。自分から能動的にというより、受動的にキャラメルボックスのお芝居を観ていました。
――それでキャラメルボックスに入ろうと。
いや、そんなことはまったく考えていませんでした(笑)。
高校を出て、勉強はやってこなかったし、他になりたいものもなくて。演劇は好きだったから役者になりたいと思って、桐朋学園大学短期大学部芸術科演劇専攻に進学したんです。で、卒業する時に、とにかくどこかに所属しなければいけないと思って、最初のうちに受けたオーディションがキャラメルボックスでした。
――それで、そのまま合格して入団に。つまり、熱烈な第一志望というわけではなく、いくつもある選択肢のひとつだったわけですね。
そうなんです。絶対にキャラメルボックスに入りたいって熱意を持って入団してきたわけじゃないので、周りとの熱量の差はありましたね。
それこそ、短大にいた頃は現代口語演劇が盛んになりつつあった時代。僕もそういう芝居にハマッていたし、やりたいと思っていたので、エンターテインメントな作風のキャラメルボックスに決まって、友達からも「大丈夫か? 肌合うか?」って心配されながら入団しました(笑)。
受け継いできたことを、切り崩しちゃいけない。
――そう言えば、ブログでも「10年もいないだろうな」と思って入団したと書いていらっしゃいましたね。それが、今では入団12年目。転機になったのは?
まずは初めて主演をさせていただいた2009年の『さよならノーチラス号』ですね。ここで自分の実力のなさを思い知らされました。それまではどこかで若いなりの思い上がりというものがあったんですね。それをここで思い切り打ちのめされた。おかげでそれからは自分はできないんだという開き直りをもって役というものに向き合えるようになったと思います。
――ずっと戸惑いのあったキャラメルボックスへも愛情を持てるようになった。
それはもう少し後ですね(笑)。20代の頃は野望だらけで、キャラメルボックスは通過点のひとつだと思っていました。
そんな中、2011年に震災が起きて、キャラメルボックスが今まで以上に怒濤の公演数で突っ走るようになって、僕もより演劇漬けの毎日になった。それが大変だったけど、すごく楽しかったし、充実していたんです。こんなにもひたすら演劇ができるのは、キャラメルボックスだからこそ。そういうステージを用意してくれているキャラメルボックスという場所に感謝できるようになったし、一緒につくってくれる仲間がいるということをただただ素晴らしいと思えるようになったんです。
――看板俳優としてセンターを張ることに対する自覚や責任を持てるようになったのは?
『無伴奏ソナタ』のあたりぐらいからですね。主演を張るということは、単に芝居の中身だけでなく、公演全体を引っぱっていかなければいけないんだということを、その頃からようやく考えられるようになりました。やっぱり後輩ができたことが大きいと思います。先輩に教えてもらったことを自分もやっていかなきゃいけないんだっていう責任感がおのずと出てきた。キャラメルボックスを支えるというよりは、今まで受け継いできたことを切り崩しちゃいけないと考えるようになりました。
ここで打ちのめされても、僕には演劇があるから構わない。
―そんな中で、どうして今、キャラメルボックス以外の外部の仕事に専念されることを決めたんでしょうか?
さっきもお話ししましたけど、20代の頃は、テレビに出てやるとか、お金持ちになってやるとか、売れてやるぞみたいな野望がいつもあったんです。でも、いつの間にか演劇に携わってさえいれば幸せだな、充実しているなって感覚にシフトしていた。で、ある時、ふっと考えたんですよ。そんな野望のない役者がいていいんだろうかって。
同じ演劇でも、いろんなパターンがある。「もっといろんなやり方や作品を知ってみたいという気持ちは役者として当たり前の欲求だ」と、成井豊が送り出してくれました。でも、僕は一切自信がないんですよ、外の現場でお仕事をすることに。でもそうやって成井に背中を押してもらえたことで決断できたようなところがあります。ここで打ちのめされても、僕には演劇があるし構わない。だから、やるだけやってみようかなって。
――心境としてはギラギラしている感じではない?
すごく不安です(笑)。
――大抵の人はそんなふうに年齢を重ねることに夢をリサイズして、目標をスケールダウンして、でもそれもまた人生だって現状肯定していくものです。けど、多田さんはそこから脱却しようと決めた。
来年1年がどうなろうと、キャラメルボックスのことはすごく大好きだし、帰ってこないつもりではないので。むしろ帰ってきた時にちゃんと何かは持ち帰られるようにしないとなって思っています。挫折でも絶望でもいいから何かを味わって人間的に何か深みのある状態でまた帰ってきたいなって。もし何も仕事がない状態でも(笑)。
高校生のうちから、大劇場を意識した演技を磨いてほしい。
――では、ここからは改めて高校演劇について。多田さんは、この夏、何校かの学校に直接ワークショップに赴いていますよね。そういう活動をしようと思ったきっかけは何だったんですか?
『カレッジ・オブ・ザ・ウィンド』のバックステージツアーで直接高校生とふれ合う機会があって。すごくキラキラしながら質問をしてくれる高校生たちを見て、自分にもこんな時期があったなと懐かしくなりました。でもその一方で、僕らが当たり前と思っていることも彼ら彼女らにとっては新鮮ですごく楽しいことだって気づいて。なら、ちゃんとそれを自分たちが教えていかなくちゃいけないんじゃないかと思ったんです。
――実際にやってみて、どんなことを感じましたか?
演劇人は謙虚な人が多いので、自分からどこかに行って何かを教えるということがなかなかできない。でも、僕たちが持っている知識や技術をほしがっている人は確実にいる。だったら自分が動いて、プロの演劇の端っこでもいいからふれてもらうってことは、演劇を育む意味でも、お客様を育む意味でも大事なことなんだって改めて実感しましたね。
――いろんな地域の高校生にふれて、もっとこうした方がいいと思ったことがあれば教えてください。
みんな明るいし礼儀正しくて、いい子ばっかりだと思いました。ただ一方で、東京近郊の高校生に比べると、その他の地域の高校生は少しシャイで、それが表現をする上で壁になっている気はしますね。
東京の高校生はいつでも演劇が見られるし、路上でもいろんなパフォーマンスをやっている。何かしらの表現にふれる機会が多い分、表現することに対して恥じらいがないんです。地方だとなかなか劇場に行くことは難しいかもしれません。だけど、音楽でも映画でもお笑いでも、それこそ友人のバンドのライブでも何でもいいんです。何でもいいから、何かしら表現にふれて、表現に対しての壁をなくすことが大事なんじゃないかなと思いました。
――では、日々レベルアップを目指す高校演劇生にアドバイスがあればお願いします。
すごく具体的な話になりますけど、まずは自分の演技を撮影してみてください。最初は恥ずかしくて見られないかもしれないけど、その自意識をなくして、自分の演技を客観的に分析して、自分のやりたい演技と他者から見られている演技のズレをなくすこと。僕たちも稽古場の風景をiPadで撮影して、みんなでチェックしたりしています。今はスマホで簡単に録画できるから、自分の立ち姿や声の出し方を逐一チェックして、何が面白いか何が面白くないかを自分の価値観でちゃんと判断することが大事なんじゃないでしょうか。
――最後に、「演劇で食べていくこと」を目指す人たちに、12年間、「演劇で食べていくこと」と向き合い続けてきた多田さんだから伝えられるメッセージがあればぜひ。
率直に言うと、小劇場での活動だけでは生活は成り立たないと思います。演劇で食べていきたいなら中劇場から大劇場を意識した演技ができるようになった方がいいと思います。小劇場には演劇の楽しさがつまっていると思うんですけど、そこの深みにハマりすぎないで、ビジネスとしての演技ができるようになること。
僕も学生の頃はまったくそんなことを考えていなくて、小劇場の楽しさにハマッていました。でも、こうやってキャラメルボックスに出させていただいて、大きな劇場で通用するお芝居とは何かなと考えていくうちに、自分がやりたいと思っていた芝居と、お客様に観せる芝居には違う部分があると思ったんです。体力づくり、声の出し方、立ち姿、小劇場と大劇場では通用する演技が確実に違う。そのどちらもできるようになったらいいですよね。
人と共演するのが楽しい、演技って楽しいだけじゃなく、三間離れた人と日常会話ができるような演技ができなければ、演劇では食べていけない。まずは、そういうことを意識してみるだけでいいんじゃないかなと思います。
INFORMATION
そんな多田さんが出演するキャラメルボックス最新作『BREATH』は、
2003年に公開された恋愛映画の名作『ラブ・アクチュアリー』をヒントにした、
15人の男女が織りなす、心温まるクリスマス・ラブストーリー。
キャラメルボックスが贈る幸せのクリスマスプレゼントをあなたも劇場で受け取ってください。
■キャラメルボックス30th Vol.5『BREATH』
<作・演出>
成井豊
<キャスト>
多田直人、岡内美喜子、大森美紀子、西川浩幸、坂口理恵、菅野良一、畑中智行、三浦剛、阿部丈二、鍛治本大樹
<ダブルキャスト>
RED…林貴子、伊藤ひろみ、大滝真実、石森美咲、山﨑雄也
GREEN…森めぐみ、石川寛美、小林春世、金城あさみ、毛塚陽介
<ストーリー>
12月。東京都内の劇場に勤める堀江恭子に、高校時代の同級生の赤星一馬から電話がかかってくる。
一馬は「明日のニュースを見てくれ」と言う。翌日、テレビを点けると、そこに一馬が映っていた。
一馬は新人作家を対象とした芥山賞を受賞したのだ。それを見て、恭子は高校の卒業式を思い出す。
別れ際、一馬は恭子に向かって、「僕が芥山賞を取ったら、結婚してほしい」と言ったのだ。
「あいつ、まだ覚えてやがったのか。あれから15年も経ったのに」と呆れる恭子。
ところが翌日、一馬が家へ訪ねてきた…。
<神戸公演>
2015年11月19日(木)~2015年11月23日(月・祝)
新神戸オリエンタル劇場
S席(1F・2F指定席)6,800円 A席(3F指定席)5,500円
ユースチケット(24歳以下) 4,000円
小中高生シート 1,000円
OVER60(60歳以上) 4,000円
<新潟公演>
2015年11月28日(土)~11月29日(日)
りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
S席6,800円 A席5,300円
U-25シート(25歳以下※未就学児を除く) 2,500円 ※取扱い:りゅーとぴあのみ
<東京公演>
2015年12月10日(木)~12月25日(金)
サンシャイン劇場
平日 S席(1F指定席)6,800円 A席(2F自由席)5,500円
土日祝・12/25ステージ 全席6,800円
ユースチケット(24歳以下) 4,000円
小中高生シート 1,000円
OVER60(60歳以上) 4,000円
○インターネット予約
○チケットに関するお問い合わせ
演劇集団キャラメルボックス
TEL:03-5342-0220
FAX:03-3380-1141(12:00~18:00 日祝休み/公演中は16:00まで 日祝休演日休み)
○公演ホームページ
PROFILE
1983年12月17日生まれ。北海道出身。釧路江南高校で演劇部に入部。その後、桐朋学園大学短期大学部芸術科演劇専攻を経て、2004年、演劇集団キャラメルボックスに入団。2009年、『さよならノーチラス号』で初主演。以降、劇団の中心メンバーのひとりとして主要な役を次々と任されるように。代表作に『無伴奏ソナタ』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『鍵泥棒のメソッド』などがある。2012年より多田直人案と題し、毎年自主企画を開催。2014年の第3回発表会 独り芝居『審判』では2時間超の一人芝居に挑戦し、大きな収穫を得た。